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第三十話 蒸気自動車

 クリスタルドラゴンのクリスを無事に傘下に置いたアルマは、採掘を一旦中断することにした。

 これまで集めた素材を用いて、大量の鉱石を運べる乗り物を造ることにした。

 ゴーレムとメイリー、エリシアの力を借り、ついに無事にそれは完成した。


「おおおっ! やっぱり、直接見ると感動するな!」


 出来上がったのは蒸気自動車であった。

 前方に大きな煙突がついており、蒸気機関車に似たデザインになっているが、石炭を詰め込んだ大きなタンクがくっ付いている。

 荒い道に対応するため、車輪はかなり大きく造られていた。


 魔導車を造ることもできたが、あまり魔石に余裕があるわけではない。

 そのため比較的入手しやすい、石炭を動力にしたのだ。


「こ、これは、動くのですか? あのクリスタルドラゴンや、メイリーさんに引っ張ってもらうわけではないのですよね?」


 エリシアが蒸気自動車を前に、困惑したように口にする。

 単純作業は手伝っていたのだが、未だに蒸気動力の概念が信じられないでいた。


「……ねぇ、ボクのこと、馬か何かだと思ってない?」


「すっ、すいません! そういうわけではないのです!」


 メイリーがムスッとした表情で指摘し、エリシアは慌てて頭を下げた。


 蒸気自動車の荷台には、既に大量の収納箱が積まれていた。

 アルマはうっとりとした表情で、蒸気自動車の頭から最後尾へと目を走らせる。


「フフ……いいな。出力が高く、応用の利く魔石を温存したかったというのもあるが、スチームパンクには夢がある……! これで本格的にマジクラらしくなってきた」


「主様、なんだか気持ち悪い」


「メイリー、お前にはわからんか、男のロマンが」


「こんなもの……初めて見ました。どうにも私には、これが動いているところが想像できません」


 エリシアは蒸気自動車をまじまじと見つめながら、そう口にした。


「ま、そうだろう。蒸気機関の概念自体は紀元前からあったらしいが、動力ではなく単に見世物だったとされている。蒸気機関が世界で初めて実用化され始めてきたのは、それからずっと後のこと、十八世紀だ。急にぽっと見ても、とても信じられんだろう」


「世紀……?」


 エリシアの言葉に、アルマは咳払いを挟んだ。


「……と、興奮しすぎたな」


「遥か遠い地に、獣に引かれることなく動く車があるという話を祖父から聞いたことがありましたが……ただの伝説だとばかり思っていました」


「なに? エリシア、お前、自動車を聞いたことがあるのか?」


「え? い、いえ、本当に祖父からちらりと聞いただけで、詳しくは覚えていませんし、同じものかどうかも……」


 アルマは額を押さえ、考える。

 マジクラの世界では、プレイヤーが関与しなければ近世後期のような技術革新は起こらない。

 本当に自動車が存在するのならば、この世界はマジクラの世界の延長ではなく、マジクラにプレイヤーが関与した世界の延長だということになる。


 それは即ち、この世界のどこかに、超大型機動要塞を有し、大陸一つその気になれば消し飛ばせるような存在が潜んでいるかもしれない、ということであった。

 仮にそんな人物がいれば、場合によっては恐ろしい敵になる。


「なるほどな……今は気にしても仕方ないが、頭には入れておくか」


 アルマはそう呟き、小さく頷いた。


『なっ、なんだその金属塊は! こっ、これが動くのか! 動くというのか! 小さき者よ、わっ、我も乗せよ!』


 クリスが蒸気自動車を前に、目の水晶を輝かせていた。


「いや、お前が乗ったら壊れるだろ……。ぶっ壊したら、首だけ残して採掘してやるからな」


『ぬぬ……』


 アルマ、メイリー、エリシアは蒸気自動車に乗り込み、クリスは並んで飛行することとなった。

 クリスは時折、物欲しそうな目で蒸気自動車を見つめていた。


「す、凄い、本当に走っている……。村の皆も、驚くことでしょう。この技術が持ち込まれたら、村が凄いことになりそうです」


「元々俺は、畑耕してるよりこういうことがしたかったんだよ。素材も山ほど用意してきたから、これから面白いことになるぞ」


 アルマは上機嫌でそう口にする。


「ですが、都市にこのことが知れたら、どうなることか……私は少し、それが怖いかもしれません」


「ふむ……」


 アルマは目を細める。


 この世界は魔物の脅威がかなり大きい。

 人類はギリギリ生かされているような、そんな状況である。

 どこの人間も、生き残るために必死だろう。

 そんなところに、自分達より優れた技術を持ち、かつ規模の小さい人里があれば、襲撃して取り込もうとする連中が出てくるのはごく自然なことだといえる。


「……マジクラは最終的には、質より規模だからな」


 だからこそ、上位のプレイヤーは機動要塞に引きこもるのだ。

 現時点で村に千の武装兵が攻めてくれば、アルマとメイリーが逃げ遂せることは容易くとも、村を守ることはできない。


「そうじゃなくても、プレイヤー、もしくはその技術が残っている可能性もある、か」


 弱ければ魔物に滅ぼされる。

 だが、力をつければ、更に大きな人里から目を付けられるリスクが上がる。


「主様、どうしたの? 深刻そうな顔して、悩み事?」


 顔を外に出して風を感じていたメイリーが、アルマへと目を向けた。


「悩んじゃいないさ。悩むってのは、不安が解消できない状態のことだろ? 問題ごとはあるが、やることは決まってるからな」


 アルマは不敵に笑い、そう答えた。


 何せアルマは、元々魑魅魍魎渦巻くマジクラにて、最強のプレイヤーだったのだ。

 先人プレイヤーがいたとしても、準備さえできていれば負けるつもりはない。


 現状のままでは魔物に対抗できず、中途半端に力をつけても他都市に潰される可能性が増すのならば、やることは決まっている。


「やるからには徹底的に、だな。俺はあの村を最強の王国にする」

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