第3話 ヤドリギ
今回はNESTから離れた話になります。
これまでもたまに出ていた〝彼ら〟の活躍をお楽しみください。
「…ゲットー管理局は消滅、NESTに凶刃が戻り更に未確認情報ではあるがスローターの使用、か」
惨憺たる報告にロベルト・グラスは嘆息する。
特にスローターの使用がひどい。
いかに星府の情報統制能力が優れていようとも人の口に戸は建てられない。
噂は少なくとも裏社会ではすぐに広まるだろう。
しかもコレは少なめに見積もった計算で実際はこれ以上の被害がでると思われる。
「全く、文官が武力を使うからこうなる」
タオ・ヤンは軍事教練を受けていなかった。
しかし星府では例え文官であっても一定以上の階級の人間は軍隊を動かす事ができる。
「きちんとした軍人なら決してこのような蛮行は行わないだろう」
彼はシビリアンコントロールという考え方に反対だった。戦場を経験するどころか軍事教練すら受けた事の無い政治屋に武力は使いこなせないと考えている。
「…愚痴っぽくなってしまったなギルベルト」
「お前の愚痴を聞くのも仕事の内なんでな」
ミストルティンの艦長ギルベルトと彼は士官学校以来の親友でありライバルだった。
「して、ギルベルト。ミストルティンはテロリストの鎮圧に向かってくれ。場所は第114資源採掘基地だ」
「ほう、NESTの相手はどうなった」
元々試作型アンドロイド及び新型ドールタイプの実験艦という側面が強いミストルティンはその性質上自由に行動できる範囲が広い。
「クレバーの教育のためだと思ってくれれば良い」
「しかし、なあ」
「命令だぞ」
「わかっちゃいますけど、あんたはティモシーを過労死させる気ですか?」
自分が命令と言うとこのひねくれ者はいつもこの口調になる。
「何かあったのか?」
「あぁ、うちのクルーに有ること無いこと吹き込まれたクレバーがスク水でティモシーに迫ってな」
「…それは災難だったな」
クレバーの外見は十代前半。ティモシーの年齢を考えると
「…犯罪だな」
「あぁ、犯罪だ」
犯人はもちろんティモシーである。
「誰が犯罪者だ!!誰が!!」
仮眠から醒めるなり叫んだティモシーの隣で
「ティムう〜る〜さ〜い〜」
ティモシーの横に何故か彼のPAのクレバーが横たわっていた…何故かスクール水着を着ていてご丁寧に『くればー』と名札が付いている。
最近不規則発言が目立つ相方を心配して、クレバーはどうやったらティモシーが喜ぶのかミストルティンのクルーに聞いて回った所、
『そういやティモシーバニー最高とか言ってたな』
『バニーって何?』
『あぁ、それはだな…』
こうしていらん知識を植え付けられたクレバーは
『でもウサミミなんてここには無いよ』
『ならスク水で代用するしか無いな』
こうしてクレバーはミストルティンのドールオーナーからスク水を渡されそして
「っておい」
「ティム、どうしたの?」
「なんであいつがスク水を持っている!!」
ティモシーの当然すぎるツッコミに、
「クレバーたんに着せるためだって」
その言葉を聞いて後でしばき倒そうと心を決める。
「でも良かった、ティムが元気になって」
にぱっと笑うクレバーに全てを許してしまいそうになる。
スタスタスタと壁際に歩いていき、
「オレはロリコンじゃない俺はロリコンじゃないオレはロリコンじゃない…」
壁に頭を打ち付け始めた。
「あわわ、どっどうしたのティム、もしかしてこわれちゃった?」
いきなり奇行を開始した相方を止めようと後ろから羽交い締めにしようとする。当然クレバーの体格で可能なワケがなく結果的に飛び付く事となる。
いきなりバランスを崩されたティモシーは受け身を取り、その結果クレバーを押し倒す形になる。
「ティム、入るぞ」
その声と共にミストルティンドールタイプHS隊隊長、ギルバ・フォックスがドアを開けた。
ギルバが部屋に入ってまず目に入った物は乱れたベッドだった。
そしてスク水姿の外見年齢12、13歳の少女を押し倒す部下の姿を見た。
「ティモシー・黒崎」
フリーズした思考を建て直し、ティモシーの名を呼ぶ。
「は、はい!!」
下着姿のティモシーが直立して敬礼する。
因みにティモシーは寝るときはどんな状況でも下着姿だ。
ティモシーの衣装がこの状況の犯罪性に拍車をかけていた。
「貴様、何をしたのか、解っているのか?」
「誤解です!ギルバ小佐!」
「下着姿で少女にそんな破廉恥な格好を強要して、押し倒して、それを誤解、だと?」
「あのね、ギルバ小佐、この格好は私が好きでやってるんだよ」
だからティムを苛めないで、そう訴えた。
「そうです!この格好はクレバーが勝手に!!」
「勝手にそんな格好をするよう調教したということか」
「駄目だこの人!!聞く耳持たねぇ!!」
ゆらりと立ち上る陽炎のような殺気。それがティモシーに向けられる。
「覚悟しろ!!この変態野郎!!」
次の瞬間、ティモシーの悲鳴がミストルティン全体に響き渡った。
ギルバ・フォックス、彼には13歳の娘がいた。余談だが。
「それで、だ」
「〝それで、だ〟じゃないですよ全く」
結局あの後逃げ回って去勢だけは避けたティモシーだったがその顔には疲労の色がありありと浮かんでいた。
「次の任務、我々は第114資源採掘基地を占拠したテロリスト共を駆逐する」
「は?」
「もう一度言おう。これから我々は第114資源採掘基地を占拠したテロリスト集団『アルカイオス』を討伐する。ちょうどバルドルの実戦データが必要だった頃だ。敵対勢力にドールタイプの存在が確認されている」
一方的に告げて、
「今回の作戦は貴官がオーナーとなって初めての実戦だ、覚悟しておけ」
そう言い残して去っていった。
NEST本部
フェーンの執務室
「アルカイオスが決起したか」
「そうみたいだね、フェーン」
言いながらもフェーンは作業の手を止めない。
「で、どうするの?助けに行く?」
クロの質問にフェーンは
「いや、今回は様子を見ようと思う」
あっさりと返す。
「現在NESTの戦力で動かせる最大戦力はジャック&アンジェのペアだがわざわざ切り札を切る必要は無いだろう」
となると、と彼は一息を置いて
「訓練期間中の新兵を出しても効果は薄いだろうし、俺自身が出ても問題がある」
ならば、と前置きして
「古参のメンバーを使うのが一番有効だが正直な所そこまでして助ける必要が有るとは思えない」
「なんで?」
クロの疑問は最もだ。彼らは同じ志を持つレジスタンスであるからだ。
「簡単だ。彼らの行動には未来が無い。仮に彼らがオーディンを破壊し星府を倒したとして、その先にどんな未来が有る?」
フェーンの口調は辛辣だ。今回の件でアルカイオスというレジスタンスが強力な力を持っている事が判明した。
恐らくこれだけがアルカイオスの全戦力と言うわけでは無いだろう。
「彼らは俺達が潜伏している間は動かず決起してから動いた。星府の基地を占拠するだけの力を持ちながらだ」
それだけの力があれば何人ものヒトを救えたろうに。
そう締めくくった後、
「とは言え俺達の戦力も万全と言うわけでは無い、という理由が無いわけでは無いがな」
彼は義父の言葉を思い出す。
「『勝つことは簡単だ。問題はどうやって勝ち続けるかだ』」
その言葉にクロが反応する。
「シドさんの言葉だよね、それ」
「ああ、つまり今回は見せてもらう事にする」
アルカイオスが勝ち続けられるかを
「HS-DALL-0-2 バルドル、同調機能、起動します」
そう言ってティモシーはクレバーを媒介にバルドルと自分をリンクさせていく。
地球時代の神話における神の子の名前を冠した戦闘兵器はその身にヒトの意思を宿していく。
「空間操作機能のチェック完了。いつでも行けます」
ティモシーの言葉に
「了解しました、ギルバ小佐、及びカインツ准尉はどうなってます?」
するとギルバのPAであるリリーが
「完璧ですわ、私達の同調は」
そう答えた。
「僕とルキナの同調も完了しています。いつでも行けます」
カインツが返答する。
「ところでカインツ。お前がクレバーにスク水を与えたそうだな」
ティモシーの問いかけにカインツは
「クレバーたんに着てもらうために恥を忍んで購入したんだ。渡すのは当然だろう?」
ティモシーの額に青筋が浮かぶ。
「ルキナとやれ、そういう事は!」
「お言葉ですがティモシー様。私はもうやっています」
カインツのPAルキナの言葉にティモシーは諦めたくなる自分を制さなければならなかった。
「お前ら、おしゃべりはそこらへんにしておけ」
ギルバの言葉にティモシー達は表情を引き締める。
「今回の作戦の目的はテロリスト集団アルカイオスの撃破だ。敵は防備が薄かったとは言え基地を占拠するほどの相手、余り無茶はするな」
そう言うとギルバは
「特にティムは実験機だ。我々が全力でフォローする事になると思う。遠慮せずに頼ってくれ」
「了解しました。全力で頼らせていただきます」
「良い返事だ」
このやり取りを最後にギルバは自身の乗機であるヴァルキュリア改をカタパルトにセットする。
「全員の帰還をもって今作戦は成功とする。死ぬ気で生き抜け!!」
「カインツ・グランベル、了解しました」
「ルキナ、了解しました」
「ティモシー・黒崎、了解しました」
「ええと…、クレバー、了解したよ」
「ティム!この作戦はクレバーたんの初陣だ!!きっちり勝とう!」
緊張気味のクレバーを気遣ったのかカインツが声をかける。
「わかってる!お前こそ油断すんなよ!」
そしてギルバのヴァルキュリア改が射出された後、カインツのヴァルキュリア砲撃戦仕様が配置に着く。
そして最後にティモシーのバルドルがカタパルトにセットされる。
「ティモシー&クレバーペア、バルドル、いつでも出撃できる」
「了解、射出タイミングをお二人に譲渡します」
オペレーターの言葉にティモシーは大きく深呼吸して、
「クレバー、余り緊張するなよ」
「うん、ありがと」
「バルドル、出撃する!!」
その言葉と同時、バルドルが射出された。
第114資源採掘基地
司令室
そこでは一人の男が通信をしていた。
「そうか、NESTが動く可能性は限りなく低い、か。
貴重な情報有り難う」
「お気になさらず。これが我々の仕事ですので」
通信機を置いた後その男は一息を吐いて、
「ペルセウスの準備をしといてくれ。早急にな」
男の声に周囲の人々が素早く動く。
「キハ、ハナ、この基地を脱出する準備をしておけ」
男の声に彼の背後に二人の少女が現れる。
二人の少女は全く同じ外見をしており事情を知らない人間が見たら同型のアンドロイドに見える程だ。
「Yes、master」
そう言って双子の少女は脱出準備のため持ち場を離れる。
「オルハ様、情報屋はなんと言っていたのですか?」
アルカイオスのメンバーが男─オルハ・クーリッジに尋ねる。
「星府軍はなんと新造戦艦ミストルティンを投入してくるらしい。それに今回はNESTも動きはしないだろうとのことだ」
NESTのリーダーは頭が切れるらしい。そう付け加えて
「残念だ。ここに出てくるような愚か者だったならば利用し尽くしてやれたのにな」
「ティム、聞こえているか?」
まずは通信機の調子を確めるためギルバはティモシーに通信をいれる。
「聞こえています(るよ)」
ティモシーとクレバーが返答する。
「会敵まで後50秒、気を抜くなよ」
そう言ってギルバはヴァルキュリア改を加速させる。
「敵機確認。敵はゴーレムタイプHSニュンペーです」
「鹵獲された機体か」
ギルバの問いに
「いえ、新たに作成された機体のようです」
その言葉が終わるか終わらないかの内にニュンペーがビームライフルで攻撃を仕掛けてきた。
ニュンペーの特徴は独特のバックパック換装機能である。この特徴によりパーツさえ揃っていればどんな戦場でも使うことができる。
「ニュンペーか、厄介な相手だが…」
ギルバの言葉を
「ドールタイプの敵じゃ無い!!」
ティモシーが引き継ぐ。
ドールタイプが他の戦闘兵器よりも圧倒的に優れている理由。その一つは同調機能にある。
この機能は機械細胞でできているアンドロイドを機体とオーナーの仲介にする事により通常の機体を遥かに越える反応速度、究極的には『考えるだけ』で機体が動くようになる。
無論、そこに至れるオーナーは極少ないがそれでも反応速度は通常兵器の比ではない。
ニュンペーのビームライフルによる射撃を掻い潜りながらヴァルキュリア改はお返しとばかりにビームマシンガンを放つ。
マシンガンによる掃射を受けたニュンペーは蜂の巣になって爆散する。
続いてバルドルが空間制御機能により独自空間から長銃を二門取り出しニュンペーを撃ち抜く。
被弾したニュンペーは爆散した。
ヴァルキュリア改とバルドルの死角にいたニュンペーがバルドルに襲いかかるがそれはカインツのヴァルキュリア砲撃仕様の狙撃にコクピットを撃ち抜かれそのまま機能を停止する。
「よし、後はゴーレム部隊に任せて先に行こう」
ギルバの言葉通りミストルティンからエルフやドワーフが射出されている。
「ここは俺達に任せろ!」
「あんた等は先に行って奴らを鎮圧してくれ」
彼らの言葉に背中を押されるように、
「了解した。カインツのヴァルキュリアと合流しだい前進する」
「メティス、準備はできているか?」
オルハは自身のPAに問いかける。
「つーか、出来てなくてもやんなきゃでしょ」
つれないねぇ、とオルハはこぼし、
「キハ、ハナ。お前等はどうだ」
「「私達とポルクス(カストル )及びロムス(レムス)は常に完璧です」」
「そりゃ、頼もしい」
そう言いながらオルハは同調機能を起動する。
「さぁて、奴らに一泡吹かせるか」
ミストルティンのドールタイプのコクピットに突如として警報が鳴り響く。
『聞こえてますか!三人とも!』
オペレーターの緊迫した声が通信機から三人の耳に突き刺さる。
そしてレーダーには突出した機影が三機、映しだされている。
「突出した機体を三機確認!恐らく三機ともドールタイプです!!」
オペレーターの報告にティモシーとカインツは耳を疑う。
「ティモシー、カインツ」
部下の動揺を悟ったのかギルバが二人に声をかける。
「ここは戦場だ。〝あり得ない事はあり得ない〟んだ」
「ほう、もう少し動揺すると思ったが、中々どうしてやるものだな」
オルハが感心しているそばで、
「てか、あいつ特機じゃん。ヤバくない?」
メティスが言葉とは裏腹に余り緊張感の無い声で言う。
「「どちらにしろ、目標は撤退までの時間稼ぎです」」
キハとハナのPAロムスとレムスが応じる。
「わーってるよ」
面白くない、そうこぼしつつメティスは星府軍の特機…バルドルを見る。
「本当に、面白くない」
そう言って彼女とオルハは機体の空間制御機能を起動。
ペルセウスは武装集約型機構攻盾〝イージス〟を取り出す。
「さ、行こうか」
メティスの言葉と同時、ペルセウスがバルドルに向かって加速した。
「ティム!おっきい盾を持った機体が突っ込んで来たよ!」
「見ればわかる!!」
ティモシーとクレバーは突っ込んでくる敵機体…ペルセウスを迎撃するためにバルドルに二門の大型ビームライフルを構えさせる。
「ティム!連射は三回まで、ブレードは10分間維持できるよ!」
「サンキュ、クレバー」
そう言いながらトリガーを引く。
極太の火線が二つ、ペルセウスの盾に直撃した。が
「無傷だと!」
「嘘っ!」
殆ど無傷の状態で更に速度を上げて来た。
「っクレバー!Ds発動、短期未来予測!!」
クレバーの保持するDsの一つである短期未来予測。それは三秒先までの未来を予知し、それをビジョンとしてアンドロイド及びオーナーの脳に映し出す事が可能だ。
時間が引き延ばされるような奇妙な感覚が二人を襲う。
そして─
「「「「!?」」」」
キハ、ハナ、ロムス、レムスは驚愕していた。
前方のペルセウスで手一杯のハズの星府の特機─バルドルが完璧なタイミングで不意討ちした自分たちを迎え討ったからだ。
そのまま彼女らの機体──キハとロムスのポルクスとハナとレムスのカストルを振り払ったバルドルは機体のスラスターをフルに使ってポルクスとカストルから距離を取る。
そこにカインツのヴァルキュリア砲撃仕様のビームカノンが叩き込まれる。
それを難なくかわして迎え討とうとするが…
「部下は殺らせん!!」
ギルバのヴァルキュリア改が斬り込んでくる。
この二機の相手に手一杯になっている内にバルドルはペルセウスの背後に回り込もうとする。
─このままではオルハ様に危険が生じてしまう!!
彼女達の共通思考はそう考えすぐにバルドルを追撃しようとする、が
「殺らせねぇって、言ったろうが!!」
特殊な装備を施されたヴァルキュリアに行く手を阻まれる。
「「「「邪魔を、するなぁあああぁあ!!」」」」
「クレバー、今の敵のDsはコピーできたか?」
「うん、でも私には使えないチカラだよ」
「…なるほど、共通思考領域か」
恐らくこれは二人のアンドロイドが一つのDsを持つのだろう、と考える。
このDsは簡単に言えば以心伝心というのが一番近いだろう。
要は、彼らは全ての情報を共有する事により完璧な連携を取ることが出来るのだ。
「行くぞ、クレバー」
「ティム、頑張ろ」
一瞬で気持ちを切り換えた二人は眼前の敵を見る。
巨大な盾を持つ機体─ペルセウスが盾を変形させる。
「盾がクローになっちゃった」
クレバーが呟く。
ティモシーは空間制御機能を起動。
大型ビームライフルをしまい、ツインランスを取り出す。
両手に二つの槍を持った白銀のドールと巨大なクローを持つエメラルド色のドールが対峙する。
ティモシーは無駄と思いつつペルセウスに通信をいれる。
「投降しろ。命の保証はしてやる」
ティモシーの問いかけに、
「お気遣い、ありがとーさん」
オルハが返答する。
「投降はしない。テメーもそんなムシの良い事は考えてないはずだろ?」
「そんなムシの良い事は考えてないはずだろ?」
その言葉が火蓋だった。
弾かれた様にバルドルが前進し、そのまま相手を串刺しにすべく右手の槍を突きだす。
「甘い!!」
槍の先端をクローに引っかけ絡めとる。
バルドルはすぐに槍から手を放した。
「マジ?やるじゃん」
メティスの言葉通りペルセウスの左腕のレーザーブレードによる迎撃を回避したバルドルは手放した槍を回収しながら左手の槍でペルセウスを薙ぎ払う。
薙ぎ払われたペルセウスは吹き飛ばされ、追撃すべく槍に仕込まれたビームライフルを連射する。
「その程度!!」
ペルセウスはイージスを盾に変形させ、突進してくる。
「クレバーっ、Ds発動パワー+スピード!!」
最高速度でペルセウスにぶつかりに行くバルドル。
「だから、甘いんだよ!!」
「てゆーか、バカの一つ覚え?」
オルハとメティスは突進の勢いを生かして、突っ込んできたバルドルを盾を使って受け流す。
「なっ!!」
「うそっ!」
驚愕の声をあげる二人。
そのままペルセウスはバルドルを蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
「きゃっ!」
そして、バルドルは地面に叩きつけられた。
「「「「邪魔をするなぁあああぁあ!!」」」」
敵機から聞こえてきた声が想像より幼いことにギルバは動揺した。
「マスター!」
リリーの叱責により一瞬で立ち直ったものの敵は距離を取ってしまった。
そのままバルドルの所に行こうとする二機に、
「行かせねぇ!!」
カインツのヴァルキュリア砲撃仕様のビームカノンが放たれる。
その砲撃から逃れた二機は、今度はカインツのヴァルキュリア砲撃仕様を狙って行動を開始する。
「殺らせんと言っている」
二機のドールタイプHS─ポルクスとカストルをヴァルキュリア改が追撃する。
右肩にエンブレムが付いている機体─ポルクスがそのままカインツのヴァルキュリア砲撃仕様に向かい、左肩にエンブレムが付いている機体─カストルがヴァルキュリア改を防ぐ。
「っルキナ、ガンナーユニットをパージ。通常仕様に切り換えろ!」
「…わかりました」
言うが早いかヴァルキュリア砲撃仕様のガンナーユニットが外れ、通常仕様になる。
そのままパージされたガンナーユニットからビームカノンだけを拾い上げ、
「ビームカノンには残り三発分のエネルギーが残っています。使いどころをよく考えて下さい」
ルキナがそう言った後、ビームサーベルで斬りかかってきたポルクスの攻撃を回避、そのままショルダータックルを決めてポルクスを吹っ飛ばす。
吹き飛ばされたポルクスにビームカノンを撃ち込むが受け身をとったポルクスはあっさり回避してしまう。
「残り二発です。なお、機体のジェネレータを使えば更に一発撃てますがその後機体が動かなくなります」
ルキナの冷静な声に安心感を覚えつつ、ポルクスのビームライフルをカインツはヴァルキュリアに回避させる。
そのままお互いに距離をとる。
「さて、どう出てくる?」
「っやりづらい!!」
カストルの猛攻を受けながらギルバは毒づいた。
「マスター!上から攻撃、来ますわ!」
リリーの言葉通り上からビームが放たれる。
「ちっ」
舌打ちしつつ避けながら、ビームマシンガンをばらまく。
ビームライフルから放たれるビームを重いストレートだとすると、ビームマシンガンから放たれるビームは細かいジャブのラッシュだ。
一撃一撃は大したことの無いダメージでも喰らい続ければ蜂の巣になる。
しかし、カストルは多少被弾しながらも回避に成功。ビームライフルで迎撃する。
「殺らせん!」
ギルバは回避しつつ接近、高出力ビームサーベルで斬りかかる。
それをかわしたカストルをビームマシンガンで牽制。なるべく動かせないようにする。
「何故、テロリストなどに君たちのような子どもが味方する!!」
ギルバは叫ぶ。返答を期待していた訳ではないがそれに返事が返る。
「「オルハ様は私達をキサマ等星府から救ってくださった」」
「どういう事だ!!」
それ以上話す事は無い、とばかりにカストルはビームライフルを連射する。
それを回避しながらリリーが呟く。
「本当に、やりづらいですわね」
バルドルのコクピットに巨大なクローが突き付けられる。
「お前等は善くやったよ。ホント」
ペルセウスから通信が入る。
「この俺が確実に殺そうなんて思う程にな」
そう言いながらクローを突き刺そうとして─
「クレバー!Ds発動!幻影」
その言葉を聞いたクレバーは瞬時にDsを発動。
ペルセウスの背後に二体のバルドルが出現し、ペルセウスに斬りかかる。
「この程度じゃ俺は倒せないと─」
オルハの言葉通り幻影はすぐにペルセウスの隠し腕に貫かれて消滅する。
「なんだと」
「マジ!」
消滅した幻影が存在した場所に二機のビットが現れ、隠し腕の攻撃をかわしそのままペルセウスにビームを放つ。
「ぐぬっ!!」
「痛っ」
そのまま倒れ込むペルセウスを蹴り飛ばしてバルドルが立ち上がる。
「危なかった」
「ティム、生きてる、私、死んでない?」
クレバーの言葉に苦笑混じりに
「生きてるよ、心配しなくてもな」
と返す。
そのまま再度、バルドルはペルセウスと対峙する。
とその時ペルセウスに通信が入る。
「撤退準備完了。すぐに帰ってこい、か」
その通信を聞いて、
「キハ達に通信回せ。撤退する」
カインツのヴァルキュリアと睨みあっていたポルクスが突然動きだした。
そしてそのまま撤退していく。
同時刻、ギルバのヴァルキュリア改と撃ち合っていたカストルが急にスモークを展開。そのまま撤退する。
「何なんだ?」
カインツの独り言に
「恐らく撤退するのでしょう」
ルキナが返答する。
子どもを殺さなくて良かった。
そう思ってしまった自分をギルバは恥じようとは思わない。
妻を喪い男手一つで娘を育ててきた。
リリーが母親代わりになってくれていたとはいえ、娘には肩身の狭い思いをさせてきた。
場違いだと思いつつもそんな事を考えてしまう。
「マスター、どうかなさいましたか?」
リリーの言葉に我に返る。
「いや、何でも無い。それより敵機を追うぞ」
そう言ってギルバはヴァルキュリア改を動かす。
ペルセウスから再びバルドルに通信が入る。
「お前等、なんて名だ?」
その言葉に二人は驚く。
「名前を訊くときは、自分から名乗るのが礼儀だろ」
ティモシーの返答に
「そいつぁ失敬。俺の名はオルハ、オルハ・クーリッジだ」
「私はメティス、よろしく」
オルハとメティスが名乗る。
それに、
「ティモシー・黒崎だ」
「クレバー、だよ」
その返答に満足そうに頷く。
「ティモシーか、覚えておくぞ」
そう言ったのを最後にペルセウスは撤退していった。
「テロリスト共は逃がしたが、基地の解放には成功したか」
ギルベルトの報告を読みながらロベルトは一言、
「まずは全員無事だった事に感謝しよう」
とミストルティンの労をねぎらう。
「で、NESTに加えて過激派レジスタンスであるアルカイオス、か」
ギルベルトは嘆息しつつ
「雑魚とは言えんな」
「その通りだ、貴艦の独自権限を強化するにしても、だしな」
ロベルトの言葉にギルベルトは
「全く、どうしたもんだか」
そう答えるしかなかった。
「アルカイオスは、勝ち続けたか」
「そうみたい」
フェーンの言葉にクロが応じる。
「どうする?」
「それを今考えている」
軽口を叩きながらもフェーンの表情は真剣だ。
(何故、アルカイオスはすぐに撤退を選べた?)
(星府の新型?)
(そして…)
「どうしたの?フェーン」
考え込んだフェーンをクロが気遣う。
「何でもない。すまんな、心配をかけて」
(そして…、クレバー《オーディンの娘》だと?)
第3話 完