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第四十五話 後日談

 村への帰還後、アルマはハロルドの館を訪れていた。


「なるほど……うんうん。それで、アルマ殿は本当に一億アバル搔き集めて《神秘のポーション》を二百個造りあげて、無事に村人全員を人間に戻すことに成功したんだね……」


 ハロルドはアルマの報告を、どこか達観したような笑顔で聞いていた。


「搔き集めたって表現は正しくないな。遺跡巡りで、ちょっとした資材の山を得た。それとは別に、都長のマドールから二億アバルほどお小遣いをもらったから、薬の材料費には特に困ってなかったからな。いや、いいタイミングでラメール遺跡が出没してくれて助かった」


「なんだか僕の知らないところで大事件が起きていたようだったけれど、特に問題がなかったようで何よりだよアルマ殿」


 ハロルドは張り付いた笑みを崩さない。

 横に備えている兵士の男は、狼狽えた表情で、アルマとハロルドの顔を交互に見ていた。


「……ハ、ハロルド様、そんなあっさりと流していいお話なのですか? 本当の話ならば、数十億アバルが動く規模ですが……」


「うん、うん。気持ちは分かるよ。でも、アルマ殿の話がどれだけ突飛でも、今更疑う理由もないからね。それにアルマ殿の資材が潤うのは、別に悪い話ではないよ。なるほどね、アルマ殿は凄いからね」


 ハロルドはニコニコ笑顔を崩さない。

 兵士の男がハロルドの顔の前で、手を動かす。

 ハロルドはそれに一切反応を見せなかった。


「アルマ様、とりあえず大きな報告がそれだけだったら、今日はここまでにしてもらっていいですか? ハロルド様の思考がショートしたようです。恐らく、日を跨げば今日の情報を整理して、また今後についてのお話もできると思いますので……」


「そ、そうか……」


 ハロルドは頭の回転が速く、見識も広い。

 ただ、それ故にアルマが何かしでかしたときに異常性を正確に受け止めてしまい、頭がその過負荷に耐え切れなくなってしまうのだ。


「あと……天空艇造ったから、村に停めてあるぞ。資金もできたから、ちょっと村を色々といじくりたいと思っている。また、改めてそこについて意見をもらいにくる」


「てっ、天空艇!? 一艇あれば、都市間の勢力図が変わるとされているアレを!?」


 兵士が驚愕の声を上げる。

 ハロルドはその間も、ニコニコと笑みを浮かべ、機械的な動きで頷いていた。


「うん、うん、いいね、天空艇。きっとアルマ殿のできることも大きく増えるよ、うん」


 完全に普段の知性を感じない。

 思考の程度を下げることで理解力を意図的に引き下げ、頭に今以上のダメージが入るのを防いでいるようでもあった。


「ブレーカーかよ……器用な頭だな」


 アルマは頭を手で押さえ、溜め息を吐いた。


「主様、一発くらい軽く叩いてみる?」


 メイリーがしゅっしゅと、宙を軽く殴る。


「……お前の場合、軽くで済まないだろ。明日になったら戻ってるだろう。ハロルドの意見は実際無視できない。俺はこの世界や村政治には疎いからな」


 アルマはそこまで言ってから、ハロルドへと目を向け直す。


「それから……アンデッド騒動のあった村の住人を、こっちの村で受け入れてやりたいと思っているんだが、どうだろうか? 人数は二百人程だ」


 この世界は一村落に対してとても厳しい。

 今の難を凌いだとして、また悪意のある錬金術師に襲われれば、次はないだろう。

 そうでなくても、盗賊や魔物災害の被害も考え得る。


 この世界はただのゲームではない。

 関わった村が放っておけば一年後には滅んでいるかもしれないような状態で、何もしないでいようという気にはなれなかった。

 また、今のアルマには、彼らを救えるだけの力があるのだから。

 それを行わないことは、見殺しにすることにも等しい。


「きゅっ、急に二百人の移住!? た、建物も土地も、食糧も足りませんよ!」


 兵士が慌てた様子で口を挟む。

 ハロルドはそれを手で制した。


「うん……うん、いいんじゃないかな。アルマ殿の技術力と指揮があれば、村を大きくするのはそう難しいことじゃないよ。大規模な移住は既存住民と新規住民の間で対立が起きやすいものだけれど、向こうの村の人達はアルマ殿を恩人と慕っているだろうから、問題ごとが起きても解決するのは難しくないだろうしね」


「そ、そんな楽観的な……! ハロルド様、よくお考えになってから許可を出した方が……!」


 兵士が必死に止めていたが、ハロルドはまるで相手にしない。


「いつもみたいに口煩くないし、ずっとこれでいいんじゃない?」


 メイリーはハロルドを指差し、アルマを振り返る。


「……俺も厄介事を引き起こしたいわけじゃねえから、普段のハロルドの方がありがたいんだがな。まあ、今日の件、ハロルドが我に返ってから検討してもらえるように頼む。そいつが落ち着いた頃に、また来るから」


 アルマはそう言い、ハロルドへと背を向けた。


「しかし……アルマ殿の技術力でこの村が大きくなっていけば、リティア三都市同盟の三大都市にも並ぶようになるかもしれないね。そうなればきっと、悪意の都市ズリングが、ここを放ってはおかないだろう。いや、もっと早くに動き出すかもしれない」


 ハロルドが呟く。

 アルマは外へと向かっていた足を止め、小さくハロルドを振り返った。


「……またズリング、か」


 パティシアの都長であるマドールも口にしていたことだ。

 悪意の都市ズリングと、そこの都長であるゲルルフには気を付けろ、と。


「まあ、そいつについてもハロルドからまた聞かせてもらうとしよう。ハロルドが正気に戻って、今話したことの整理がついたら、また呼びに来てくれ」


「はっ、はい、わかりました、アルマ様!」


 兵士はアルマへと頭を下げた。


「あっちでもこっちでも名前が出るなんて、相当危険みたいだね、都長のゲルルフって男は」


「関係ないさ。仕掛けてこないなら、やりたいようにやらせてもらう」


 アルマはそう言い、手のひらに逆の手の拳を打ち付けた。


「仕掛けてくるなら、大儀名分を以て叩かせてもらう。それだけだろ? 他の奴に邪魔されるから止めます、なんてクソくらえだ。後手に回る気はないから、対策は取らせてもらうがな」


 そう口にして、不敵な笑みを浮かべた。

 第二章完結いたしました!

 更新途切れ気味で申し訳ございません……。

 第三章が楽しみだと思っていただけましたら、この下にある【☆☆☆☆☆】よりポイント評価を行って作品を応援していただけると幸いです!

 創作活動の大きな原動力になります!

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