第九話 模擬戦I
ついに、学年対抗剣舞試合に向けて、本格的に練習が始まった。生徒全員が優勝に向け練習している為、練習時間では、よく模擬戦が行われている。その模擬戦にステラ達も参加していた。
「ステラ、お願い!」
「あぁーーエレファン家秘伝初段剣術〝雷鋒〟」
凄まじい振動とともに、対戦していた生徒は場外へ弾き飛ばされ、試合終了の合図が鳴った。
「やったー 私達また勝ったわ」
「そうだな。この調子なら、大会は問題ないか」
喜んでいる姿を見るステラだった。
しかし、一体何勝したのだろう?
数えただけでも、70戦70勝ぐらいはあるんじゃないか?
実際にはもっとあると思うけど……
それに、一日でこんなに模擬戦したら頭おかしくなりそう。
なんて事を思いながら、剣を片付けた。
「……」
「どうしたの?」
ステラは誰かに噂されていることに気づく。
「〝カタルシス・ネクサス〟」
魔法陣とともに、沢山の人の声がステラと、魔法陣の中にいるアメリアの頭の中に入ってくる。
(あの組、いくらなんでも強すぎだろ……)
(特に、あの劣等生ヤバくないか……)
(チート使ってるだろ……)
いくら何でもひどいと、ステラは頭を抱える。
対戦していた生徒や、周りで見ていた生徒も一斉に「「「「絶対におかしい!」」」」と、口を揃えて言った。
それを聞いてステラは、その場に座り込んだ。
「だ、大丈夫だよ。あまり気にする必要はないわ」
「でも…… いや、そうだな。気にする必要はないか。本番の優勝すればいい話だからな」
「そうね」
アメリアは、周りで見ていた生徒に視線を向け、睨んだ目で見つめる。その目で睨まれた生徒全員は、慌てて訓練場を出た。
「さて、私達も戻ろっか」
「…… ごめんアメリア、僕は風に当たってくる。先に戻っててくれないか?」
「分かった。また後でね」
「ああ」
ステラはアメリアと一旦別れ、訓練場を出た。
少し歩いていると、目の前にクロウが全速力で走ってきた。
「どうしたんだ、クロウ?」
少し不思議そうに言った。
クロウは、呼吸を整えながら、書類を見せてきた。
「これは……」
よく見ると、その書類は〈模擬戦同意書〉と書かれていた書類だった。
(クロウの名前が書いてある…… まさかな……)
なんて事を、この書類からは読み取れてしまうだろう。
呼吸が整ったクロウは立ち直り、ステラの目を見た。
「ステラ…… 急で申し訳ないのですが、明日、私達と模擬戦してくれませんか?」
ステラの予感は当たってしまった。
予感が当たってしまったせいか、ステラはその場でフリーズした。
「ステラ?」
我に帰ったステラは、親友の頼みごとは断れまいと「模擬戦? 別にいいが……」と、答えてしまった。
「でもなんで僕たちとなんだ? 他にも、強い生徒はいっぱいいるだろう」
「それは……」
クロウは少し困った顔だった。
「実は、私のパートナーがどうしても、ステラ達のペアと対戦したいと言ってくるのです。その時、パートナーと約束してしまって……」
「……」
「どうか、パートナーの約束を叶えてあげてくれませんか?」
ステラは頭を抱えながら、考えてみた。
(約束か…… でも、クロウのパートナーの実力を知れる、良いチャンスかもしれない…… ここは受けとくべきか……)
ステラは〈模擬戦同意書〉にサインした。
「分かった。では明日の午前11時ごろに、第二訓練場で対戦しよう」
「!! ありがとうございます!」
クロウは何回もお辞儀をした。よっぽど嬉しいのだろう。
ステラはクロウの手を握った。
「僕達と模擬戦するからには、全力で戦い会おうな!」
「はい! ご期待に応えられるように頑張ります」
クロウはもう一度お辞儀をし、教室棟へ戻っていった。
ステラもクロウを見送った後、帰る準備をするために教室棟へ戻っていった。
教室の目の前に着いた時、教室で誰かが話している声が聞こえた。
(一体誰が話しているのだろう……)
少しだけ罪悪感を感じたが、ステラはその場に座って聞くことにした。
「XXXX。計画通りなんでしょうね」
「はい。今のところは全て順調です」
「そう…… 失敗は許されないわ」
「承知しております。あとは学年対抗試合が始まれば、計画は成功です」
(計画…… 何のことだ?)
ステラは気になってしまい、扉の隙間から教室の中を覗いた。
教室の中には、仮面を被った怪しい男性が二人と、学園の制服を着た女性がいた。
顔は逆光で見えなかったが、姿ぐらいは見えた。
一瞬、目線が扉の方に向いた気がしたので、ステラは隠れて話の続きを聞いた。
「…… 分かっているなら良いわ。それともう一つ、明日、模擬戦をすることになったから」
「誠ですか」
「ええ。明日の午前11時ごろ、第二訓練場でするわ」
「なるほど」
(なるほど〜 あの女性がクロウのパートナーなのか…… 一体何をするつもりなのだろうか…… )
ステラの頭の中は疑問でいっぱいだった。
「それでしたら、動けるものを手配しときます」
仮面の男は魔法陣を展開した。
「いや、いい…… 今の計画を優先的にして」
「分かりました」
そう言って、男は魔法陣の展開を取り消した。
いったい何をするつもりだったのだろう?謎はより一層、深まった。
「そろそろ、失礼します。明日はどうか、お気をつけてください」
「うん、ありがとう」
男達は、不思議な光に包まれその場から消えていった。
ステラが次に目にした時には、誰もいなくなっていた。
(あの人たちは、一体何者だろう?)
帰りの準備をしている最中、ずっと考えていた。
(いや、明日になれば分かるかとか…… 一旦落ち着こう)
ステラは自分の顔を叩き、カバンを持って寮へ足を進ませた。
寮に帰っている途中、アメリアが「一緒に帰ろう」と言ってきたので、一緒に帰ることになった。
帰り道、パートナーとはいえ、やはり気まずい。
(何か話さないと…… でも何を話せばいいのか)
戸惑うステラを横で見てたアメリアは、微笑みながら「ねえステラ、私とパートナーを組んでくれてありがとう」と言った。
「あぁ……」
ステラは少し顔を赤くしながら返事した。
一旦深く呼吸し、ステラは明日の模擬戦についてアメリアに話した。
「明日の模擬戦、午前11時に始まる。会場は第二訓練場だ。対戦相手は……」
「対戦相手は?」
「クロウ達だ」
「!!!」
アメリアは驚きのあまり、その場に立ち止まった。
キョトンとしたステラは「クロウ達だ」と、再度答えてしまった。
「対戦相手はクロウ…… なかなか厳しそうな戦いになりそうだね」
「そうだね。それにクロウのパートナーを、まだ知らない以上、予測はつかないな」
「ええ…… そうね」
(もちろん勝つのは僕達の方だ。だが…… クロウのパートナーがどれだけの強さを持っているかによっては、勝敗は変わってくるだろう)
「ともかく、明日の戦いも全力で頑張ろうな」
「うん!」
アメリアは嬉しそうに答え、女子寮の方へ帰っていった。
「……」
アメリアと別れて数分が経った頃、誰かにつけられている感覚がした。
とりあえず立ち止まり、背後を振り返る。
「……」
だが、背後には誰もいない。
辺りを見渡したが、誰もいなかった。
(おかしいな。誰かいると思ったのだが……)
ステラは「は〜」と、大きくため息をついて、寮の扉を開いた。
次の日
いよいよ、ステラ達の模擬戦が始まろうとしていた。
模擬戦の会場となる第二訓練場には、ステラ達が会場入りしていないにもかかわらず、通路に立って見る人がいるぐらい、観客席は混雑していた。
生徒達が席を探している中、二人の生徒がマイクを片手に、会場の中央にやってきた。
次の瞬間、大きな爆発音と共に、会場は一気に明るくなった。
『皆さん〜! こんにちは〜! この度、模擬戦の司会役を務めさせていただきます、放送委員のライゼ・アルトと〜』
『セセラ・インファです!』
『『よろしくお願いします!』』
〝ウォーーーー!〟
ライゼとセセラに魅了された生徒は、さらに盛り上がった。
『ライゼ、今回の模擬戦を行う選手は凄い選手なんですよ』
『そうなんですか』
『ええ。なんといっても、今注目されている一年生らしいですよ』
『それは楽しみですね!』
何気ない会話が行われていと、左右の照明が暗くなった。
『おやおや、選手が会場に来たみたいですよ』
『そう見たいですね。では今回の模擬戦を行う選手を発表します。この方達です!』
セセラが指を鳴らし、左右の照明が鮮やかにステラ達を照らした。
『東ゲートにいるのは、模擬戦連戦無敗の最強コンビ! 四組のアメリア・アフォルト&ステラ・ゼロ!』
〝ウォーーーー!〟
〝いいぞーーーー!〟
スピーカーの音が聞こえないぐらいの声で叫ぶ生徒。
本当に模擬戦なのかと、ステラは頭を抱えた。
『続いて、西ゲートにいるのは〜 この国の王女様と宰相の息子コンビ! 四組のローズ・イリネス・ネフェリル&クロウ・ラージュ!』
〝おぉーーーー〟
〝頑張って! 王女さま〜〟
〝連戦無敗ここで止めてくれ〜 クロウ〜〟
〝どっちも頑張ってー!〟
二人の登場に、会場はさらに盛り上がった。
困ったステラは観客席から一旦目を逸らし、西ゲートの方を向いた。
「……」
ステラは勘違いかなと思い、一度目を瞑って再度、西ゲートを見た。
金髪のロングヘア、王族特有の紫の瞳。
背は高く、男女問わず見惚れてしまいそうなその姿こそ、正真正銘のネフェリル神聖王国第三王女だった。
そう…… 第三王女だったのだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。ただ、クロウのパートナーは王女殿下だったのか。正直驚いたな」
「……うん。それに、あの人って……」
「あぁ。知っていると思うが、彼女は神聖王国最高ランクの聖剣使いだ。油断できる相手ではない」
「そうね。厳しない戦いになりそう」
「……」
この国には様々な武術や魔術などがあるが、彼女、第三王女ローズだけは別格だ。
彼女はあらゆる武道を学び、精霊魔術を極めた、1000年に一度の天才と言われているほどの、実力持ちだったのだ。
対戦相手であるステラ達は絶体絶命の状況だった。
「強い相手ではあるが、練習通りにいこう」
「分かったわ」
アメリアは小さく頷いた。
会場に緊張が走る中、一人の審判員が手を挙げ「それでは、両選手戦闘準備を」と言った。
試合開始の時刻が少しずつ迫ってくる。
(いよいよだな…… なんとしても勝たせてもらう。クロウ!)
ステラは愛剣を手に取り鞘から抜いた。
一方、クロウはステラに向かって「ステラ! あなた達の連戦無敗の記録、打ち破って見せます」と告げて、右手を前に出した。
「来い、〈聖剣アルフォス〉!」
次の瞬間、光が会場全体を包み、一本の剣がクロウの前に現れた。
それを見たステラは「マジかよ……」と、驚きながらつぶやいた。
おそらく、会場にいる生徒全員が思っていることだろう。
隣にいたローズは、ステラ達の方を向き「私は甘くないわよ」と、ローズの愛剣〈聖剣メドリアーナ〉を鞘から抜いた。
「あれが…… 神聖王国最高ランクの剣……」
クロウに続き、ローズの剣にも驚いたステラだった。
ステラは初めての感覚の余り、剣を強く握りしめた。
ステラ達の戦闘準備が終わったことに気づいた審判員が、再度「両選手、準備はいいですか?」と、聞いてきた。
ステラ達は「「「「はい!」」」」と答え、運命のカウントダウンが始まった。
「では、ステラ&アメリア対クロウ&ローズの模擬戦を始めます…… 始め!!」
審判員の合図と共に、ステラ達は一斉に動いた。
そして熱い模擬戦が今、始まったのだ。