第三話 アンデッドの村
アルマは自身の不在の間はホルスとアヌビスに任せ、メイリーとクリスを連れてレンデンの村へと出発した。
魔石を燃料にした《魔導バイク》の背にメイリーを乗せ、大地を走らせる。
これまでは魔石がなかったために造ることができなかったが、《魔導バイク》は移動手段として手っ取り早いアイテムであった。
『アルマよ! 何故我だけこんなところに閉じ込められねばならんのだ! 納得がいかんぞ!』
クリスが従魔を封じ込めておくためのアイテム、《龍珠》の中から不満を漏らす。
「大型の魔物はだいたい速さが弱点なんだよ、《魔導二輪車》より遅いんだから仕方ないだろ。それに、お前もそっちの方が楽じゃないか?」
『こんな玉コロの中に押し込められたら、ニンゲン如きにこの我が服従しているようではないか!』
「その通りだろうが」
『我も《魔導二輪車》の風を感じたかったぞ!』
「……これでいい?」
メイリーが面倒臭そうに、クリスの《龍珠》を外へと持ち上げる。
『おお、メイリー様! 別に特に風や爽快感は感じぬが、我はメイリー様の気遣いだけで満足である!』
「主様、なんでこれ連れてきたの? 戦闘ならボクだけで充分だし、数が欲しくてもアヌビスでよかったんじゃないの?」
純粋な強さであれば、モンスターランクの高いメイリーに並べるものはいない。
少し間が空いてアヌビスで、非戦闘型のホルス、そしてモンスターランクで劣るクリスと続く。
「村の方も気は抜けないからな。それにクリスは、俺とメイリーが不在だと村の有事に働かない恐れがある。アヌビスは村人想いだし、足が速いから何かが起こったら被害が出る前に食い止めてくれる。ホルスは俺の次に時計塔に詳しいから不在の間の管理を十全にやってくれるし、エリシアと何度も顔を合わせているからある程度は村人の急ぎの要件にも対応できる。必然的に、魔石採掘場ドラゴンしか連れていける奴がいないんだ」
『おいアルマ、貴様我を舐めておるな?』
地図を頼りに進んでいると、木の柵に覆われた村が見えてきた。
もっとも柵の大半は壊されており、割れた《タリスマン》の残骸が散らばっている。
そして家屋を荒らすゾンビと、全長一メートル前後の蜘蛛が闊歩していた。
蜘蛛は背中が白く、絶望した人の顔のような模様があった。
「……胸糞悪い。やっぱり、マンフェイスか。モンスターランク2、噛みついた対象に自身の魔力を流し込んで、ゾンビへ変える。アンデッド系統の魔物だな」
マジクラにおいて、死体や霊魂、憎悪を温床として発生する魔物はアンデッド系統とされている。
「ざっと見ただけで、三体のマンフェイスか。何らかの邪法で、マンフェイスを発生させてやがる。だとしたら、かなりのやり手だぞ」
『き、貴様がそこまで言うほどなのか? 我らには、メイリー様もついておるのだぞ?』
「お前、何やかんや俺のこと信用してくれてるんだな……。だが、その言葉は錬金術師を舐めすぎだ」
『なに?』
「魔物を造り出せる錬金術師は、かなりの腕利きだ。たまたま超レアアイテム拾いましたみたいな馬鹿らしい理由でもない限り、アイテムと戦力が不完全な今の俺じゃ、はっきり言ってかなり厳しい」
基本的にNPCの錬金術師は、魔物を造り出すなんて真似はできない。
マジクラにおいてそれは、中堅以上のプレイヤーに許された特権であった。
プレイヤーか、プレイヤーの技術を継いだ何者かだ。
『そ、そこまでであるのか?』
「ああ、拠点の質に依っては一時撤退も考えている。時間を与えたくはないんだがな。おまけに相手は倫理観がないから、手段は選んでこない。強い錬金術師の条件は三つ、準備を徹底している奴、頭がキレる奴、そして手段を選ばない外道だ」
『まあ、その三つは貴様を見ていればわかるが……』
アルマは《魔導バイク》を止めてメイリーから《龍珠》を受け取り、水晶にデコピンした。
「あのな、俺なんか、全然温い方だからな。世の中には、奪った方が効率がいいからってだけの理由で村を滅ばしたり、全員アンデッドにして畑を耕し続ける奴隷にしたのに不要になったからって放置したり、暇潰しに都市一つ爆弾で吹っ飛ばして爆笑してるような屑が、吐いて捨てるほどいるんだぞ。そういう奴に捕まったらお前、全身拘束された上で薬漬けにされてるからな」
無論、モラルの破綻した他の上位プレイヤー達のことである。
『わ、我は百年は生きておるが、そんな修羅は一人も見たことがないぞ!?』
「それは運がよかったな。だが、この村で出てくるかもしれねぇから、気をつけろよ」
『か、帰りたい……。貴様、本当に何故我なんかを同行させたのだ?』
「お前……たまに絶妙に卑屈になるな」
アルマは《魔導バイク》を村の外に停め、メイリーと共に村の柵を乗り越える。
「ウウ、ウア……」
マンフェイスに噛まれ、ゾンビ化した村人達が寄ってくる。
皮膚が腐り、緑に変色していた。
アルマは《魔法袋》より瓶を取り出し、ゾンビへと掲げる。
ゾンビはびくりと身体を震わせ、アルマ達から逃げるように動いた。
『なんだ、それは?』
「《聖水》だ。モンスターランク1のアンデッドは、向こうから完全に逃げるようになる。マンフェイスには効かないが、ゾンビはこれで完封できるってわけだ。それだけじゃなくて、アンデッドにぶっかければ大ダメージを与えることもできる」
アルマは《龍珠》をローブに仕舞い、《魔法袋》より《アダマントの鍬》を取り出し、《聖水》とは逆の手に構えた。
「一応、何が出てきても大丈夫なように構えておくか」
『……剣がないのは知っているが、まだツルハシの方がサマになるのではないか?』
「《アダマントのツルハシ》は駄目だ。あれは採掘に使うんでな。ぶっちゃけ鍬は、アダマント製であるメリットがほとんどない。ちょっと土質がよくなるが、そんなもん肥料を使えばいいだけだからな」
『だったら、何故造ったのだ……?』
「主様、贅沢趣味だから」
メイリーがばっさりと、身も蓋もないことを口にする。
アルマは何か言い返そうかと考えたが、あながち間違いでもないので強く出られず、黙っておくことにした。