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王太子 ー密議ー

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「父上! あれはどういうことですか?」


 ロレンツオは真っ正面に座る父、国王ラムスに必死に説明を求めた。



 国王ラムスがバーランたち三人に勅命を告げるとガルシア国第三王子ウラル率いる連合軍は大広間を去っていった。元マルシア公爵の屋敷に戻り残務処理と捕らえた帝国の者たちを尋問し他の潜伏先がないか確認するそうだ。早急にそれらを終わらせ、それぞれが自国に戻れるように祝勝の宴も辞退している。

 そこにラハメムト国の王太子ホストルも同行していった。怖いもの見たさに品のない国一番の令嬢の部屋を見たいと言って。


 連合軍が大広間から出た直後に国王ラムスは開会宣言をしたが集めた貴族には待機を命じ王族のみその場を後にした。


 今、大広間では衛兵や文官たちによる大規模な仕分け作業が行われている。

 集められていた貴族たちは元マルシア公爵と親密な関係にあった者たちは捕らえられた。厳しく取り調べられ、関与の度合いによって下される刑が決まることとなっている。

 件の草で作られた美容液のみ関わっていた者たちは別室に集められ、購入経路や使用期間等を詳しく聞かれることとなっている。法外な金額で取引されていたソレは禁止されていた物であり知らなかったではすまされない。金の代わりに苗床となる人を渡していた者がいたことも分かっているため、こちらも厳しく取り調べることになっている。

 無関係だと思われる者たちもそれが本当だと立証できるまでは大広間で待機、帰宅することを許されなかった。


 そして、元マルシア公爵たち三人はそれぞれの出発の時まで別々に貴人牢に入れられた。当主スイリル・マルシアと側室のノチナタにはラハメムト国の兵が見張りにつくことになった。サリアーチアには女性兵が見張りについている。スイリルとサリアーチアは聞くに耐えない騒音を撒き散らすため、始終両手足を縛られ食事以外は猿轡を噛まされた。


 王妃ニコラは新しい婚約者が決まった娘アルシアと末息子シィスツサを連れて自室に戻り、ロレンツオは父である国王ラムスの執務室に呼ばれていた。


 国王ラムスは目の前に置かれたお茶を優雅に飲んでいる。


「あれは、あれでは彼らに死にに行けと言ったようなものではないですか!」


 カチャリ、と小さな音を立てて茶器が机に置かれる。

 ロレンツオはゴクリと喉を鳴らし、国王ラムスが口を開くのを待った。


「私と妃ニコラの婚姻の意味は分かるな」


 だが、国王ラムスの口から出たのは思ってもみなかった言葉だった。


「父上!」

「ロレンツオ、答えよ」


 口調は穏やかだが、有無を言わさぬ圧がその言葉にはあった。


「……。皇国との絆を深くし、その血をこの国に混ぜるため……」

「そうだ、お前とティーティアとの婚姻と同じだ。国のために結ばれた婚姻。私と妃の子を次の王とするための」


 だとしたらおかしい。この前言っていたことと矛盾する。


「妃が兄である皇帝に掛け合い、お前がティーティアに相応しくなければ、ティーティアの子とアルシアかシィスツサの子と婚姻させると話をつけてあった」


 ロレンツオは唇を噛み締めた。国王ラムスは()()()()()()()とは言わなかった。バーランが王や王配に相応しければ、ロレンツオは死を賜っていたのだろう。今後の禍根を残さぬように。


「で、あやつらの処分であったか?」

「そ、そうです。何故あんな命を?」


 国王ラムスはフッと鼻で嗤った。そんなことも分からないのか、と。


「お前は何度も失態を犯したのに今もその座にいられるのは何故だと思う?」


 ロレンツオはウッと言葉を詰まらせた。自分が何度も間違えたのは分かっている。だが、今はその話をしているのでは……。


「まあ、ティーティアへの態度は許されることではないが、マルシナ公爵家(ぐずども)からの幼い頃からの刷り込み、それを正せなかった我らにも責はある」


 サリアーチアとマルシナ家の使用人の言葉を鵜呑みにし、ティーティアを虐げてきた。周りから何度も諌められても聞かなかったのはロレンツオたちだ。


「お前は何度もティーティアとの婚約解消を望んだ。何故それが通らなかったのか今でも分からないか?」


 ロレンツオの視線が下に下がっていく。あの頃はもう意味の無い盟約など守らなくてもいいと本気で思っていた。


「相手国は盟約を守っている。平和になったからと国と国との約束事を相手国の承諾を取らずに反古出来ないと何度もお前たちに言った。なのにお前たちは案一つ出さずに婚約破棄を宣言しするという暴挙に出た」


 ロレンツオは落ちていく視線を止められなかった。平和になっているのだから、ラハメムト国の許可など必要と思わなかった。向こうも化石となった盟約などもう忘れているだろう、と。それは直ぐに甘い考えだと思い知らされた。

 国境に陣取るラハメムト国の軍が動きを見せたのは、ティーティアに婚約破棄を告げた翌日だった。戦を回避するため、ロレンツオが公の場で公表した婚約破棄は直ぐ様撤回され、それどころかティーティアとの婚姻は早まった。ロレンツオは異を訴えたが、国を戦場とするのかと逆に責められ承諾するしかなかった。全てロレンツオの責なのに望まぬ婚姻をさせられて溜まっていく鬱憤を全てティーティアにぶつけていた。


「まあ、お前たちにそう思わせたのもあのスイリルたち(くずども)だがな。お前たちはまんまとスイリルたち(くずども)の後ろにいるセンスタの者たちに踊らされていた」


 国王ラムスは大きく息を吐き椅子の背に体を預けた。


「で、それだけのことを仕出かしたお前が未だにその地位にいるのは何故だと思う?」


 ロレンツオはグッと手を握り締めた。

 踊らされていた。

 その言葉に怒りと羞恥で頭が上げられない。


「ティー、ティアの夫になれる者が私とバーランしかいなかったから……」


 ロレンツオはどうにか答えを絞り出した。


「あやつらとしてはお前の座に屑の娘に懸想しているバーランを据え、行く行くはこの国を乗っ取るつもりだったのだろう」


 ロレンツオは顔を上げられない。国王ラムスの目には失望が色濃く出ているだろう。


「だが、お前一人の責にするには大事に成りすぎた。傀儡とするバーランも一緒に処分となるほどに、な」


 国王ラムスは再び大きく息を吐いた。

 ロレンツオは体を震わせる。何を言われても仕方がないのは分かっていてもそれでも自分の失態を聞かされるのは辛い。


「まあ、大事となるように仕向けた。屑の娘に懸想している愚者(おろかもの)を王座に招き入れるわけにはいかないからな。それに中和剤の数も足りず時間を稼ぐ必要もあった」

お読みいただき、ありがとうございます。

暑い日が続いています。7月1日に外の日陰出した温度計が39.4℃ありました。この台風で気温が平年に戻ると予報もありますが、暑さは今からか本番です。皆様、熱中症にはお気をつけ下さい。


いただいています誤字脱字報告は確認しながら訂正中です。いつもありがとうございます。


誤字脱字報告、ありがとうございます。

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