第二十三話 資源の調達
ヴェイン騒動から三日が経過した。
ヴェインは無事に終身犯罪奴隷として都市部に送られた。
アルマはハロルドに許可を取り、これまで以上に大々的に村の開発に着手できるようになっていた。
「いや、助かる。あんまりロックゴーレムを量産すると、怖がる村人も少なくなかったんだ。ハロルドの許可があると言えば連中も納得してくれる」
この日、アルマは村の外壁工事に出ており、視察に来たハロルドも同行していた。
「……正直、僕もちょっと怖くなってきたのだけれど、まぁ、うん、アルマ殿が大丈夫だと言っているのだから、信じることにするよ。アルマ殿のゴーレムより、魔物災害の方が遥かに危険なはずだからね」
ハロルドはやや引き攣った笑みを浮かべながら、二十体のロックゴーレムがせっせと石の壁を築いていくのを眺めていた。
「だろ? 話の早い領主様で助かる。この調子なら、村全体を囲える日もそう遠くはないな。ロックゴーレムも魔力供給できれば継続して何日でも動かせるから、エネルギー源になる魔石があると、村の警備もさせられるんだがな」
「ううん、魔石か……。悪いけど、この村にはあまり縁のない言葉だよ」
「ま、そりゃそうなるよな。最低水準の魔石でも、それなりの価格になる。おまけに、消耗もそれなりに激しい」
今のロックゴーレムは、魔力が切れる度にアルマが魔力を付与して再起動している。
だが、それはあまり長く持たない。
ロックゴーレムに大きな魔力を蓄えさせる構造を持たせられてはいないし、アルマ一人の魔力では何十体のゴーレムを継続して操り続けることはできない。
マジクラでは、高レベルのプレイヤーもそこまでずば抜けて魔力が高いわけではない。
基本的に、レベルが高いほどにスキルが多く、できることが多くなるというだけだ。
故にプレイヤーの強さは生身ではなく、技能によって生成したアイテムと、本人の分身でもあるといえる拠点の質に依存する。
ゴーレムに魔力容量と膨大な魔力を持たせるのには、魔力の塊でもある魔石を埋め込むのが手っ取り早い。
アルマの《天空要塞ヴァルハラ》にはちょっとした山が作れるくらいには魔石があったのだが、異世界転移の際に全て失ってしまっていた。
魔石を得るためには、ダンジョンにでも潜って採掘を行うしかない。
「しかし、これだけの石壁と、アルマ殿の《タリスマン》がある。そう急いで警備用ゴーレムにまで気を回さなくてもいいんじゃないかと僕は思うんだけど、アルマ殿はそうではないのかい?」
「どれだけ警戒しすぎても、しすぎるってことはない。はっきり言ってこの世界は、どれだけ魔物対策しても滅ぶときは滅ぶもんだ」
あっさりと放たれたアルマの残酷な言葉に、ハロルドは苦しげな表情を浮かべた。
「……そうだね。この村は今までずっとこれでやってきたから、僕もそういった感覚に少し疎くなっているかもしれない。都市部はどこも、高い壁を築き上げて、万全に住居を守っているからね。目前の食糧難が解決できたのなら、全力で魔物対策を講じるべきなのは、考えてみれば当然のことだったよ」
「ハロルド、言っちゃ悪いが、そういう都市部でも、滅ぶときはあっさりと滅ぶぞ。俺は高い外壁が崩され、都市が燃やされる様を何度も目にしてきた。魔王や
魔王とは、そのまま魔物の王である。
高い知能を持った魔物の中には、他の魔物を統率し、人里の蹂躙を企てるものが珍しくない。
そうした魔物の中で、都市一つをあっさりと滅ぼす力を有する者を、マジクラの中では魔王と呼んでいた。
一般的にイベントボスとして告知された末に登場するが、突然ランダム生成されてNPCの都市やプレイヤーの拠点を容赦なく焼き払うこともある。
指揮するスキルを持った魔物が率いていたり、群れる性質を持った魔物が集まった結果であったりと、その理由は様々である。
当然
NPCの都市や中堅以上のプレイヤーの拠点が壊滅する理由の多くは
魔物の質と規模によっては、それなりの熟練プレイヤーであっても成す術なく拠点を失うことが多い。
登録ユーザーがそれなりに多かったはずのマジクラがたった数年でサービス終了に至ったのは、
それに、アルマは敢えてハロルドには伝えなかったが、更に大きな、対処困難な災害もマジクラにはあった。
NPCの都市や中堅以上のプレイヤーの拠点が壊滅する理由のワースト一位、上位プレイヤーの悪戯心である。
彼らの中には蟻の巣に水を流し込むが如く、暇潰しに都市を潰していくような者も少なくなかった。
特に理由なく引き起こされる大災害によって滅んだ都市は数知れずである。
マジクラの風物詩とまでいえるイベントとなっていた。
この世界では他にマジクラプレイヤーがいるかどうかはわからない。
だが、この世界はマジクラの仕様を基に、そこから一つの世界として発展しているのだ。
当然、この世界の住人達はマジクラのNPCよりも遥かに賢い。
一人一人がこの過酷な世界で懸命に生きようとした結果なのだろう、マジクラにはなかった、ゲームの仕様に基づき、そこから発展した新しい文明が生じている。
だから、現地の人間が錬金術を極め、上位プレイヤー化している可能性も、ないわけではないのだ。
錬金術の腕前だけならいざ知らず、ゲームプレイヤー程度の倫理感しか有していない錬金術師が仮に存在するならば、間違いなくそれは最悪の敵になる。
本当にこの世界に、そんな存在がいるのかはわからない。
それに、ハロルドにはまだ上手く説明できそうにないので、アルマはここでは口にはしなかった。
しかし、そういう存在がこの世界にいるのならば、最優先で注意しなければならない。
この村の現段階の発展度では、とても想定できる数々の災害には対応しきれない。
「……この村の現状については、僕の考えが甘かったよ。だけど、現在以上にこの村で取れる対策はあるのかい?」
「無理だな、資源と資金が足りなすぎる。せいぜい石の壁をちょっと高くするのが限界だ」
「そうだよね……」
ハロルドが苦しげに漏らす。
アルマはニヤリと笑った。
「だから、資源を採ってくることにした。ちょっとばかり村を空けるぞ」