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第4話 驕りの塔【前編】

レジスタンスもはや四話、と言うことで、初の前後編にチャレンジです!


よろしければ、感想など、お願いします!!




宇宙空間に漆黒と朱色の二機のドールタイプHSが立っている。


漆黒の機体がスルト、朱色が武瑠だ。


「これより訓練模擬戦闘を行う」


管制官の声に周囲の空気が変わる。


比較的ゆったりしたモノから殺気をはらんだ空気に。


「いざ、尋常に…」


大剣を構えるスルトと刀を構える武瑠。


「始め!!」


その一声で二機は弾かれたように動きだす。


「クロ、レイヴァテインを分解、ブレードビット射出」


最初に距離をとったスルトはレイヴァテインを分解し八機のブレードビットを展開。切り離されたブレードビットはビームを放ちながら武瑠を目掛けて飛んでいく。


「ジャック、ステルスシステム起動」


対してアンジェは武瑠のステルスシステムを使用、そのまま周囲の風景に溶け込むようにその姿が消える。


「ステルスシステム!?」


「そう言えばアンジェはマニュアルを読み込むタイプだったな」


武瑠を見失ったブレードビットをスルトは回収。レイヴァテインを大剣に戻す。


そのまま大剣を構え、眼前に出現した武瑠を迎撃する。


「流石ってとこか?」


「ジャック、どう言うことだ?」


ステルスシステムは完璧ではなかったのか、暗にそう問い掛けるアンジェにジャックは多少焦りながら、


「いや、そう言うわけでもないんだがな。クロの保持するDsの一つだろう」


ジャックの言葉通り、クロは感知系Ds『千里眼』を使用していた。


このDsは本来見えないものを見ることに特化した『千里眼』であり、その強化された視界により武瑠は捉えられたのだった。


「そう言うことは先に言え!」


しかし、流石は〝凶刃〟と言うべきか毒づきながらもすぐに体制を建て直し、距離をとる。


「ジャック、Ds発動!!」


ジャックのDs『切断』それを放つ。


強度に関係無くあらゆる物を切り裂く斬撃がスルトを襲う。


「クロ、Ds発動『切断』」


その斬撃を同じように斬撃を放つ事で相殺し、その勢いでスルトは体制を建て直す。


「腕は落ちてないようだな、アンジェ」


「お前に言われたくない!」


そのまま距離を取るべくスローイングダガーを投げつけ、武瑠は後退する。


「ジャック、行くぞ」


「止めてもやるんだろ?」


一瞬で意思の疎通を完了したアンジェとジャックは武瑠に対し、正眼に刀を構える。


そのままDsを発動、刀がエネルギーを帯びていく。


「行くぞ!」


その言葉と同時、刀が振り下ろされる。


「クロ、レイヴァテインを ラグナスに切り換えろ」


フェーンの指示を受けてクロはスルトの空間制御を起動。レイヴァテインの追加パーツを取りだしそれを取り付ける。


一瞬の静寂、そして─



「「行くぞ!」」


二つの斬撃が、空間を震わせ…


プシュー、と気の抜けるような音と共にシミュレータからクロとフェーン、ジャックとアンジェが出てきた。


「アンジェさん、これを」


そう言ってイリスはタオルを差し出す。


「あぁ、いつも有り難う」


イリスからタオルを受け取って汗を拭くアンジェ。


「それにしても、フェーンさんって凄いですよね。あれだけやっても汗一つかかないなんて」


イリスの言葉通りフェーンは汗一つかいてなかった。


「私にはブランクがあるからな。多少手を抜いたんだろう」


アンジェのその言葉にイリスの手伝いをしていたミキヤが声をあげる。


「手を抜いてた!?アレで!?」


実際、フェーンの見せたテクニックや判断は並のオーナーに真似できる事ではない。


「そんな事は無い」


いつの間にか近くにフェーンとクロが来ていた。


「最後の一撃。アレには正直ビビったぞ」


全然ビビったように見えない表情でフェーンが言う。


「ま、まぁ、それは置いといてさ」


微妙な空気を打破する為にクロが声をあげる。


「どうだった、アンジェ。 勘は取り戻せた?」


クロの問い掛けにアンジェは


「あぁ、お陰さまでな」


と返す。


「フェーン、私とジャックはいつでもお前の為に命を懸けることができる。覚えといてくれ」


「わかってる」


このやり取りを最後にこの場はお開きになった。


「凄いですね。フェーンさんもクロさんも、ジャックさんもアンジェさんも」


「確かにあんな事、真似出来ませんね」


イリスとミキヤが歩きながら会話している。


「技術の事じゃ無いです。あの信頼関係の事です」


イリスの言葉にあぁ、と頷く。


「『私とジャックはいつでもお前の為に命を懸けることができる』でしたっけ」


「そうです。あんなに信用されるなんて、私はフェーンさんが羨ましいです」


そう言いながら分かれ道に差し掛かる。


「それでは私はこちらなので」


そう言ってミキヤと別れる。


「よぅ、ミキヤ」


「いつから着けてた?トーン」


背後からミキヤに声をかけたのはトーン。


「いや、お前等が青春全開な会話を始めたあたりからずっとだが」


「…つまり、全部ってことか」


トーンの台詞に嘆息する。


「で、何の用だ?」


「いや、特に用があるわけでは無いのだがな」


一つ言っておきたい事がある、とトーンは前置きして


「イリスを泣かせたら承知しねぇぞ」


「…わかってる、フェーンにもクロにもアンジェにもジャックにも、取り敢えずこの基地の主力には全員から言われた」


クロ曰く、あんな良い娘、あんたには勿体無いくらい、らしい。


「…わかってるなら良い。オレもガキの頃は随分世話になったからな」


そう言ってトーンは会話を切り上げる。


それから数日後、フェーンから一つの任務がNESTに言い渡された。


「これより我々は旧アメリカ合衆国管轄ロスト・テクノロジー研究施設を襲撃、研究成果の強奪を行う」


ロスト・テクノロジー(遺失技術)とは、人類が地球から火星に移住し、テラ・フォーミングを行ってからの歴史の内に失われてしまった技術の総称である。


その代表格に火星に人類が居住することを可能にしたテラ・フォーミング技術がある。


「フェーン、一つ質問があります」


フェーンに質問したのは矢内広次。ゴーレムタイプHSシノビのパイロットだ。


「なんだ?広次」


質問の許可が下りたので広次はフェーンに問い掛ける。


「何故、今ロスト・テクノロジー技術を強奪する必要があるのです?」


広次の疑問はもっともだ。


今のところテロリストの一派としか思われて無い自分たちはプロパガンダを通して自らの正義を主張する事に集中すべきでは無いのか。


普通ならそうすべきだろう。


「それについては、実は気になる情報を入手した。上手くすれば〝オーディン〟に手が届くやも知れない」


失敗しても余り痛手は無いしな、フェーンはそう付け加えた。


「情報、とは?」


広次の姉の宏海の疑問にフェーンが答える。


「ロスト・テクノロジーの消失にはオーディンが関与している事は知っているな」


と、レジスタンスにとっては余りにも常識的な事を確認する。


通常、技術と言うものは文明そのものが滅んでしまわない限り受け継がれるモノだ。


しかし、遺失技術は〝通常〟ではない、〝例外〟なのだ。


遺失技術がこの星暦から消えた理由。

それはこの世界に人類が造り上げた〝神〟オーディンによる介入があったからだ。


それは、即ち遺失技術が世界にとって危険だとオーディンが判断したからに他ならない。


「通常の遺失技術研究は〝オーパーツ〟の解析によって行われるがこの研究所では技術そのものの再現(サルベージ)が行われているらしい」


フェーンの言葉に周囲がざわつく。


遺失技術自体はオーパーツを使う事で使用が可能だ。しかし、オーパーツも所詮は機械。いつかは壊れてしまう。


しかし、技術そのものを再現出来ればその前提は大きく変わる。


「これを許せば星府は今以上の支配力と影響力を持つことになる。研究者達には気の毒だが黙って見過ごすわけにはいかない」


納得したか?とフェーンは矢内姉弟に問い掛ける。


姉弟は無言で頷いた。


星府軍戦闘艦

ミストルティン 医務室


何か重いモノが自分の腹の上に乗っかっている。そして自分は身動き一つ出来ない。


『あぁ、これが噂に聞く金縛りってやつか』


ティモシーは寝惚けた頭でそう結論付けた。


寝返りをうとうとしても、乗っている何かがそれを許さない。


『マジか…』


そう心の中で驚嘆しながらティモシーは恐る恐る、瞼をあけた。




そこにはクレバーがいた。全裸にエプロンと言うカインツが喜びそうな格好で、両手両足をフルに使ってティモシーが動けないようにホールドしていた。


簡単に言えば全身をティモシーに絡み付かせていた。


「んぁ、ティム、起きたのと」


ティモシーは何も見なかった事にしてそのまま目をつぶった。


「おっかしいな、さっきはちゃんと目を開けてたのに」


そう言いながら、クレバーはティモシーの首の裏に両腕を回す。


そのまま体を前の方にスライドさせ、そして─


「えと、こういう時って、キスすれば起きるんだよね」


貞操の危険を感じたティモシーは飛び起きた。


「あ、ティム起きた?」


「どこでそんな歪んだ知識を仕入れてきた!!」


ティモシーの魂の叫びに答えたのはクレバーではなかった。


「カインツ様です」


ルキナがビデオカメラでティモシーとクレバーを撮影していた。


「なぁ、ルキナ。そのビデオカメラは何だ?」


ティモシーの疑問にルキナが答える。


「カインツ様が是非にも永久保存すべきだと言っておられまして…」


頭痛がしてきた。思わず頭を抱え込むティモシー。


「ついでに言えばクレバー様のファーストキス(上の処女)が失われる瞬間を保存したいと提案したのは私ですが」


ルキナの告白に頭痛が増す。


「ティム、大丈夫?

あのドールと戦ってからずっと目を醒まさなかったんだから」


そのクレバーの言葉にティモシーはそう言えばオルハに名乗った後の記憶が無いことを思い出す。



「そう言えばあの敵はどうなった?」


その疑問にクレバーが答える。


「えっと、逃げてったよ?艦長は基地が解放出来たから任務は成功だって」


クレバーの言葉にホッとするティモシー。


「あぁ、後カインツ様からお見舞いの品を預かっております」


そう言ってルキナが取り出したのは分厚いアルバムだった。


「何だ?これ」


アルバムを見て訝しげに尋ねるティモシー。


「どうぞ、中をご覧ください」


ルキナの言葉に取り敢えず中を開けてみた。


そこには多種多様なコスプレ衣装を着たルキナとクレバーの写真が張り付けられていた。


「何なんだ!?これは!!」


叫んでしまってから、

痛ぅ!と脇腹に痛みが走る。


「?どうしたの?ティムってこう言うの好きじゃなかったっけ」


「確かに好きだが!!じゃ無くって!!」


いつ撮ったと問い詰める。


隠し撮りも何枚か有るのだが、その大半は何らかのポーズをしてたり二人で絡み合っている。


「えっ、訓練終わった後の自由時間とかシャワー浴びた後とか」


撮り貯めていたのか、と確認する。


「ええ、後は今ここでクレバー様の処女喪失シーンを追加するハズだったのですが…」


不穏当な言葉が聞こえてきた気もするがそれは無視するとして、


「ルキナ、今ヘタレとか考えて無いだろうな」

ティモシーの言葉に


「ええ、殆ど裸の超絶美少女が自分に絡み付いているという最高の据え膳シチュエーションを無駄にするティモシー様ですが、ええ、ヘタレなどとんでもないですよええ、まったく」


旧アメリカ合衆国管轄施設『バベル』


そこは研究施設と言うには余りにも物騒な空気が漂っていた。


漆黒のドールタイプHS、スルトのオーナーであるフェーンはその研究施設を睨み付けていた。


「皆、聞こえているか?」


フェーンは今回の任務参加メンバーに声をかける。


「シノビ、矢内 広次、聞こえています」


「エルフ、佐伯ミキヤ聞こえています」


「サムライ、矢内 宏海聞こえています」


「ドワーフ、トーン・スローン。聞こえてるぜ」


「武瑠、アンジェレネ・ドッグウッド、聞こえてる」


今回の任務は隊を二つに分けている。


一つはフェーン率いる撹乱部隊。


これはエルフ、シノビ、スルトの機動力及び汎用性に優れている三機で構成されている。


もう一つはアンジェ率いる突入部隊。


こちらはゴーレムタイプには数少ない砲撃が可能なドワーフ、突破力に優れたサムライ、接近戦では無類の強さを誇る武瑠の三機で構成されている。



「任務開始は十分後だ。

総員配置につけ」


フェーンの命令に、HSが動く。


「最後に確認する、俺たちが十分後に突入し撹乱する、それから五分後に第2部隊が突入、施設を破壊しろ」




フェーンの言葉が終わるか終わらないかの出来事だった。突如、バベルの一角が爆発したのは。


「何があったの!?」


衝撃から一番早く立ち直ったのはクロだった。


「オペレーター、状況を報告しろ」


一呼吸遅れてフェーンがサポートスタッフに問い掛ける。


「わかりません、ただ我々以外の何者かがバベルを襲撃したようです!!」


「他には!」


「わかりません!」


オペレーターとやり取りをした後、フェーンはメンバーに指示をだす。


「予定を変更!状況を把握を最優先に行え!こちらは襲撃者側とのコンタクトを試みる」


フェーンの判断に


「悪いが、それは無理そうだ」


アンジェが異を唱える。



場面はアンジェの部隊に移る。


「何なんだ、あの機体は?」


トーンの疑問の通り、『襲撃者』は奇妙な外見をしていた。


『襲撃者』の外見は、人間の骨に犬の頭を取り付け、それを無理矢理巨大化させたような、実に奇妙な姿をしていた。


コクピットにあたる部位が見当たらないので無人機なのだろう、そして『襲撃者』の周囲には5、6発の弾丸のようなモノが浮かんでいた。


「既に私たちは『襲撃者』との戦闘に入っている!!」


そして、アンジェ達はその奇妙な『襲撃者』と戦闘を行っていた。


命中(あた)んねぇ!!」


トーンのドワーフによるビームバズーカによる砲撃、それをいとも容易くかわす。


「宏海!合わせろ!!」


宏海とアンジェの連携攻撃もかわしてしまう。


そして、


「ぐっ」


ドワーフが膝をつく。


「機体が重い…!」


そのまま『襲撃者』の周囲に浮かんでいた『弾丸』が加速。ドワーフのビームバズーカを破壊する。


『襲撃者』はドワーフを無力化したと判断したのか狙いを武瑠とサムライに定める。


「殺さない、か」


アンジェはそう呟く。


「腕に余程の自信があるのか、単なる馬鹿なのか」


そのまま武瑠は刀を取りだし正眼に構える。


「トーン!動けるか!」


ドワーフの通信機が生きてる事を信じ、通信を入れる。


「あぁ、何とか…」


トーンが返答する。


「そうか…、宏海!」


「はい!」


「お前はトーンと二人でバベルに潜入。データを奪ってこい」


「しかし!サムライはまだ無傷です!」


「だから、だ。お前はトーンを回収して当初の任務を遂行しろ。コイツ相手にお前は正直足手まといだ」


「っ了解…しました」


そう言い残して宏海は命令を忠実に実行する。



「どういうことだ!アンジェ!!」


通信を回復しようとするがそれを嘲笑うかのように一向に通信は繋がらない。


と、何者かからの砲撃がフェーン達に襲いかかった。


フェーン達は即座に回避行動に移るが、


「機体が重い!?」


普段なら余裕で避けれる砲撃が、ギリギリでしか避けられなかった。


「ミキヤ、広次、無事か?」


「何とか…」


「フェーン、アレは何なんです!?」


フェーン達の方にも『襲撃者』が向かって来ていた。


「クロ、レイヴァテインをハンディに」


フェーンの指示通り、クロはレイヴァテインを片手剣のサイズ、レイヴァテイン・ハンディに切り替える。


「二人とも、任務を遂行しろ、『襲撃者』は俺がどうにかする」


二人にそう言ってフェーンはスルトを『襲撃者』に相対させた。


二人がバベルに向かったのをフェーンは横目でみた。


二人を追おうとする『襲撃者』にフェーンは空間制御機能で取り出したビームライフルを撃つ。


ビームの光条は、しかし目標を貫くことなく『襲撃者』の前で消滅する。


「重力防御障壁、か。この機体、〝神の御遣い〟か?」


「フェーン?」


フェーンの口から出た〝神の御遣い〟という聞き慣れない言葉。


「何でもない。少なくとも今はあいつを倒すことに専念する」


フェーンの言葉に若干の疑問を抱きながらもクロは眼前の敵に集中する。


と、いきなり『襲撃者』の周りの空間が歪みだす。


そして、


「来るぞ!!」


フェーンの言葉通り『襲撃者』は既存のいかなる兵器をも越えるスピードでスルトに突撃してきた。


そのまま刃物のような腕部を超高速で降り下ろす。


が、スルトはレイヴァテイン・ハンディを用いてその斬撃を受け止める。


そのままスルトは『襲撃者』を蹴り飛ばし、そのまま自分も距離をとる。


「何だ?」


いきなり『襲撃者』がこちらに手のひらを向けてきた。


嫌な予感を感じたフェーンは機体を全力で後退させる。直後、つい先程までスルトが立っていた地面が陥没した。


「何コレ!?」


クロが驚愕の叫びをあげる。


「重力制御…恐らく何らかのオーパーツを使用している」


多分、あの機体は重力制御で動いているんだろう


フェーンのその言葉にクロは愕然とする。


「ちょっと待って、重力制御関連のオーパーツはまだ百機ちょいしか見つかってないんだよね、しかも全部星府の管理下に」


「そうだが」


クロと会話しながらも回避行動は怠らない。


「じゃあ、何であいつがそんなん使えるの!?」


「あの機体に使われているオーパーツが星府のものでは無いとしたら考えられるのは二つ、一つは何らかの勢力がオーパーツを入手してあの機体を作りあげた」


しかし、この可能性は限り無く低い、とフェーンは付け加える。


会話をしている合間にも『襲撃者』の猛攻は留まらない。


「そして、もう1つは─」


降り下ろされる『襲撃者』の刃。それを紙一重で回避し返す刀で斬りつける。


結果『襲撃者』の右腕が斬り飛ばされる、がすぐに機体にくっついてしまう。


「あの機体の重力制御機能が新規に作成されたモノである、という事だ」


「行くぞ、ジャック」


その言葉を合図に武瑠が『襲撃者』に突っ込んで行く。


『襲撃者』は幾つもの〝弾丸〟を打ち出して武瑠を牽制する。


武瑠はその〝弾丸〟を切り捨てながら突き進む。


「貰った!!」


武瑠の刀の間合いに『襲撃者』が入った、正にその時だった。


『襲撃者』の周囲の空間が急に歪み、凄まじいスピードで武瑠から距離をとる。


「何つぅスピードだよ!」


ジャックの言う通り、『襲撃者』は超高速域に瞬時に突入。そのまま突っ込んで来た。


「ジャック!居合いを起動する!!」


アンジェの指示に応じて、ジャックはDsを発動。


アンジェは武瑠に居合いの構えをとらせる。


『襲撃者』の超高速の突撃。


対し、構えたまま一切の挙動が無い武瑠。


動かない武瑠に『襲撃者』は超高速で突っ込んでくる。


そして、武瑠の刀の間合いに『襲撃者』が入ったとき武瑠は動いた。


最も、その動きを視認する事はアンジェ達自身にも極めて困難だったが。


光速の斬撃が『襲撃者』を切り裂く。


両断された『襲撃者』は力無く地面に倒れ伏した。



「トーンさん、コクピットは狭いのですからもう少し詰めてもらいたいのですが」


宏海の言葉にトーンは、


「無茶言うな!!」


と、コクピットの片隅に追いやられた姿勢で叫ぶ。


「はぁ、まったく我が儘な殿方です」


「お前も大概ドSな女だな!!」


そんなやり取りをしながらサムライはバベル内の研究施設を駆け抜ける。


と、急にサムライに通信が入った。



「おい、通信が来てるぞ」


「でてください。乗せてあげてるのですからそれ位、当然でしょう」


「…面倒くせぇ」


ぼやきつつもトーンは通信機を操作する。


「お、出たぜ「そこのHS!!」」


トーンが通信に出るや否や、緊迫した男性の叫び声がコクピットに響いた。


「たっ助けてくれ!!所属不明の部隊に攻撃を受けているんだ!!」


「はぁ?」


「いっ良いから!!早くしてくれ!、そうだ、貴様らはレジスタンスだな!!何なら研究成果をくれてやる!!」


「わかりました、貴方の現在位置をお教え下さい」


宏海はそう言って研究者と一言、二言言葉を交わす。


「良いのか?」


「何を言っているんです?私たちの目的は研究成果の奪取です。彼の申し出を受けることは私たちの目的に何ら反する事はありません」


そう言ってサムライを目的のエリアに向ける。


彼女の判断がどういう結果をもたらすのか、今は誰も知るものはいなかった。


「貴方は何故、フェーンに着いて来ようと思ったんですか?」


バベルに突入してから数分後、広次はミキヤに問いかけた。


「は?」


ミキヤは思わず聞き返す。


「いえ、貴方には星府の将校として輝かしい未来が約束されていた筈でしたのに、貴方はそれを全て放り出してフェーンに着いてきた」


「…今する話じゃ、ないでしょう」


ミキヤは話を逸らそうとする。


「今だから、聞いているんです」


そう言い放ち、シノビはエルフにビームナイフを向ける。


「何の真似です?」


内心パニックに陥りながらもミキヤは広次に聞き返す。


「誤解の無いように言っておきましょう。これは自分の判断です。決してフェーンの命令では無い」


「なら、何故こんな事を!」


ミキヤの疑問に広次は、


「フェーンには甘い所があります。それは彼の美点でもあり弱点でもあります」


一見関係の無い話を広次は始める。


「もし、貴方が星府の密偵だったとしたら、それはフェーンに打撃を与える事になります」


「ついでに言えば今なら貴方を落としても、『襲撃者』に撃墜されたと言えば問題ありません」


広次は畳み掛ける。


「さあ、教えてください。何故貴方がフェーンに着いてきたのかを」



「何とか、切り抜けたか…」

「だな」


ジャックとアンジェは武瑠のコクピットで一息吐いていた。


「さて、私達も動くか」


そう言ってアンジェは武瑠をバベル内部に向ける。


「ああ、そうだ…っアンジェっ伏せろ!」


いきなりジャックの言葉に半ば反射的に武瑠を操作、機体が地面に伏せる。


と、機体スレスレの位置を何かがかすめる。


「…どうやら、『襲撃者』は本物の化け物らしいな」


そう言ったアンジェの視線の先、『襲撃者』が殆ど無傷のまま立っていた。


第4話 完

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