第二十四話 ステラVSエレナ
ステラ達は試合が始まったのと同時に動き出した。
アーデルハイトの聖剣の刃がジュリカの《鬼哭》に向かって直線的に攻撃を仕掛け激しくぶつかり合う。そんな中、ステラはエレナとの戦いに挑んでいたのだった。
・・・
「貴方が噂の一年生ですか……」
そう呟いて、エレナは剣先を下ろした。
「このグループは危険です。今すぐに降参することをお勧めしますよ」
「それは無理ですよ、エレナ先輩。僕はこの試合、本気で勝ちに来ましたから」
「……」
元生徒会書記エレナ・サヴォイア。彼女はサヴォイア子爵家の一人娘で、魔法や剣術など幅広いジャンルで成績が優秀。その優れた才能から、アーデルハイトの盾と言われている。
そんなチート級の相手だと、本気を出さなければ負ける。
「……そうですか」
エレナが剣先を上げ、再び構えた。彼女の表情はまるで獲物を狩る猛禽類のように鋭く、冷徹に輝いている。
「ではいきます……」
エレナは静かに姿勢を低くした。一体何をするのだろう。
その行動を危険と捉えたステラは、右足を後ろに動かして体重をかけ剣を構えた。先手を打つ作戦だ。
(いくか……)
ステラは動き出す。しかしエレナはそれに動じず、ただその場で構えていた。
「エレファ……〝魁鳳〟」
剣を円を描くように振り周りが爆発する。だが、そこにはエレナの姿はなかった。
「どこに行った……」
ステラは光属性魔法〝探索〟を使ってエレナを探した。
(……背後か!)
すぐに動こうとしたが足が動かない。足下は氷で固定されていた。
「アリステン流〝月光冬〟」
氷を纏ったエレナの聖剣が、ステラの腹部に鋭く切り込んだ。
丈夫な制服なのだが、腹部が破れそこから血が流れる。〝治癒〟では完全に治せない深さまでの傷だ。古の紋章の能力でもこの傷を治すのに一日はかかると思う。
(これが、Lグループに出場生徒か……)
傷を抑えながらステラは立ち上がった。
「まだ戦えるの……」と、驚いた顔でエレナはもう一度姿勢を低くして剣を構えた。
先程の技で仕留める気だったのだろうか。彼女の聖剣に魔力が集まっていく。
「アリステン流〝雪華乱切り〟」
次の瞬間エレナの聖剣が速く、優雅に振るわれた。鋭い刃は雪の結晶を舞わせるように、ステラに向かって繰り出された。
「〝蘭刹璧刀〟」
剣を振るった瞬間、空気が切り裂かれる音が響く。
この技である程度の攻撃を防ごうとしたが、エレナの攻撃は防げなかった。
(マジか……)
ステラはもろに攻撃を受け、その場に膝をついた。
「一年もここまでのようね」
少しずつエレナが近づいてくる。
ステラは懸命に立ち上がろうとするものの、体が思うように入らない。
「これ以上戦えないわ。降参しなさい」
聖剣の刃がステラの目の前に突き出される。だが、ステラは刃を手で退けて立ち上がった。
「まだ…… 戦える!」
次の瞬間、退けた刃がステラの顔に迫る。
(終わりね)
しかし……
「なっ……」
ステラの剣が彼女の聖剣を受け止める。
「今度は僕の番だ」
ステラの顔には勝利の微笑みが浮かんでいる。
(何か秘策でもあるのか……)
エレナの表情が焦りで歪み戸惑いを隠せない。彼女は後退し、一旦ステラから距離を置いた。
「傷も深いのにどうやって勝つつもりなのかしら」
エレナは再度、ステラの全身に目を向ける。
(あれ……)
おかしい。確かに彼の体には無数の深い傷があった。〝治癒〟では治せないはず。なのに、今は血が流れているどころか傷ひとつない。
「こうなったら…… 《氷刃の紋章》!」
エレナが紋章を発動したのと同時に、地面が氷に覆われた。
「アリステン流〝雹石斬〟!」
ステラに向かって斬撃を繰り返した。だが攻撃はステラに当たることはなく、受け流されているだけだった。
(そろそろ終わらせるか……)
ステラは握る剣の位置を少し変え、攻撃する体制に入った。
「〝雷鋒〟」
攻撃していたエレナは、激しく吹き飛ばされる。
(しまった……)
ステラはエレナの体勢が崩れた一瞬の隙をついた。
「〝紫電剣光〟」
ステラの剣が紫色に包まれ、エレナの聖剣目掛けて刃が迫ってくる。
(私が負ける……)
次の瞬間、エレナの聖剣はステラの攻撃を直で受け真っ二つに折れた。
「……」
エレナは唖然として立ち尽くし、折れた聖剣を見つめる。ステラがエレナの横に歩いていくと、彼女はステラに気づいて振り返った。
「私の負けね。素晴らしい戦いだったわ」
「ありがとう、エレナ先輩。先輩の方こそ素晴らしい戦いでした」
ステラの言葉にエレナは微笑む。
「そう言えば、貴方。何故深い傷があったはずなのに、今では傷一つないのかしら?」
「そういえば…… 気づきませんでした」
ステラは自分の体を触る。
「どういう事?」
「どういう事と言われても……」
〝治癒〟では完全に治せない深い傷が、いつの間にか治ってる。むしろ、それに気づかないで戦っていた自分に驚きだ。これは一体……
「まぁ、いくら言っても負けは負けだし」
ステラが考えている横からエレナは右手を差し出しす。ステラも差し出された右手を握って握手を交わした。
これでやっとステラの試合は終わったと思った。
(会長、勝ちましたよ)
心の中で思いながら、ジュリカの方へと体を向ける。
「えっ……」
だが目線の先にいたのは、明らかに様子のおかしいジュリカとボロボロのアーデルハイトたった。
その光景を目の当たりにして、横にいたエレナは地面に膝をつく。歓声に溢れかえっていた観客席も静まり返っていた。
「ジュリカ……」
ステラは呆然として声を漏らした。