第三十九話 クラス対抗リレー
「ただいまより、最終競技、クラス対抗リレーを開始します」
そういったアナウンスがあり、場内の声が少し小さくなる。
「まず、一年生女子。Aクラス、一ノ瀬桜華……」
アナウンスは続き、各クラスのメンバーが読み上げられる。
「Fクラス、七条優里愛、浦田美弥、恩田絵理、市川音葉。……失礼しました。負傷によるメンバー変更がありまして、七条優里愛から萩野智春に変更となりました」
ギリギリで変更が間に合ったのだろうか……?
とにかく、無事に変更ができてよかったと思う。だが、結果は期待できないか。
「……以上六クラス、二十四名の代表選手によって、一年生女子、クラス対抗リレーの競技が行われます」
すると、カメラの映像はスタート地点に移り変わり、スタート地点に立つ六人の姿が映る。
このリレーは一人100メートルで、トラック一周のスピード勝負。どこのクラスも、最高のメンバーで組んできている。メンバーを聞いてもそう思うくらいだ。
七条が走っていれば……と俺はどうしても思ってしまう。
それからスターターがスタートの合図を鳴らし、六人は一斉にスタートを切った。
最初に飛び出したのはAクラス。確か、一ノ瀬といったはずだ。一ノ瀬は一気に後続を引き離し、トップでバトンを次に渡す。
一走から二走のバトンパスのところはA、E、B、C、D、Fの順で通過する。
二走になってもAクラスはリードを保っていく一方、Eクラスは順位を下げる。
二走から三走の地点ではA、B、D、E、C、F。ただし、BからCまでは僅差だった。二走の浦田も追い上げてはいるが、荻野が作った遅れはさすがに取り戻しきれなかった。
そして、三走ではCクラスが追い上げ、三番手あたりまで上がって来る。Aクラスは相変わらずのリードで、Fクラスはさらに遅れを取っているように見えた。
三走から四走の順位はA、B、C、E、D、F。BとC、DとEはそれぞれ僅差となっていて、勝負はアンカーに託されていた。
「さあ、アンカー勝負。
リードを保ってAクラス、これはセーフティーリードか!
BクラスとCクラスが激しく競り合う!
そしてDクラスとEクラス、おっと外から追い上げてくるのはFクラス!
最下位だけは避けたい三クラスだが、どうかっ!」
実況の声が響き、一年生女子の競技が終わった。
「一着は一走で作ったリードを保ったAクラス。激しく競り合ったBクラスとCクラスはCクラスの勝利、四着はDクラス、五着はEクラス、六位は惜しくも届かなかった、Fクラスとなりました」
アナウンスの教師の声に変わり、そう結果が伝えられた。
それから数分が経ち、次の選手がレーンに入って準備を始める。
「続きまして、一年生男子の競技を開始します。Aクラス、我妻里見……」
それを見てなのか、選手紹介のアナウンスも始まる。
「……Fクラス、今井健、服部司、西園寺航、榎本真人」
女子よりは期待できるが、総合力で言ったらFクラスなんて正直まだまだだ。
「……以上六クラス、二十四名の代表選手によって、一年生男子、クラス対抗リレーの競技が行われます」
そうアナウンスがされると、女子の時と同じようにカメラが第一走者に移り変わる。
アナウンスが終わると、第一走者がスタート地点に立ち、スタートの合図が切られた。
まずは女子と同じようにAクラスが前に出る。女子ほどではないが、僅差とは言えない差ができていて、その後ろはほぼ団子状態だ。
第一走者から第二走者にバトンが渡る時の順位はA、C、B、E、F、D。
さすが今井だと言うべきか、他のクラスとほぼ変わらないくらいでバトンを服部に渡した。
第二走者は変わらず混戦だが、そんな中服部は外側のレーンだからなのかもしれないが、他のクラスをかなり引き離しているように見える。
だが、同じレーンを走るこのリレーで一番外側を走っている以上、コーナーではさすがに抜かれてしまう。
第三走者にバトンを引き継ぐコーナーで一番内側のAクラスが僅かに抜け出し、バトンを引き継いだ順位ではA、B、C、F、E、D。
Fクラスは服部と西園寺の絆なのか、タイミングがピタッと噛み合い、ほとんどロスのないバトンリレーを行った。
ちょうどその時、Dクラスがバトンを落としたことによって大きく遅れ、このまま行けば六位は回避できるかもしれないと正直思った。
コーナーで内側が伸びて来たものの、Dクラス以外はほぼ横並びになってアンカーにバトンが繋がれる。
どのクラスも大きなロスは無く、Fクラスは西園寺から榎本にバトンが渡る。
バトンが渡った直後、Eクラスのアンカーだった桃山がコーナーの遠心力で膨らんだのか、横にいた榎本に腕がぶつかり、榎本はバランスを崩してレーンの外に転ぶ。
「おっと、Fクラスここで転倒!?」
実況の声がやけに大きく聞こえる。
榎本はどうにか起き上がってレーンに戻ろうとするが、痛みで起き上がれそうにもない様子で、そのまま地面に倒れたままうずくまってしまった。
すぐに医療スタッフのような人たちが駆け寄り、足首のあたりを確認した後、そのうちの一人が救護所に向けてバツ印を示した。
その後、榎本は担架で保健室に運ばれてきて、保健室は一気に騒がしくなった。それによって俺は保健室を追い出され、しょうがなくグラウンドに向かった。
競技の結果は、実際にはFクラスはゴールしていないが、教師陣の協議の結果不利があったものと見てそこはゴールしたことにしようと決まったらしく、A、E、B、C、D、Fの順でゴールしたという結果になった。
桃山が相当妨害したにもかかわらず、二位に食い込んでいることに相当な怒りを覚えながらも、Aクラスの力を見せつけられたような気がした。
「早見くん……」
グラウンドに出ると、市川がすぐに俺を見つけて声をかけてくる。
「市川、お疲れ様」
「うん。ありがと」
二人で話しているが、色々な人がいる中なので市川は相変わらず素を見せず、ちょっといい子を演じている。
「すごかったな、最後の追い上げ」
「……でも、最下位じゃ意味ないでしょ」
確かにそれはそうだが……
「今回ばかりは仕方ない。萩野には悪いが、七条だったら……とどうしても思ってしまう」
「それはボクも同じだけど、ボクがもうちょっと頑張れたら……とかは思っちゃうよ」
「そこまで思い詰めるな。たかが体育祭だ」
俺から始めたことなのだが、たらればを続けていても病んでしまうだけだ。
「でも……誰かはこれで落ちるんでしょ?」
「誰かが落ちる前提なのに、誰も落ちないようにするのは無理だと思う。最下位のクラスなんだから」
「そうだけど……」
「……自分のことを考えろ」
帝国学院ではそれが基本だ。クラスの結束だって、自分のことを考えた上でそうすることが最善策だと答えが出るからだ。
「……まあ、榎本は心配だが」
言っておいてなんだが、さっきの榎本は心配でしかない。脱落はしないだろうけど、どんな影響が出るか……
心配もしつつ、最悪の事態を予測しておく必要はありそうだった。
「大丈夫かな……榎本くん」
俺がそんなことを考えている間に、市川がぼそっとそう呟いた。