puhutaan auroran alla

作者: 城河 ゆう

『』は英語での会話を日本語で書いている時に使ってます。

途中から、英語変換がめんどくさく――なんでもないです。

「何やってんだろ……私」


 正直、あの時はどうかしていたと思っている。

 なんせ、会った事もない人の誘いに乗って、日本から遠く離れた異国まで、こうして勢いで来てしまったのだから。



 事の発端は数年前。

 4年程付き合っていた人と、相手の浮気を原因に別れてからと言うもの、私は、友人曰く“この上なく荒んでいた”らしい。


 当時、それなりに優等生だった私は、単位に余裕があるのを良いことに、大学にも行かず引き籠って、ソシャゲ三昧の日々を送っていた。



 とは言え、元々あまりゲームはしない方だったので、どちらかと言えばフレンドとのチャットが目的でのプレイだったが、そんな中、他の人達がログアウトしていく日付変更の頃に、決まってログインしてくるプレイヤーがいた。



 “アル”と名乗っていた彼と、遅くまでいろんな話をしたり、一緒にクエストをしたりして仲良くなるのに、それほど時間はかからなかった。



 色々な話をする中で、アルが最愛の恋人との別れを経験したと知った私が、つい、自分が彼氏と別れた時の話をすると、アルは烈火の如き怒りを顕にした後、自分の事のように悲しんでくれ――


「“Yuki”,If you come to my country.

I'll introduce you to my friend Santa.

I'm sure you'll give me a nice present.」


 ――そんな言葉をかけてくれたのだった。


 何もかもがどうでもよくなってしまっていた私は、その言葉を聞いてすぐ、アルが住む国への旅行を計画し、その勢いのまま、ついにはフィンランドのロヴァニエミまで来てしまい、冒頭の言葉に繋がるわけなんだけど……まぁ、来てしまったものは仕方ない。


 あとは、現実のアルが、ゲーム内と同じ紳士であることを祈ろう。


「とりあえず、せっかく来たからには楽しまないとね。 行き先はもちろん――」






――あそこしかない!







 と言うわけで、やってきました、サンタクロース村!


 先に荷物を預けるため、市街地のホテルに向かったのは間違いだったんじゃないかと思うほど、空港の近くにあった。


 時間を無駄にした感がすごいけど、済んだ事でいつまでもブルーになっててもしょうがないし、二泊三日の小旅行、しっかり楽しまないとね!


「あ、そうだ。 アルにメッセ入れとこ」


 今回は観光が一番の目的で、そのついでに、あわよくばアルにも会ってみたいなぁ、くらいの気持ちでここまで来ている。

 そもそも、アルがフィンランドのどの辺りに住んでるのかも知らないので、いつものチャットでフィンランドまで来た事を伝えて、時間や場所が合えば、と言う程度だけど。


 いつものゲームのメッセージ機能を使って、アルに連絡だけはいれておき、改めて、目の前に広がる景色へと、意識を向ける。

 入り口の門に書かれた“SANTA CLAUS HOLIDAY VILLAGE”の文字に、自然とワクワクした気持ちになって来ていた。


 さぁ、全力で満喫するぞー!














 楽しい時間は過ぎるのが早いもので、いつの間にやら、辺りは薄暗くなってきていた。


 世界中の子供達から手紙が届く郵便局や、お手伝い妖精の仕事風景など、本当にここでサンタが生活しているんだと嬉しくなったり。

 サンタを発注できると言うのを知って「サンタェ( ゜Д゜)」となったりした。


 ちなみに、発注しても、流石に日本までは来て貰えそうになかった。

 現代のそりは“トナカイと共に空を飛ぶ”物ではなく、“沢山のプレゼントを運べる軽バン”のようだ。


 ……サンタェ( ゜Д゜)


 夢があるようで、夢のない話に、つい苦笑してしまったが、私は悪くないと思う。



 それはそれとして、もしかしたら、一日中日が沈まない“白夜”も体験できるかな、と思ってたけど、ちょっと来る時期が遅かったようで、聞いた所によると、ほんの数日前から、再び太陽が沈むようになったのだそうだ。


「さて、かなり満喫したし、だいぶ暗くなってきたから、そろそろお土産買って、ホテルに帰ろうかな」


 誰にともなく呟いて、お土産屋さんを物色していると、少し離れた所で何やら揉めているような声が聴こえてきた。


 フィンランド語は、正直ほとんど分からないけど、どうやら『◯◯を見た』『そんなわけない』みたいな事っぽい。


 UFOでも見ましたか?

 どちらにしても、私には関係ないだろうと、買い物を済ませ、店を出た所で――



――こちらを見ていた男性の二人組と、目が合った。



 1人は『あれを見ろ』って感じでこちらを指差し、もう1人は『信じられない』って感じの表情で呆然としている。


 他に誰か? と思い振り返るが、周りには誰もいないし、指差されたのは、どうやら私らしい。

 不思議に思いながら視線を戻すと、さっきまで呆然としていた男性が、突然猛スピードで駆け寄ってきて――


「Eliina! herän――……っ!」


 ――何かを叫びながら、私の少し手前で盛大に転んだ。


 急に近寄ってこられて、思わず飛び退いた私だったが、流石にいたたまれなく思ったのと、彼が叫んだ、恐らく名前であろう『エリーナ』の言葉に、つい手を差しのべてしまう。


「Are you OK?」

「Kiitos. ……kuka s――」

「Sorry. I don't speak Finnish.」


 何かを言いかけた男性を遮るように、フィンランド語が分からないことを伝えた私に、彼は驚いたように目を見開いたあと、苦笑を浮かべた。

 その表情は、悲しそうでありながら、どこかホッとしているようにも見える。


『あまりにも知り合いに雰囲気が似ていたものだから、驚いてしまって……びっくりさせて申し訳ない』


 フィンランド語が分からない事がちゃんと伝わったらしく、英語で話しかけてくれた彼は、「ははは……」と力無く笑いながら深々と頭を下げた。


『いえ、大丈夫です。 少し驚いただけですので』

『そう言って貰えると助かるよ……えっと――』

『あ、名前……結城 絵理奈(ゆうき えりな)です』


 名前を伝えると、また驚いたように目を見開き――


『驚いた。 名前まで似ているなんて』


 ――と呟くように言う。


 やっぱり、さっきの“エリーナ”さんが似ている人なんだろうなぁ、と思っていると、彼が突然『ん?……エリナ、ユーキ……ユーキ?』と、ぶつぶつ言い始めた。


『えっと……どうかしまし――』

『あのっ! もしかして、なんですけど――!』


 そう言って、スマホを取り出した彼は、サササッといくつかの操作をした後、画面をこちらに向ける。


 そこに表示されていたのは、よく見慣れた画面。


 そして、見覚えのある文章だった。
















 翌日、私は昨日の彼――“アル”ことアードルフさんに、ロヴァニエミを案内して貰っていた。


 明日の昼にはこちらを発つと聞いたアルが、『それなら今日1日で、フィンランドを好きになって貰えるように案内する』と申し出てくれたのだ。


 最初は少し緊張していたが、話していく内に、いつの間にかゲームの時のように、リラックスして話せるようになっていた。


 ――そして、夕飯を食べて、日も落ちた頃。


 ホテルに送っていく前に、1ヶ所だけ、寄りたい所がある、と言われて着いたのは、街から離れた丘の上だった。


「うわぁ……キレイ――」


 街の明かりも届かない場所だからだろうか。

 見上げた空には、日本では見たこともないような、満天の星空が広がっていた。


『今日はかなり空気も澄んでいるから、もしかしたら、と思ったんだけど――』

『とっても素敵。 ありがとう、アル』


 なぜか、少し残念そうなアルにお礼を言うと、彼はホッとしたように笑うと、そのまま地面に腰を下ろし、遠くを見ながら口を開く。


 語られたのは、彼の恋人だった、エリーナさんの事。



 ――彼女は。



 ――ガンで、亡くなったらしい。



 結婚の約束もして、準備を進めている最中の事だったそうだ。


『そんな彼女にプロポーズしたのが、ここでオーロラを見ていた時だったんだ』


『だから、親身になって相談に乗ってくれたユキには、ぜひ見せてあげたいって思ってた』


 そう言いながら、星空を眺めるアルは、とても悲しそうで……でも、何て声をかけて良いかもわからなくて――



 ――無言のまま、時間が過ぎていく。



 どれくらいそうしていたのか、アルが『そろそろ行こうか』と立ち上がろうとしたタイミングで――


『ねぇ、アル。 今日は、本当にありがとう』


 彼に、そっと声をかけた。


 立ち上がりかけたアルが、そのまま固まってしまったのを、視界の端で見ながら――


『いろんな事があって、何もかも嫌になって……自棄をおこして――』


 少しでも、私が感じた事を伝えてあげたくて――


『そんな私の話を聞いて、自分の事のように怒ってくれたり、たくさん相談に乗ってくれたアルは、他人の気持ちや痛みがわかる、素敵な人だと思う』


 大切な人を失って、哀しみや無力感に押し潰されそうになっている彼の心を――


『私じゃ、エリーナさんの替わりにはなれないだろうけど、アルがしてくれたみたいに、相談には乗れるからさ』


 少しでも、軽くしてあげたくて――


『そうだ! 日本には、こんな言葉があってさ――死んでしまった人は、大切な人をずっと空から見守ってくれてるって――』


そこから先は、言葉にする事ができなかった――


隣に座っているアルが、空を見つめながら、静かに涙を流していたから。



 その視線の先には――



 変わらず輝く満天の星空と――



 そんな星達の間を縫うように、淡く緑に輝く光の帯が、ゆらゆらと夜空を照らしながら漂っていた。

最後までお読みいただいてありがとうございます!


Google翻訳使いながらの執筆だったので、おかしな文章があるかもしれません。

その時はごめんなさい。