第二十三話 魔力磁針
アルマは死神ウツボの身を削いで火で炙り、串焼きにした。
「うむ、うむ、脂が乗っていて弾力があって悪くないな。これだけ量があるのに保管できないのが心苦しいところだ」
アルマは死神ウツボの肉を噛み千切る。
噛めば噛むほど、肉から甘い旨みが滲み出る。
「いや、塩を持ってきてよかった。なかなかイケるじゃないか死神ウツボ」
「主様、タレ欲しかった。塩よりかば焼きのがいい」
メイリーは大量に串焼きを頬張り、口をもごもごさせながら口にした。
「贅沢を言うんじゃない。調味料作ってるような余裕はまだないんだよ」
『……本当に怖いものなしであるな』
食事が終わり、再び探索を再開する。
通路に従って進むと、大きな広間へと出た。
いくつもの通路に繋がっている。
「ここまではほぼ一本道だったんだが、仕方ないな」
アルマはそう言い、《魔法袋》から真紅の輝きを帯びた方位磁針のようなものを取り出した。
縁には多種の輝きを放つ鉱石が埋め込まれている。
『そ、それはなんであるか?』
「《アダマントの魔力磁針》だ」
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《アダマントの魔力磁針》[ランク:10]
この世で最も価値のある宝石と称される、アダマントをふんだんに用いた魔力針。
近くにある魔力源の方向を正確に示してくれる。
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魔力源の方向を示してくれるアイテムである。
これさえあれば、手っ取り早くレアアイテムやレア魔物の眠る、ダンジョンの心臓部の方向を探り当てることができる。
前回の《ゴブリンの坑道》ではとにかく大量の鉱石を得ることが一番の目的であったため使わなかった。
ただ、今回は効率よく採掘やアイテムの回収を行うために、まず遺跡に巣食う危険な魔物を掃除することが第一の目的である。
この《アダマントの魔力磁針》には合計七つの形が異なる針がついており、様々な種類の魔力を分けて、同時に捉えることができることができるようになっている。
そのためメイリーのような凶悪な従魔が傍にいても、それが妨げとなることはない。
『魔力磁針は聞いたことがあるが……そんな高価な素材を用いた、豪奢な外観である意味はあるのか?』
「あるさ、アダマントで造れば頑丈になる。それに加えて、これは《頑丈[Lv10]》のルーンを重ね掛けしているからな」
アルマは《アダマントの魔力磁針》の首掛け紐を指で摘み、勢いよく振り回した。
壁に当たり鈍い音を鳴らす。罅が入ったのは、壁の方であった。
「な? 因みに《攻撃力強化[Lv10]》のルーンも付与している。ランクの高いアイテムは、付与できるルーンの数も上がるからな」
『明らかにその、ルーンの枠を持て余しておらんか……? たかだか魔力磁針に、本当に化け物耐久と攻撃力が必要なのか?』
「おいおい、いざというときに武器がこれしかなかったらどうするんだ」
『……貴様、絶対素材を持て余して何となく高価なものを造っただけであろう。またただのコレクション品でないか』
アルマは《アダマントの魔力磁針》を手に大広間をしばらくふらふらと歩き回った。
やがて立ち止まって魔力磁針に目線を落とし、それから壁に手を付いた。
「よし、ここだな! 掘るか」
アルマは《魔法袋》より《アダマントのツルハシ》を取り出し、青い壁を叩き壊した。
「《ブレイク》!」
壁に容易く罅が入り、均等に残骸が転がっていく。
『こ、ここでもあの戦法で行くのか、アルマよ?』
「当然だろ、道に迷ったら嫌だからな。それに戦力を強化しておきたい、ゴーレムが欲しい」
直線通路を造ることができ、希少金属を得ることもでき、加えて戦力の強化まですることができる。
素直にダンジョンを潜ってやる理由はない。
どうせ、全てが終われば遺跡全体を削って精製してしまう予定なのだ。
メイリーはアルマの背に近づき、ひょいと魔力磁針を覗き込んだ。
「あれ、主様……そっちでいいの? 別の方向の方が反応強くない?」
「よく見ろ、ほれ。こっちには、人間の魔力反応がある」
アルマは魔力磁針を指差し、メイリーへとそう説明した。
『む……? どういうことであるか? 危険な魔物の巣窟に取り残された冒険者共が、まだ生きておるのか?』
アルマは頷いた。
「言っただろ? ラメールは、他種族を奴隷にすることがある。先に入った奴らをまず助けることにしよう」
『ほう、貴様、ちゃんと人命救助を優先できるのか……。てっきり、先に宝をあらかた回収してから、余裕があれば、とでも言い出すのではないかと思っておったぞ』
「……お前、俺に対して悪いイメージ持ち過ぎじゃないのか? あのな、俺はヴェイン騒動の時も、ネクロス騒動の時も、一番に人助けを優先しているからな?」
アルマがはぁ、と疲れたように溜め息を吐く。
『む……ま、まぁ、それもそうか。何故だか余計なところばかりが頭に残ってな』
クリスの頭には、自身の尾を嬉々として切断しているところや、ゾンビになった村人にゾンビ蜘蛛を喰わせているところが浮かんでいた。
「それに、今回は都長が親族への面子を守るために、かなり無理言って通した依頼みたいだからな。助けられれば、報酬は期待できる。それ以上に、遺跡の宝をガメても文句が言い辛いはずだ」
都長がかなり無理を言って通した依頼であることは、ギルドの様子でもわかっていたことだった。
元々先発隊の取り残された隊員は死んでいた可能性が高かったのだ。
おまけに都市の冒険者に遺跡を充分に探索できる実力者がほとんど残っていなかったことを思うと、遺跡を一般開放する理由はほとんどなかった。
調査隊の主力は都長の私兵であるという。
私兵は都長の親族が多いと、アルマはそう耳にしていた。
身内贔屓というよりも、このまま放置では親族にあまりに顔が立たなかったための切実な判断だったのだろう。
故に、それだけの報酬が期待できる。
「いやあ、本当に都合のいい状況で助かる。人手が足りなかったから、調査隊の奴らを引っ張り出して来たら、そのまま荷物運びを手伝わせるか。《ゴーレムコア》だってそんなにいっぱい持ってきてないし、ゴーレムは所詮単純作業しかできないからな」
アルマが笑顔で口にする。
『……一番に人助け?』
クリスは《竜珠》の奥で首を傾げた。