第二話 脅威
男の状態が落ち着いてから、彼から改めて話を聞くことになった。
彼の名はレンデンといい、自分の村で起こった
ただ彼自身もアンデッドの攻撃を受けてアンデッド化の予兆が出てまともに動けなくなり、その間に魔物の襲撃に遭って命を落としかけていたところをライネルに助けられた、とのことだった。
「そこまでは、聞いていた話で補完できていた範囲だ。だが、レンデン、お前にどうしても確認しておかなきゃいけないことがある」
「は、はい、なんでしょうか、アルマさん」
「お前の村は今、アンデッド化した村人だらけになっているんだな?」
「……え、ええ、そうです。あっという間に、村中がアンデッドだらけになっていって……。ただ、村には、まだ身内や仲間がたくさん残っていたはずです。魔物に備えた地下洞窟も村にはありますから。ですが、俺は、俺は、どうしても恐怖に耐えきれなくて……」
レンデンの言葉に、居合わせた村人達も沈痛な面持ちをしていた。
ライネルは「仕方のないことだ。残っても、襲われていただけだった」と慰めの言葉を掛けていた。
「レンデン、それはおかしいんだ」
「え……?」
「俺の見立てじゃ、お前の村を襲ったのは二次感染しない類のアンデッドだ」
アンデッドの一部は、殺傷した相手をアンデッド化することができる。
そうしてアンデッドになった対象が更にアンデッドを増やすことを二次感染といい、条件の整った都市部で対処が遅れれば、一体のアンデッドから都市が滅ぶことも珍しくない。
だが、アルマはアンデッドに対する知識も豊富であった。
レンデンを一目見て、彼の村を襲ったのは、二次感染する類のアンデッドではないと見抜いていた。
「妙なんだよ。村一つ崩壊するくらい、アンデッドが蔓延したっていうのがな。恐ろしく強いアンデッドが襲来して村人を噛み殺しまわったのならば村が崩壊した理由はわかるが、それなら死体の破損が酷すぎて、アンデッドとして蘇っても村内を動き回るようなことはないはずだ。お前が軽傷で済んで、ここの近くまで来られた理由も謎だ」
レンデンの顔が青くなっていく。
「お、おお、俺が嘘を吐いていると言うんですか! ほ、本当なんです! 村に、変な蜘蛛に似た、人の顔を持つ化け物が大量に現れて……!」
「レンデン、アンデッドの発生には、月の光だけじゃなくて、死者の憎悪や怒りが必要になる。だから、同種のアンデッドが自然に大量発生するのは稀なんだ。墓場か戦地でもない限り、そんなことはまず起こりえない。本当に、人面蜘蛛が突然大量に現れたって言いたいんだな?」
周囲の村人達が沈黙する。
ハロルドは手で合図を出し、部下の兵二人に武器を構えさせた。
「ほっ、本当です! 本当なんです! 俺、難しいことはわかりませんが、本当に蜘蛛の化け物が村を襲って……!」
「ハロルド、武器を下げさせてくれ。レンデン、脅すようなことを言って悪かった」
そう口にするアルマは、額に深い皴を寄せていた。
「アルマ殿、この方の言葉は信じられそうかな? 生き残りの救助と調査のために、兵を送ろうと考えているけれど……」
「止めておいた方がいい。レンデンの村は本来大量発生しないはずの人面蜘蛛に溢れていて、レンデン自身怪我を負いながらも奇跡的な確率でこの村に運び込まれたんだ」
「……それは、彼がわざと逃がされたということかな?」
アンデッドに溢れた村を逃げ出し、怪我を負った状態で魔物の蔓延る平原を単身で移動して他の村に行き着くなど、そうそう成功するものではない。
なぜレンデンがそれを成し遂げられたのか。
レンデンが嘘を吐いているのでなければ、わざと何者かが情報を広めるために逃がしたのだと考えられる。
「それは、この
「……ヴェインのような、金銭狙いのケチな小悪党じゃない。超一流の錬金術師で、かつこの世界をお遊びのように見ている外道野郎だ。絶対に兵を送るな、村には俺が向かう」
アルマの言葉に周囲の者達が息を呑む。
「む、村を、助けに行ってくださるのですか!」
「……村の人間は、悪いがあまり期待するな。お前が逃げ出してから、もう一日以上経っているんだろ?」
レンデンがやるせない表情で俯く。
「だが、安心しろ。クソヤローをぶっ飛ばして、絶対に仇を取ってやる。お前達のためだけじゃない、恐らく奴は……お前達の村を拠点に、いずれは周囲一帯を滅ぼすつもりだ。巨大化する前に、俺が叩く」
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