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第二十八話 迷宮に眠る者

 ロックゴーレムが掘り進んでいる間、アルマは大部屋を拠点へと造り替えていた。

 気になる鉱石を採掘し、邪魔な分岐路を余った土砂で埋めていき、壁や床を平らに均していく。

 余った土砂は邪魔にならないように収納箱の中に詰めていく。


 また、採掘で得た鉱石を用いて、錬金炉を造った。

 壁にも一定間隔でランプを並べ、ロックゴーレム用のツルハシの予備も作成しておいた。

 ロックゴーレムが馬鹿力で使い続ければ、如何にアルマの作成したツルハシとはいえ、すぐに駄目になってしまう。


 錬金炉で鉄鉱石を溶かし、追加で二体のアイアンゴーレムを完成させた。

 アイアンゴーレムはツルハシを受け取ると、のっそのっそと、漏斗状の穴を下へ降りていく。


 アイアンゴーレムならば、ダンジョン深部の岩盤でも簡単に殴り壊すことができる。

 一気に効率が跳ね上がるはずだった。


「よしよし、これで設備は万全だ。俺の採掘拠点にするか! また金属が足りなくなったら、ここに来ればいい。他の奴が入ってこれないように、壁を固めて、錠前付きの扉も用意しておこう」


「ダンジョン探索とは……?」


 エリシアは相変わらず、複雑な表情で、どんどん深くなっていくゴーレムホールを見下ろしていた。


「魔石が手に入れば、同時に稼働できるゴーレムの数も一気に増える。《ゴブリン坑道》全体を掘り潰せる日も遠くないぞ。ようやくマジクラらしくなってきた」


「…………」


 マジクラの世界では、昨日まであった山が明日もあるとは限らない。

 上位プレイヤーがその気になれば、一晩で平らにするからだ。

 特に上位プレイヤー同士が本気で抗争すれば、大都市どころか、地形が大きく変形することもよくある話であった。

 相手の拠点を潰すより、拠点を支える地表をこの星から消し飛ばした方が早いからである。

 マジクラ内では、三度大陸が水面に沈んだことがある。

 マジクラの戦争とは、そういうものなのだ。


「それなりのレア鉱石なら、いくらでも手に入るはずだ。喜べメイリー、前みたいに毎日《ミスリルのインゴット》が食えるぞ!」


「本当!? またお腹いっぱい、ミスリル食べていいの! ボク、主様のこと愛してるぅっ!」


 メイリーは満面の笑みを浮かべ、アルマへと抱き着く。


「現金な奴め」


 アルマはメイリーの様子に苦笑する。


 因みにミスリルはランク7の鉱石に当たる。

 片手で持てる鋳塊サイズで、五百万ゴールド前後の値で取引されることが多い。


「……アルマさんに常識は通用しないと、よくわかりました。いえ、出会った頃からわかっていましたが、日に日に更新されていくような気がします」


 エリシアが額を押さえてそう零した。


 そのとき、突然爆発音が響き、周囲が大きく揺れた。


「きゃあっ!」


 エリシアがその場に倒れそうになり、アルマはその手を引いて助けた。


「あ、ありがとうございます、アルマさん。この振動で、よく平然と立っていられますね……」


 エリシアがアルマを見上げれば、彼は逆の手で翼をがっしりと掴んでいた。

 メイリーは何にも支えられずとも、あっさりとその場に棒立ちしている。


「主様ー、ボク、あんまり翼、鷲掴みにしてほしくないんだけど」


「悪い悪い、咄嗟だったからな」


「や、やっぱりメイリーさん、お強いんですね……。しかし、今の振動は?」


 エリシアはゴーレムホールに目を向け、底が抜けていることに気が付いた。

 ゴーレムが二体落ちたらしく、数が四体しか残っていない。


「下に大きな空洞があって、繋がってしまったんでしょうか?」


「……いや、それは当然、警戒してた。どうやら、下から何かぶち当てられたらしい。恐らく、炎弾だ。ってことは、竜種だな」


「ドッ、ドラゴンですか!?」


 エリシアは目を見開いた。


「ああ、直下堀りはレア鉱石を見つけられるが、運が悪いと面倒な奴にぶち当たるデメリットがある。それでも、こんなダンジョンちょっと掘ったくらいで、ドラゴンがいるとは想定外だったがな」


 アルマは面倒そうに目を細め、首を振った。


「ちょっと掘ったくらい……?」


「ま……どうせ、大したドラゴンではないだろ。さっさと倒して、採掘を再開するか。まだまともに魔石が集まっちゃいないんだ」


「た、大したことのないドラゴンはいないと思うのですが!? アルマさん、これ、早くこの場から離れた方がいいんじゃ……」


 下に開いた穴から、大きな瞳がアルマ達を睨んだ。

 その魔物と目が合った瞬間、アルマも欠伸を止め、目を見開いた。


「う、嘘だろ……? なんでこの程度のダンジョンで、あいつが出てくるんだ?」


 アルマが声を震わせる。

 その声色には、明確な驚愕の感情があった。


「ア、アルマさん? どうなさったのですか?」


 アルマの珍しい表情に、エリシアは不安げに尋ねた。


『おのれ、下等種共め……よくぞ、この我の眠りを妨げてくれたな。何度も何度も、不快な音を響かせ、我が寝床に響かせた罪……万死に値する』


 地下奥底から、恐ろしい憎悪の込められた《念話》が放たれる。

 再び爆音が響き、下に空いていた穴が広がった。

 アルマ達の高さまで、蒼の炎の飛沫が飛び交った。


 残っていたゴーレム達も下に落ちていき、ドラゴンの姿の全体図が明らかとなる。

 全長八メートル前後の巨大な魔物であった。

 蒼く、透き通った体表をしている。


 落下したアイアンゴーレムの一体が、蒼に輝くドラゴンの腕に容易く握り潰されていた。


「に、逃げない、と……」


 エリシアは茫然と呟く。

 その後、ドラゴンと目が合い、腰が抜けてその場に崩れ落ちた。


『逃がしはせんぞ、愚かな下等種共! 我が炎の前に朽ち果てよ!』


 ドラゴンが再び《念話》を放ち、同時に咆哮を上げた。


「なんでこの程度のダンジョンに、ボーナスドラゴンがいるんだ!」


 アルマはぐっと拳を突き上げ、ガッツポーズを取った。


『……は?』


 ドラゴンも、思わず間の抜けた《念話》を放つ。


 ボーナスドラゴンは、マジクラプレイヤー達による俗称である。

 正式な名前はクリスタルドラゴンであり、体表が青く結晶化したドラゴンである。


 そしてクリスタルドラゴンの大きな身体は、なんと魔石として用いることができるのだ。

 故にボーナスドラゴン、故に賞与竜である。

 他にも歩く魔石、魔石竜、葱背負った鴨の愛称で、マジクラプレイヤー達に親しまれている。


『貴様ら全員、弄んで喰らってやるわ!』


 クリスタルドラゴンの怒号が響き渡った。

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(2020/4/27)

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