第十五話 アイテム錬金
「よし、よしっ、完成した!」
アルマは早朝から《鉄の錬金炉》に張りつきっぱなしであった。
村人達もアルマの様子をメイリーやエリシアから聞き、きっとヴェインとの直接対決に備えて壮大なものを造っているのだと噂していた。
「主様、何造ってたのー?」
メイリーが欠伸交じりに尋ねる。
「よく聞いてくれたな、メイリー! 見ろ、このアイテムを!」
アルマはカエルの頭がついた、水色の柄を持つ杖をメイリーへと向けた。
「……何それ?」
「《トードステッキ》だ。フフ、結構好きなアイテムだったんだ。いや、素材が手に入ってよかった」
「主様……それ、ヴェインとの対決の役に立つの?」
メイリーが白けた目で《トードステッキ》を見つめる。
「いや、実用性はあんまりないが……たまには、こういうのも悪くないだろ。ほら、俺だって、休憩が欲しい」
「えっ、ええっ、えええええええ!? あっ、主様、それ、面白半分で造っただけだったの!?」
「よせメイリー! 外に聞こえる!」
アルマは慌ててメイリーの口を塞ぐ。
「よ、余裕があったから、つい、な……。村人から結構色々な物をもらったから、ここで検証したいことも色々とできてしまって」
これまでの一週間、本人が楽しかったからということもあるが、ほぼ不休で村の食糧難に当たってきたのだ。
多少の脱線も仕方のないことではあった。
元より、アルマは重度のマジクラゲーマーである。
今のこの世界で、様々な変わり種アイテムを試してみたい、という思いがあった。
「それに、これはおまけで造っただけだ。本命はこっちだ」
アルマはそう言って、錬金炉の横に置いていた、黄金の輝きを持つリンゴを拾い上げる。
「主様、それは……?」
「フフ、これは《知恵の実》だ。どうにか材料が補えたのは幸いだった。錬金工房の規模が大きくなると、俺だけでは管理しきれないからな」
アルマの造った《知恵の実》は、《ブック》で確認すればこのような説明文を得ることができる。
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《知恵の実》[ランク:6]
リンゴを大量の魔力と純金で覆ったもの。
計り知れない魔力を秘めている。
口にした生物の魔力を覚醒させ、[モンスターランク:5]相応の潜在能力を発揮させる。
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ランクやモンスターランクは、一般的なマジクラプレイヤー達の間では最大10だと認識されている。
もっとも、アルマはアイテムも魔物も、12まで確認したことがある。
骸骨剣士やマイマイのような、平原に大量に出没するような魔物はどれも[モンスターランク:2]以下である。
[モンスターランク:5]というのは、それなりに危険度の高いダンジョンの奥地で出てくるボスにも匹敵する。
上手く使えば、強大な従魔を得られるアイテムである。
ただ錬金術によってのみ得られるアイテムであり、錬金スキルの熟練度がかなり高くなければ錬金失敗率が高いため、挑戦するにはかなりの投資を覚悟する必要がある。
その点アルマは錬金スキルの熟練度がプレイヤー全一レベルであったため、ほとんど失敗したことはない。
《知恵の実》自体、便利なアイテムなので何百個と造ったことがあり、錬金にも慣れている。
「なんだ、主様、遊んでたわけじゃなかったんだね」
メイリーが安堵したように口にする。
「来い、ホルス。いい餌があるぞ!」
アルマは扉の外へと声を掛ける。
メイリーは自分の仲間候補がどれほど屈強な魔物なのかと期待し、扉の外へと目を向けた。
「コッコー! コッコッコ!」
扉の外から、一羽の鶏が入ってきた。
真っ赤な鶏冠に、橙の大きな嘴を備えている。
「……主様、鶏が入ってきたけど?」
「よしよし、早く来いホルス」
「ホルス? アレが!? どこが!?」
メイリーは思わず大声を上げた。
「あっ、主様、やっぱり遊んでるんじゃ……」
「《知恵の実》で引き出せる魔力は、どんな生き物でも固定なんだよ。たとえば、メイリーが食べても、何も変わりやしない。だから、何が喰おうが、そういう意味では一緒なんだよ。それに、鶏は役に立つスキルを覚醒で身に着けてくれやすい。既にホルスが俺に懐いてくれているのも大きな理由だな」
ホルスは元々、村人からお礼にもらった鶏の内の一羽であった。
よくアルマの後を追いかけてくるので、アルマも名前をつけて可愛がっていた。
「そ、そうなんだ……いや、でも、なんだか納得できないというか……」
アルマはホルスを抱え上げ、頭を撫でる。
「よしよし、ほらっ、喰え」
アルマはぐいぐいと、ホルスの嘴に《知恵の実》を突き入れていく。
「ノッノッノッ」
ホルスが歪な声で鳴く。
「主様、それ、苦しんでるんじゃ……」
ホルスはごくんと《知恵の実》を丸呑みした。
うぶっと声を上げたかと思うと、ホルスの身体が細かく震え始める。
メイリーも、息を呑んでその様子を見守っていた。
ホルスの真っ白な毛が、見る見るうちに黄金色に染まっていく。
ホルスは首をぐぐっと伸ばし、気持ちキリっとした表情をした。
「……色以外、あんまり変わっていないような」
『力を授けてくださったアルマ様には、感謝しておりますぞ! ぜひこのホルスに、何なりとお申し付けを!』
ホルスは芝居掛かった動きで、ばさっと翼を伸ばした。
「ね、《念話》できるんだ……。ねぇ、主様、でもこの子、本当に強いスキル持ってるの?」
アルマは大きく頷く。
「勿論だ。《鶏成長促進》と《卵発生率強化》を持っている。どちらも強力なスキルだ。芋ばっかり、というわけにはいかないからな。卵は総合栄養食だ」
「ああ、家畜番なんだ……」
メイリーは、ちょっとがっかりした表情でホルスを見た。
ホルスはキリッと表情を引き締め、翼を伸ばして見せた。