第二十二話 遺跡探索
アルマ達はラメール遺跡に踏み込み、そのまま中央の祭壇内部へと入り込んだ。
中には巨大な通路が続いている。
表の建造物群はだたの表層であり、本体は建造物群の地下にあった。
これはマジクラでアルマが見たラメール遺跡と同一であった。
アルマは周囲へ目を走らせる。
中には巨大なクリオネのような彫像があった。
上部がくり抜かれて燭台のようになっており、奥には青い炎が灯っている。
この炎は特異な魔法によって生み出されたもので、仮に水の中でも周囲を照らし続ける力を持っている。
『しかし……奇妙な等間隔の粒があって、不気味な床と壁であるな』
クリスが《竜珠》の中でぼやく。
アルマは軽く壁を叩いた。
「こいつは厳密には鉱石とはちっと違う」
『ほほう?』
「
『こ、これ全てが、加工した珊瑚なのか……!』
クリスが驚きの声を上げる。
「……ああ、それでこの
アルマは声をやや潜めてそう口にした。
『凄い性質であると……?』
「
両手で抱えられるくらいの纏まったインゴットを造れば、最低でも一つ二百万アバル程度の値で売り捌けるはずであった。
全体が
『貴様は鉱物のことばかりか。やはり、またこの遺跡を穴ボコにするつもりであるな? 気の毒なラメール共よ』
「何を言ってるんだ? 青色が薄いところでも微量の
ひとまずは遺跡に巣食っているであろう魔物の掃除と、行方不明の調査隊の救助が優先である。
だが、アルマは最終的にこの遺跡全体を精錬して《
『化け物め』
クリスが《竜珠》の中で低く唸った。
「飽和して金属全般値崩れするだろうが、こりゃ
『都市パシティアも大迷惑であるな、たった一人のために金属相場が滅茶苦茶になるとは』
「何言ってるんだ。お宝大量に抱え込んで、突然ひょっこり出てくるラメール遺跡が悪い」
『貴様でもなければ遺跡全体を精錬しようとは思わんであろうに……』
クリスが大きく溜め息を零す。
『しかし、ラメールは錬金術を扱えるのか?
「ああ、奴らは凶悪で暴力的だが、魔法や技術に長けている。それに他種族を奴隷にしてこき使うのが大好きでな。そいつらにスキルを教えさせることで、幅広い技術を身に着けている」
『なるほど……危険そうな連中であるな』
「危険も危険だ。一体一体がモンスターランク4だからな。悪知恵が働き、触手で多彩な戦いができる。おまけに身体能力はほぼ一定だが、魔法や戦闘の技量は個体差が大きい。同ランクで大柄なだけで動きの鈍いクリスよりずっと強いぞ。お前は範囲攻撃と持久力に長けているが、一対一ではあまり役に立たない格下狩り特化型だからな」
『すまん、ラメールが強いのはわかったが、我で換算するの止めてもらっていいか?』
「流石にホルスなら大体のラメールには勝てるだろうが、相手の準備と地力次第ではどうなるかわからん」
『我で換算した後にホルスで考えるのも止めてもらっていいか? 当てつけか?』
少し進んだ後に、クリスが不安げにアルマへ声を掛ける。
『の、のう、アルマ、ここはただの遺跡であるのだから、ラメールは不在であるのだよな?』
「なんだ? ラメールが自分以上だと聞いて不安になったか」
『ちゃっ、茶化すでないぞ、ニンゲン如きが!』
「ラメールは遺跡を封印するときに、何体か仲間も一緒に封印してるはずだ。絶対に出てくるぞ。仮に何らかの要因でラメールがいなくても、どの道調査隊が崩壊に追い込まれてる時点で、ランク4程度の魔物は出てくるぞ」
『む、むう……』
アルマ達が進んでいると、通路の先の
アルマが警戒して身構えた刹那、亀裂が広がる。
壁を突き破り、巨大な青く輝く魚が現れた。
大きな顔いっぱいに口が広がっており、鋭利な牙が並んでいた。
長い身体を穴より伸ばし、アルマへと飛び掛かっていく。
死神ウツボと呼ばれる、モンスターランク4の魔物であった。
規模と速度、攻撃力に特化したタイプであり、不意打ちで相手を喰い殺すことを得意としている。
その速度に反応が遅れたアルマへと、死神ウツボがぐんぐんと伸びていく。
アルマへと死神ウツボの牙が触れかけたところで、メイリーが彼の前へと飛んだ。
死神ウツボの顔面に掌底を打ち付け、突進の軌道を右側へと弾く。
直後、素早く宙返りしたメイリーが、勢いを乗せた蹴りを死神ウツボの頭へと放つ。
死神ウツボは目を回し、口から泡を吹いた。
側頭部を壁に打ち付け、勢い余ってそのまま直進する。
壁が削れ、死神ウツボがどんどん減衰していく。
死神ウツボは横倒しになり、そのままピクリとも動かなくなった。
メイリーに蹴られた頭蓋が砕けている。
「大丈夫、主様?」
メイリーは気軽な調子で声を掛ける。
「おう、サンキュー。今は防具の耐久値を修復できる素材も貴重だから助かる。丁度腹が減ってきたところだし、飯にするか」
『……まぁ、メイリー様がおる時点で、そう怖がる必要もないわな』