乗換駅
「ねぇ、好きって言ったら怒る?」
「は?」
乗り換えの電車を待つ1分間。俺の後ろの椅子に座った彼女は突然そう言った。
「何言ってんだ? 別に怒んねえけどよ。そもそも、お前旦那いんだろうが」
「うん。そうだね」
彼女は、淡々と言いながら、俺の後頭にこつんと頭をぶつけた。
「でもさ、時々思うんだよね。もし、私が引っ越ししたりしないで、もう少しだけ一緒にいたらどうなったのか、とかね」
「まぁ、どうもならなかったんじゃねえの。俺とお前だぜ? 引っ越しが無くても、そのうち別々になってただろ」
「確かにそうかもしれないけど。でも、あの時まではなんだかんだ一緒にいたわけじゃない?」
「それは、そうだけど」
「だからさ、もしかしたらの話だけど、こうして反対の電車に乗るんじゃなくて、一緒の電車に乗ってる未来もあったのかもなぁって」
ふと、その光景が頭をよぎった。同じ駅まで歩いて、一緒に電車に乗って、乗換駅で同じ電車を待つ。二人は、顔を見合わせながら笑っていて……
「無いな」
「無いね」
「お前いっつも小さい事をガミガミ言うしな。そんなのいつまでも耐えられるとは思えねぇし」
「あんたがいつも適当過ぎるのよ。寝癖はほっとくし、ボタンは掛け違えてるし、見てらんなかったのはこっち」
そこまで言って、二人で同時に吹き出して笑った。
「ま、俺らはこんくらいの時間が合ってるんじゃねえの」
「そうね。それにしても、よくあんたに相手が見つかったわよね。私、あんたは一生独身だと思ってたのに」
「うっせ」
電車がホームに来る。それと同時に、俺は椅子を立った。
「じゃ、またな」
「うん。また明日」
俺は、いつものように、電車へと乗った。