第二十三話 Lグループ
ステラは自分が出場する第三試合が始まる二時間前から第六訓練場に来ていた。
Lグループは他のグループとは異なり、剣術の成績が高い生徒のみを集めた優れたグループ。その為、第一試合から派手に試合が行われていた。
「そう言えば、Lグループだけ僕以外の一年生は出場していないんだよな……」
今の試合もそうなのだが、Lグループの対戦表を見ると一年生で出場しているのはステラだけで、他は二年生と三年生、四年生が出場している。
(本来なら僕はLグループとは無縁なんだが)
昨日、ジュリカによって強引に決められたLグループ出場。出来れば棄権したい。
「嫌だな……」
「何が嫌なのだ?」
どっかで聞いたことがある声。だがステラは話し続ける。
「これから始まる試合についてですよ」
「ほぉ…… それで」
「Lグループに出場できる事は凄く光栄に思えるのですが、僕と組む人はジュリカ・フォメス・ザ・オルトフォートですよ。なんで僕が……」
ステラは声の方へと目を向ける。
(あっ……)
目の前には、腕を組んでこちらを睨んでるジュリカが立っていた。
「会長……」
(やばい、一番言ってはいけない人に行ってしまった…… このままではまずい。土下座して謝るか……)
ステラは土下座しようとしたが……
「……今の事は聞かなかったことにしよう」
そう言ってジュリカは、何も聞かなかったような顔をする。だが、言った本人はこれ以上目を合わせて話せないとひたすら下を向いていた。
「それよりも行くぞ。もう直ぐ始まる」
「は、はい」
・・・
「それでは、試合開始十分前には西ゲート前に来てください」
魔法石を受付担当の生徒に見せ、二人は控え室に向かって歩いていた。
「会長、先程はすみませんでした」
「……別に構わない。強引に試合を決めてしまったのは私だからな」
強引に決めたことは否定するのかと思ったが、あっさり認める。
何か理由があるのだろうか。
「何故僕をLグループの試合に出場することを決めたのですか?」
「そうだな特に理由は無いが…… 君と一度剣を交えたあの模擬戦の時、私の剣を受け、挙げ句の果てに魔力までも無くなっても生きていた君と、今度は一緒に戦いたいと思ったからかな。それに……」
「それに?」
「なんでもない」
二人は再び、控え室に向かって歩き出す。
(しっかりと理由あるじゃないか…… これは期待に答えないと)
ステラはそう決意した。
(それにしても、全然着かないな……)
歩き始めておよそ十分が経過したにも関わらず、一向に控え室に着かない。
(この掲示板、さっきも通ったぞ)
「会長、ここさっきも通ったと思いますが……」
「そうなのか? だったら、あと少しで着く」
と、ジュリカは言っていたが、五分ぐらいで再び掲示板を横切る。
(もしかして……)
横切った瞬間、ステラはこう口にした。
「もしかして会長。迷いました?」
「……」
無言で立ち止まるジュリカ。
(これは完全に迷ったな)
ステラは小型魔法石から第六訓練場のマップを開いてジュリカに見せる。
「わ、分かってたぞ」
そう言って、早歩きで待機場所である控え室に入っていった。
(こんな一面もあったんだ……)
ステラも続いて控え室に入る。
「今のは忘れてくれ……」
「はい」
こちらから顔は見れなかったが、多分ジュリカの顔は真っ赤に染まっているのだろう。なんとなくそんな気がした。
「……それと、それに着替えておけ。今着ている制服だと命の保障はない」
ジュリカはそのまま控え室を出て行った。
(制服だと命の保障はないか…… この制服、頑丈に作られているはずなのでは)
その言葉に疑問を感じつつ、ステラは机に置いてあった服に着替える。
若干服が重く感じるが、制服と変わらないデザイン。
「まぁ、いいか」
着替えたステラは西ゲートへと向かう。
「やっと来たか」
入り口にはジュリカが立っていた。彼女の手には、前に模擬戦した時とは違う形の剣が握りしめられている。
「会長、それは」
「これか…… 魔剣《鬼哭》」
剣柄には見たことのない字で《鬼哭》と刻まれている。この国の剣ではないのだろうか。
「この剣はな、剣舞試合の初戦だけいつも使っているんだ」
「何故ですか?」
「それは……」
ジュリカは観客席の方を指差す。
「彼女に『使って戦え』って言われていてな」
ステラは指された観客席の方を見る。
その先には、印象に残るツノがある女性が座っており、更にその女性を囲むように、同じようなツノがある人達が座っていた。
「ツノがある。魔類なのか……」
「彼女は神類の王女だ」
「!!」
初めて見る神類の王女に、そして神類世界を治る王族の子がジュリカの知り合いという事にも驚いた。
「彼女と私は同じ武流〈東北伝統流〉の育成場に通っていた生徒なんだ。まぁ、私とは違う術使いだがな」
「なるほど。会長は剣術使いなんですね」
「あぁ。ちなみに、彼女は刀術使いだ」
前にジュリカと模擬戦をした後、〈東北伝統流〉について調べてみたが、その技ははるか遠い異国にて生み出された技だと言う。格闘術や槍術、魔術や狙撃術などがあるが、その中でも剣術と刀術は習得するのが極めて難しいらしい。
そんな習得が難しい技を持っているジュリカ。そりゃ戦っても勝てるわけがない。
「まぁ、この話はまた後にしよう。試合が始まるぞみたいだからな」
「はい」
ステラはジュリカの隣に立つ。そして、放送委員による放送が始まった。
『それでは、Lグループ第三試合を始めます! 東ゲート、三年ジュリカ・フォメス・ザ・オルトフォート選手&一年ステラ・ゼロ選手!』
ステラとジュリカは指定位置につく。
『続いて西ゲート、四年アーデルハイト・エルブレム選手&四年エレナ・サヴォイア選手』
アーデルハイトとエレナ。前生徒会長と書記であり、とくにアーデルハイトに関してはジュリカの次に剣の成績が優秀だと言う。
「久しぶりだな、アーデルハイト先輩」
指定位置に向かって歩いてくるアーデルハイトに対して、軽い口調で語りかけるジュリカ。一方、アーデルハイトは……
「ふん…… まさか、初戦で貴方と対戦できるとはね」
そう言って、掛けていた眼鏡を投げ捨てる。
「そうだな。驚きだ」
「まぁこの試合に勝って、あの時の借りは返してもらおうか」
「上等だ」
ジュリカは握り締めていた《鬼哭》を、アーデルハイトは腰にある聖剣を鞘から抜いた。
アーデルハイトの聖剣は刀身が金色に輝いており、その刀身からは膨大な魔力を感じる。
「ステラ、気を引き締めていくぞ。くれぐれも命を落とすようなことはするな」
「分かりました」
「それじゃあ、始めるとするか」
ジュリカは《鬼哭》を上にあげた。
『両選手の完了の合図がありました。これより、Lグループ第三試合を始めます!』
放送委員のアナウンスと共に、ステラの体にはJグループとは異なる緊張が走る。そして、試合が始まった。