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第5話 驕りの塔【後編】

更新遅れてすいません

前回のあらすじ


「これより我々は旧アメリカ合衆国管轄ロスト・テクノロジー研究施設を襲撃する」


NESTの次なる目標。


それは星府がこれ以上強大な力を手にする事を阻止する事だった。


「何があったの!?」


突如、何者かに襲撃される研究施設『バベル』


「何なんだ?あの機体は」


異形の『襲撃者』。


「何故、貴方はフェーンに着いてきたんですか?」


仲間に刃を向ける広次。


「どうやら、『襲撃者』は本物の化け物らしいな」


圧倒的な力を持つ『襲撃者』。


今、戦いに新たな局面が訪れる。



「何故、僕がフェーンに着いてきたか、か」


広次の叫びを聞いたミキヤは自分でも驚くほどに冷静だった。


「そうです」


広次の相槌に、ミキヤは苦笑した。


─きっと、弟ってのはこんな感じなんだろうな。


そんな事を考える余裕さえあった。


「?何を笑っているんです」


「いや、何となく」


そう言ってから


「フェーンに着いてきた理由だっけ?答えるよ」


と言っても、とミキヤは付け加えて


「多分、広次と、いや違うな、NESTのメンバーと一緒だよ。確かに最初はイリスさんを護るためだったけど」


ミキヤは続ける。


「最初はイリスさんを救う為だった。いくらゲルゲネから救いだしても、世界そのものが変わらない限りイリスさんは救えないから」


でも、とミキヤは続けた。


「NESTに来て、僕は久しぶりにイリスさんの笑顔を見たんだ。それも飛びっきりのを」


ミキヤは続ける。


「僕はわかったんだ。イリスさんの居場所はNESTだって。僕の居場所はイリスさんの居場所、なら僕は居場所を護るためにNESTに居る」


それじゃダメかな?と広次に問いかける。


と、シノビがビームナイフを下ろす。


「無礼、お許しください」


広次がミキヤに詫びる。


「良いって。今度何かで埋め合わせすればさ」


さあ、行こうか。ミキヤは広次を促す。


広次は、今度こそ迷い無く任務を遂行すべく、シノビを研究施設に向けた。

「フェーン、来るよ!」


クロの言葉通り、『襲撃者』は上体を大きく反らし、その姿勢のまま急速全身、スルトに突っ込んできた。


「うっわ、気持ちわる」


そのまま体勢を変えずにスルトの眼前に到着。


上体を持ち上げる勢いを利用して『襲撃者』は攻撃する。


「だが、させない」


しかし、レイヴァテイン・ハンディによる斬撃で『襲撃者』の両腕を斬り飛ばし、そのまま距離をとる。


斬り飛ばされた両腕は、少しの間も置かずに胴体にくっつく。


「あの再生能力…アレを封じない限り俺達に勝機は無い…わけでも無い」


「フェーン?」


「クロ、Dsの発動準備をしてくれ、発動するDsは…」








「うん、わかった。上手くいくと良いね」


「成功させるさ」


フェーンはスルトにレイヴァテインを構えさせる。


「行くぞ、三下」


そしてそのまま『襲撃者』に突撃した。



「全く、ふざけた相手だ!」


気合い一閃、真一文字に『襲撃者』を斬り裂く武瑠。


既に三回ほど『襲撃者』を両断しているが、未だに決定打を与えられてない。


「落ち着け、ジャック。少なくとも両断してしまえば相手の動きは止まる」


アンジェの言葉通り、両断した際に、数分間『襲撃者』は動きを止める。


「でもよ、いくらバラバラにしても再生しちまうんだぜ!そんなんどうすれば倒せんだよ」


ジャックの泣き言にアンジェは簡潔に答えを述べる。


「なら、再生出来なくなるまでバラバラにし続ければ良い」


再び襲い来る『襲撃者』。その突撃を余裕でかわし、返す刀で首を撥ね飛ばす。


「結局、いつも通りか」


「シンプルで良いだろ?」


確かにな、とジャックは頷き再び『襲撃者』に意識を戻す。


「決めゼリフ、行くか?」


「趣味が悪いからやめろと言ってるだろ?いつも」


「…そりゃ、無えぜ」


今度は〝弾丸〟を打ち出してきた『襲撃者』を今度はビームダガーを投げつけて牽制、が重力波で落とされる。


そのまま『襲撃者』は重力球を形成。


それを武瑠に投げつける。


「でもよ、斬撃じゃアイツを破壊し続けらんねえぞ」


「…私もそれを考えていた」


「強がらなくて良いから、な」


うるさい、一言呟いてアンジェは再び武瑠に刀を構えさせる。


戦いはまだまだ長引きそうだ。



「宏海、そろそろ例のポイントだ、戦闘準備をしておけ」


予備のシートを引っ張り出してそこに体を固定したトーンが宏海に告げる。


「わかっています」


簡潔に答える宏海。


「カウントダウン、頼みます」


「了解した、目標ポイントまでのカウントダウンを開始する」


そう言ってトーンはカウントダウンを開始する。


「目標ポイントまで残り、10、9、8…」


「7、6、5、4」


「3、2、1…」


トーンのカウントダウンは正確にサムライの動きにリンクしている。

その事に宏海は感心しつつ、気を引き締める。


「0、目標ポイントに到達!」


トーンの合図と同時にサムライは目標ポイントに到達する。


と、同時に無数の光条がサムライに襲いかかる。


「うおわっ!」


トーンは悲鳴をあげる。


宏海は最低限の動きで光条(レーザー)をかわし、レーザーが放たれた方向を見据える。


「あれは…」


「小型射撃用遠隔操作型攻撃端末…ビット兵器に似ているな」


「おや、先ほどまで殿方らしからぬ悲鳴をあげていましたのに、よくそんな分析が出来ますね」


「…嫌みか、おい」


トーンがぼやく。


そんなやり取りをしている合間にもビット兵器の様なものはサムライにレーザーを撃ち続けている。


「くっ、面妖な!」


宏海は回避しながらビット兵器の様なものをドワーフから回収したビームライフルで狙撃する。


余談だが、NESTのHSは規格があっていない武器が使用出来るよう独自の改修を施されている。


狙撃されたビット兵器は、一撃で爆発四散した。


が、すぐに他のビット兵器がサムライにレーザーを放つ。


「…きりが無いな」


「…同意します」


突如、重力場の拘束を振り切って突撃してきた敵機─スルトに、『襲撃者』は素早く対応した。


周囲に大量の〝弾丸〟を生成。それを弾幕のように間断無くスルトに叩き込む。


「フェーン、あのDsは発動まで時間がかかるから、それまで時間を稼いで」


「わかっている」


フェーンは返答してから、ふっと笑った。


「あのDsを取得出来ていたのは幸運だったな」


「本当にね」


フェーンはレイヴァテインを大剣に変形させ、力任せに『襲撃者』に叩きつける。


それを『襲撃者』は重力場を応用して防ぐ。


そのまま『襲撃者』は右手に重力球を形成。スルトに叩きつけようとする。


が、その直後右腕が胴体から切り離される。


フェーンがあらかじめ放っていたブレードビットが『襲撃者』の攻撃を阻止したのだ。


「クロ、お前はとにかくDsの発動と制御だけに集中しろ」


返事は無かった。その必要も。


「広次、確か後3分後にここで合流する手筈だったな」


「その筈なんですが…」


バベル内部をミキヤと広次は警戒しつつ進んでいた。


「確かこの施設はロスト・テクノロジーの研究を行っていたんだろ、だったらなんで僕たちは今まで一度も敵に遭遇してない?」


ミキヤの疑問に広次は簡潔に答える。


「わかりません」


だよなぁ、とミキヤは溜め息を吐く。


「しかし、考えられる可能性が一つあります」


それは、と広次が言いかけた時、彼らの機体に通信が入った。


「援軍か!」


ミキヤと広次は思わず顔を見合わせる。


「所属と官姓名を一応教えてくれ!!」


「何か誤解しているようですが、僕たちは─「了解しました、私は佐伯ミキヤ上級准尉、こちらは私の部下のトーン・スローン准尉です。『バベル』が襲撃されていると聞いて救援に参りました。詳しい情報の提示を求めます」」


咄嗟の機転でミキヤは情報を引き出そうとする。


ちなみに上級准尉とは星府時代のミキヤの階級だ。


「そうか!助かる!!

我々バベル守衛部隊は今、何らかの組織の襲撃を受けている。『襲撃者』の目的は不明、研究棟にビット兵器のような物が向かったらしいが我々には確認が出来ない。我々は第34ブロックに籠城して敵機と交戦中!」


その言い方に広次は何か引っ掛かるモノを感じた。


「敵機?」


「そうだ、信じがたいことだが敵は単機で我々を制圧しようとしている!それも─」


「それも?」


「〝エルフ〟一機でだ!!」

一瞬二人は何かを聞き間違えたと思った。


「本当に、エルフ、なんですか?」


「ああ、そうだ。〝アールヴ〟かとも思ったが間違いない。こちらにはヴァルキュリアもいたというのに全く歯が立たなかった」


「ミキヤ、エルフでヴァルキュリアに勝つなんてことが出来るのですか?」


「さあ?ただ僕には出来ない」


ゴーレムタイプでドールタイプに勝つ事は極めて難しい。

同じ人型兵器でありながらドールタイプにはゴーレムタイプが持たない様々なシステムがある。


例えば、同調機能。これはドールタイプに圧倒的な反応力を与えている。

他にもアンドロイドのDsの覚醒やその機体性能の強化、機体性能の強化と言うと一見目立たないがその実多くの通常兵器を越えるほどの力を機体に付与する。


故に星府内ではオーナーは特別扱いされ、多少の問題行為には目がつぶられる。


「…わかった。今からそちらに向かいます」


「わかった!!増援感謝する」


「…中々、やりますね」


「元々僕は星府の軍人だ」


「…ああ、だからあんな嘘八百を並べる事が出来たんですか」


「ああ、言っておくけど…」


「わかってます、言う必要は無いですよ」


そして、二人は目的地に向かって機体を動かした。


キィン、キィン、キィン、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、閃、


アンジェとジャックは凄まじいまでの勢いで斬撃を放っていた。


それを『襲撃者』は全て受ける。


「取り敢えず、細切れにしてみよう、か。そんなんで上手くいくのか?」


「わからん。ただ、私たちは実際問題こいつを破壊する必要は無い。あくまで任務を達成するまでの時間稼ぎをすればいいだけの事だ」


「さっきの強気はどこ行った?」


ジャックが茶化す。


彼女達にとってもはや『襲撃者』の対策は出来上がったと言っても良い。


即ち仲間が任務を達成して帰還するまで、ただひたすら切り刻み続ける事だ。


『襲撃者』が距離を取ろうと後退する。


「させっかよ!!」


武瑠は、しかしあくまで離れる事は無く『襲撃者』との距離を離さない。


「アンジェ、アレ、出来るか!」


「安心しろ。稽古はこれまで一度も欠かした事は無い」


そう言ってアンジェは武瑠に刀を大上段に構えさせ、その、一切の防御を放棄した構えから一撃を繰り出すべく、Dsを発動する。


「月牙日輪流、月輪の構え、奥義ノ一『月光』…その身に刻め!!」


アンジェの叫びと同時、凄まじい光を放つ光波が『襲撃者』を襲った。



「フェーン、あの光…」


「アンジェがやったな」


月牙日輪流、それは旧極東地区に伝わる古い技術の一つ。


その技術とは即ち剣術。

アンジェレネ・ドッグウッドはその剣術の皆伝を女性で唯一受けている。


その動きをHSの戦闘に取り入れる事で、彼女はエースの地位を確固たる物にした。


「アンジェはやったんだ。俺もリーダーらしく、こいつを吹っ飛ばさないとな」


フェーンはスルトに大剣を下段に構えさせる。そのまま斬り上げの動作と前進の動作を同時に行う。


『襲撃者』は中心から真っ二つになるが、すぐに修復してしまう。


が、


「フェーン!!準備出来たよ!!」


「よくやった!クロ」


そう言ってフェーンは『襲撃者』の胸部にスルトの掌を叩き込む。


「Ds発動、量子テレポート。宇宙の果てまで行ってこい」


フェーンの言葉と同時、光が『襲撃者』を包み…そのまま『襲撃者』はこの場から消滅した。


「何なんだ、ありゃ」


「私にわかると思うか?」


『月光』の一撃を受け、両断された『襲撃者』はそのまま砂の様になってしまい消滅してしまった。


「アンジェ、通信が入っているぞ」


「ん、わかった。今出る」


そう言ってアンジェは通信に出る。


「大丈夫か?アンジェ」


「フェーンか…次はどうすれば良い?」


「その前に現状確認だ。トーンと宏海はどうした?」


フェーンの疑問にアンジェはあっさり答える。


「あの二人に『襲撃者』の相手は荷が重いと感じたのでな。先に行かせた」


「そうか…俺たちはこれからミキヤと広次の救援に向かう。お前達はそこで周囲の警戒をしていてくれ」


「了解した。幸運を祈る」


最後にそう告げて、アンジェは通信を切った。



「〝神の御遣い〟が現れたそうですね、ミシェーラ」


「そのようです。我が主」


やたらと豪奢な部屋に二人の男女がいる。


一人はミシェーラ・ドッグウッド。メイド服に身を包んだ彼女はアンジェレネ・ドッグウッドの実妹である。


もう一人は『情報屋』。

その正体を知るものは世界中を探してもいないだろう。


「しかも、その二機ともがNESTに討たれたそうじゃないかね」


「そのようです。我が主」


「なんだい。君はこの情報に興味を持たないのかね。その内の一機を討ったのは君の姉なんだろう?」


「お言葉ですが、我が主。情報に対しては常に冷徹でいろと言ったのは、私の記憶に誤りが無ければあなた自身のハズです」


「それはそうだが、君が動揺する姿が見てみたくなってね」


その言葉にミシェーラは嘆息する。


「我が主、あなたは私を拾ってくださらなければ、私はそこいらの道端で野垂れ死んでいたでしょう。

しかし、それとこれとは話が違います」


『情報屋』は足を組み直し、ミシェーラにこちらに来るよう手招きをする。


そのまま近づいて来たミシェーラを抱き寄せる。


「全く、君は最高の助手だよ。ミシェーラ。この私に意見をするなど今までには一人もいなかった」


そのままミシェーラも『情報屋』の胸に顔を埋める。


「光栄です。我が主」


ミキヤと広次が指定されたブロックに到着した時、すでに『バベル』守衛部隊は全滅していた。


そして、無数の機体の残骸の中心に〝それ〟は立っていた。


「機体照合完了。確かにあれはノーマルタイプのエルフです」


周囲を見回すと、ヴァルキュリアのプラグコクピットはまだ破壊されていなかった。


「広次、取り敢えずあのエルフを撃破する。コイツの戦力が通信通りなら、少なくとも足止めくらいはしないとトーン達が危ない」


「…わかっています。もともとその為に僕達はこのブロックに来たんですから」


広次がシノビにクナイを構えさせる。


ほぼ同時にミキヤはエルフにマシンガンを構えさせる。


「「行くぞ!!」」

二人は同時に飛び出し先手を取ろうと同時に攻撃を仕掛ける。


ミキヤがマシンガンで牽制し、その隙にシノビが接近、コクピットを破壊するという作戦だ。


星府時代からトーンと組んで任務を遂行する事の多かったミキヤはこういった単純な作戦が意外と成功しやすい事を知っていた。


しかし、敵機はスラスターを利用してクナイを回避、更にシノビに蹴りを入れる。


「ぐぁっ!!」


蹴り飛ばされたシノビのコクピットの中で広次は悲鳴をあげる。


そのまま敵機はシノビのコクピットにビームサーベルを突き刺そうとする。


「殺らせない!!」


ミキヤはエルフにビームサーベルを取り出させ、ブースターを使い敵機に接近。


ミキヤのエルフを驚異に感じたのか敵機は距離を取る。


「大丈夫か!!」


「…なんとか大丈夫です」


全然大丈夫そうに聞こえない広次の声に心配しつつ、ミキヤは敵機を見据える。


相変わらずサーベルを構えたまま、敵機はこちらを警戒している。


「ゴーレムタイプであの機動…ですか」


ふざけてる、広次にはそうとしか思えなかった。


「広次、次は僕が接近戦を仕掛ける。援護してくれ」


言うが早いか、ミキヤは敵機に向かって突貫する。


ワンパターンな攻撃に、敵機は返り討ちにすべく、構えを作る。


「広次、今だ!」


ミキヤの突貫とほぼ同時に広次はハンドガンで援護を開始する。


その射撃を意に介さず、敵機は構えを崩さない。


そのままミキヤのエルフは敵機の間合いに入る。


間合いに入った瞬間、敵機はビームサーベルを振るう。


凄まじい熱量を持つ粒子刃がエルフのコクピットを襲い─



ビームの閃光が閃く。

閃光がビット兵器を貫き、大破させる。


しかし、破壊したそばから新たなビット兵器が現れ宏海のサムライを襲う。


「これだけの数─どこで生産したんだ?」


「考えるのは後です!!」


そのまま弧を描くようにサムライはビットのレーザーを回避、そのままビームライフルで迎撃しようとして─


「弾切れ、ですか!」


「そりゃ、あんだけ外しまくればな」


トーンの言う通り宏海は最初の方、ことごとく射撃を外していた。


途中からトーンがアシストしなければ今も外していただろう。


「そんな事はどうでも良いです!!」


「良くねえ!!後少しで勝てるんだぞこの─」


トーンが言い終わらない内に機体が大きく旋回。


レーザーを回避する。


「武器は…」


「くそっ!!俺もドワーフさえ有れば…」


「一つ、ありました」


「よし、それで行こう」


宏海の言葉に内容も聞かずに賛同すりトーン。


「光波を利用してみます。トーンは標準を頼みます」


「光波って、おま…」


光波とはビームサーベルやレーザーブレードと言った光学系接近武装の切り札と言うべき攻撃だ。


武装のリミッターを解除して、オーバーロードする直前で振り抜くことで光波と呼ばれる攻撃を放つ事ができる。


光波は離れた相手を攻撃する事ができる。そのため接近戦を基本とするパイロットやオーナーはこの技を習得すべく、訓練を重ねているのだが正式な使い方ではないため標準が働かず、目視で放つしかない。


当然、そんな攻撃が簡単にあたるハズもなく当てるには相当の技術が必要だ。


「お前、そんな腕を持ってんのかよ!!」


「だから、あなたに標準を頼んでいるんです!確かに私にそんな技術はありませんが、それでもあなたがサムライの機動とビットの機動をリンクさせてくれれば、あるいは─」


言い終わる前にトーンは行動に移っていた。


「スコープ、借りるぞ」


そのまま前に出て、計器類を操作する。


「ちょ、どこ触ってるんですか!!」


「今はんな事気にしてる場合じゃ無いだろう!!」


そのままトーンは機体を細かく調整していく。当然、その間も機体は動き続けているのでトーンは何かにしがみつきながら作業を行っている。


「後で責任取ってもらいます…」


悪寒を感じながらもトーンは作業を済ませた。


「宏海、後はあんたが光波を放てるかだ。頼むぞ!」


トーンの言葉に宏海が頷く。



サムライのビームサーベルが肥大化する。


オーバーロードの前兆だ。


このままではオーバーロードでサーベルが壊れるだけだろう。


無論、そうはならなかった。


完全に肥大化が完了する直前、サムライはサーベルを振り抜いた。


トーンによる調整のお陰か、光波はあやまたずビット兵器を呑み込み、斬り裂いた。


「出来た…」


「次行くぞ、次」


「…無茶、しすぎです」


「…それほどでも無い、かな」


あの瞬間、ミキヤは間合いに突入した瞬間に全力で後退。空を斬った敵機が勢いつんのめったのを利用して、敵機の背後に回り込み背後から敵機を殴り飛ばしたのだった。


「…ゴーレムタイプであんなことする人は初めて見ましたよ」


広次の言う通り、今のテクニックはドールタイプを用いても上手く行くことが少ない。


「まあ、成功したんだから良いだろ」


ミキヤはそう言って笑う。今の敵は多少の無理をしなければ倒せなかった。


広次にもそれはわかっていた。


しかし、


「貸しを作ったまま死なないでください…」


そう言って、半壊したヴァルキュリアのプラグコクピットを引き抜く。


そして、そのままミキヤのエルフの方に向き直り…


「ミキヤ!後ろです!!」


へ?とミキヤが振り向いた時、敵機がエルフの胸部を撃ち抜いた。


そのまま力無く倒れるエルフ。広次は敵機にクナイを投げつける。


しかし、その必要は無かった。


これが最後の力だったのか、敵機はそのまま沈黙した。



光波を使い、ビット兵器を殲滅したトーン達は、研究員に通信を繋ぐ。


約束通り、報酬として研究成果を受けとる為だ。


「…宏海、繋がったぞ」


トーンの言葉通り、通信機からノイズ混じりの音声が漏れる。


「こちら、サムライ。約束通り研究成果を引き渡してもらいます」


宏海の言葉への返答はくぐもった笑い声だった。


「何がおかしいのです?」


「なに?計画通りに事が運んだんだ。笑って当然だろう」


「おい!宏海。ヤバい事がわかった」


仲間を救援すべく、バベル内を探索していたスルトにも、


施設の外で警戒していた武瑠にも、


ミキヤをコクピットからなんとか引きずり出した広次にも、その言葉は聞こえた。


「全周波回線で連絡する!!全員今すぐバベルから脱出しろ!今、バベルの地下動力炉が暴走している。臨界まで、後10分も無い!!」



フェーンとクロの反応は素早かった。


「全周波回線で通達する。 生存者は近くの端末で俺の位置を確認。そのままこちらに来い。タイムリミットギリギリまで量子テレポートの準備をしておく」


そのまま武瑠に通信を繋ぐ。


「アンジェ、ジャック。聞こえていたらで良い。壁とかぶち破ってメンバーの撤退を支援してくれ」



「勝手な事を言ってくれる!!」


そう言いつつ、アンジェは武瑠を起動させ、斬撃を放つ。


そのまま施設内に侵入。


味方機を探索する。


と、ノイズ混じりの通信が入った。


「アンジェさん!聞こえていたら返事を!!」


「広次か、どうした」


「ミキヤが負傷してしまって、取り敢えずこちらの位置情報を送りますので、救援お願いします」


「だってよ、アンジェ」


「トーン達は…大丈夫そうだな」


アンジェはそう言って機体の進路をミキヤ達の所へ変更。


そのまま斬撃を発動し道を切り開く。


「…間に合うと良いな」


「間に合わせるさ、ジャック」



ズカンっ!!という轟音と共に壁に大穴が開き、中から武瑠が姿を現した。


「生きているか?二人とも」


外部スピーカーからアンジェの声が聞こえてくる。


「アンジェさん!フェーンの所まで行けますか!」


広次はシノビのサブシートにミキヤを固定して既にいつでも出れる状態だ。


「壁をぶち破りながら行けば、な」


「そうですか、それでは一応報告しておきます。この施設の守衛部隊のヴァルキュリアのプラグコクピットを回収しました。残念ながら、オーナーは既にコクピットを破壊されていたため…」


報告しながらも、広次は機体を動かす。


武瑠はスルトがいる区域まで斬撃を使い、直接行けるようにする。


と、スルトから通信が入った。


「トーン達は今、合流したアンジェ、そちらの首尾はどうだ」


「ああ、今から行く」


そう言って通信を切る。


そのままスルトのいるブロックに向かうべく機体を動かす。


「広次、着いてきてるな!」


「大丈夫です。ジャックさん、まだ遅れていません」

「着いたか!」


「あれ?ミキヤのエルフは?」


クロの疑問に広次は簡潔に答える。


「ミキヤのエルフは中破したため置いてきました。

ミキヤは今負傷しているため、シノビのサブシートに固定しています」


広次の報告に、


「おい!あいつ大丈夫なんだろうな!!」


トーンが噛みつく。


「安心しろ、トーン。私も少し見てみたが、ちゃんとした治療をすれば、問題なく治るハズだ」


アンジェの言葉にひとまず安心する。


「準備は完了した。量子テレポートを発動する」


フェーンの言葉通り、NESTの機体の周りを光の粒子が取り囲む。


その粒子が消えた時、NESTの機体はこの場からいなくなっていた。



数日後


星府軍戦闘艦 ミストルティン


「ねーねー、ティム、知ってる?バベルが動力炉の暴走で吹っ飛んだって」


「ああ、確かお前のデータを送信していた施設だったな」


言ってみれば、クレバーのデータを解析していた施設である。


「怖いね〜。ティム」


「ああ、あのマッドな科学者どもがあんな単純なミスで全員死んじまうとは」


ティモシーはクレバーのオーナーである立場上、バベルの人間とは幾らかの付き合いがあった。


「そう言えばさ、ティム、この前、隊長に追いかけられていたけど何かあったの?」


「…聞かないでくれ…」



誰かに手を握られている。意識を取り戻したミキヤが最初に感じたのはその感触だった。


そのまま上体を起こすミキヤ。


「おっ、イリス。ミキヤが起きたよ」


次に聞いたのはクロの声だった。


クロの言葉を聞いて、自分の手を握っているのがイリスだと気付く。


「っミキヤ!!」


目を覚ましたイリスはミキヤを抱きしめる。


その結果ミキヤはイリスの胸に顔を埋めることになる。


「ちょっ、イリスさん。息が…」


いきなりイリスの胸…爆乳に顔を押し付けられ、窒息しそうになる。


「良かった…」


しかし、そんなイリスの声を聞いてしばらく息苦しいのは我慢しようと思った。


ようやく、イリスがミキヤを放した。


「全く、イリスを泣かしたら承知しないって言ったでしょ」


クロに言われてミキヤは自分が何をやらかしたのか初めて気づいた。


「そっか…そうでしたよね。すいません」


「私じゃなくてイリスに言いなよ。この娘、あなたが目を覚ますまでずっと付きっきりだったんだから」


クロの言葉を聞いて、ミキヤは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「で、イリス。ミキヤに話があるんでしょ?言っとくけど私は反対だからね」


そう言ってクロは医務室から出ていった。


ミキヤとイリスは医務室に二人っきりになる。


「本当に、良かった…」


「イリスさん…」


ミキヤは自分の油断からこんな結末を招いた事を恥じた。


「あ、あの、ところで話って何かな」


ミキヤの言葉に一瞬詰まるイリス。


そのまま、一つ息をして、ミキヤに向き直る。


「ミキヤ…頼みがあります」


「私の……私のオーナーになってくれませんか?」


第5話 完

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