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第二十一話 ディストア教会

「さて、そろそろ行こうか」


 男は黒いコートを着た人と共に出口へと向かっていった。


「先程は危なかったな。まぁ、上手く隠れて良かったよ」

「二度とあんな事はしないわ」

「分かった」

「それで、これからどうするの?」

「一旦、教会に戻る。その後は…… おや、客人みたいだ」


 目の前にはステラとジュリカが立っている。


「突然すまないな。君の隣にいる人に用がある。渡してもらおうか」

「それは無理ですね。この子は私の弟子ですから。ジュリカ・フォメス・ザ・オルトフォート殿」


 黒いコートの人の頭を撫でる男の手袋には、剣を咥えた鴉の刺繍が入っていた。


「その刺繍、まさか……」


 手袋にある刺繍を見たジュリカは、怒りを覚えた。

 相当機嫌が悪い。何か怨みでもあるのだろうか。


「あー うっかりしてしまった。もう、正体を隠す必要は無さそうだな」


 男は手袋を外す。その手には、紫薔薇の紋章が映し出されていた。

 

「初めまして。私はディストア教会の大神官グレン・セルド・アクテ」

「ディストア教会……」

 

 昔、父から聞いた事がある。ディストア教会はネフェリル神聖王国の政府機関を牛耳ってる最大の教会。

 その教会には、ディストア教会の殆どを取り仕切ってる《救世主(メシア)》と呼ばれる幹部がいると噂されていた。

(まさか、目の前の人が……) 


「隣にいるのは…… あぁ、君がステラ君か」


 そう言ってグレンは、ステラの方へと歩み寄るが……


「近寄るな!」


 ジュリカは左腰の鞘から剣を抜き、ステラとグレンの間に向けて振り下ろした。


「おっと、怖い怖い」


 グレンは両手を上げながら後ろに下がる。


「これ以上話している暇はない。隣にいる人を渡してもらう」

「拒否したら」

「この場で取り押さえる。何だったら、お前も一緒に来てもらおうか」


 剣を持ったまま、ジュリカはグレンの方へと向かっていく。


「恐ろしい子だな…… リデル、頼めるか」

「はぁ、何で私が」

「君の方が相性が良さそうと思ったから、かな」

「……はいはい。分かったわ」


 リデルは黒いコートのフードを外し、剣を手に取った。

(あの耳って……)

 よく見ると、この国では滅多に見ない()()()だった。

 

「エルフだと……」


 この世界には、人類・魔類・神類と呼ばれる三つの種が存在する。

 その中でも人類と魔類は過去の大きな対戦以降、敵対関係に陥っていた。エルフ族でさえ、人類側の国に入るのは難しい。 またネフェリル神聖王国も鎖国状態にして、魔類との関係を完全に絶っていた。


「どこ見ているの」


 気づけばジュリカの真横に立っていた。


「っ……」


 剣を振り下ろすが、そこにリデルの姿は居ない。

 魔法を使っているのだろうか。今度はグレンの隣にいた。


「少し暴れるわ。グレン頼んだよ……」

「仕方ない、これだけ張っておくよ 〝結界(バリア)〟」


 あたり一面が真っ白な空間に変わる。会場の騒がしさは一瞬にしてなくなった。

 

「これで思う存分戦えるわ」

「……」


 ジュリカとリデルは同時に動き出し、刃が交わる。

(この女、確か……)

 何かを思い出したリデル。


「東北伝統流第四剣技〝王鳳蘭(おうほうりん)〟」


 複雑な動きをするジュリカに対して、リデルは技を使わず剣で受け止めている。ほぼ互角だ。


「東北伝統流もそれ程じゃないわね……」

「チッ…… 何だと!」


 ジュリカは《白銀蝶の紋章》を発動する。だが……


「私も、一応紋章持っているけど」


 それに対抗するかのように、リデルも紋章を発動する。

 リデルの紋章は、《銀漢の紋章》と呼ばれる紋章だった。


「紋章を発動したところで……」


 両者の攻撃は激しさを増した。


「……まだ、この紋章の恐ろしさを分かっていないな」

「えっ!」


 ステラの隣には、グレンが立っていた。すぐに剣を抜こうとしたが体が動かない。

(しまった……)

 気配が全くしなかった。これが大神官の力なのか……


「さて、ステラ君も見よ」


 勝手に体が動く。目線の先にはジュリカとリデルが戦っていた。


「これが彼女の力だ!」


 リデルは剣を床に突き刺し、左手をジュリカの前に差し出した。


〝エンド・オブ・ギャラクシー〟


 一瞬時間が止まったかのような感覚を覚えた。蒼閃光がステラを通り過ぎ、爆風が後からくる。

 数秒前まで動いていたジュリカは、立ち止まったまま動かなくなった。一体、何が起きたのだろうか。

 リデルはそのままジュリカの横を通り過ぎた。


「終わったよ」

「よくやった、リデル」


 グレンはリデルの頭を撫でる。リデルは無傷だった。

(早く、ジュリカの元に……)

 だが全く体が動かない状況。ステラは試しに《古の紋章》を発動した。


「あれが、古の紋章か……」


 先ほどまでは動かなかった体が、今では動くようになった。

 それに何だろう、この感じは…… まるで、誰かが呼んでいるような感じがする。

(この感覚、今までなかった)

 そのような事を思いつつ、ステラはすぐにジュリカの方へと向かっていった。


「会長!」


 ジュリカは深く眠っていた。だが魔力は殆どなく、呼吸も浅かった。

 

「〝治癒(ヒール)〟」


 これで少しは良くなるだろう。一安心するステラ。

 遠くの方では、グレンとリデルがこちらを見ていた。

 

「ねぇ、彼があのステラ・フォン・エレファンなの」

「あぁ…… そうだ。私達教会が求めていた人物だよ」

「なるほどね……」

「まぁ今日はいい情報が手に入ったし、帰るとするか」

「えぇ」


 いつのまにかリデルの姿はなかった。ただ一人、グレンだけがその場所に立っていた。

 

「今度こそ、ゆっくりお話ししよう。ご機嫌よう、ステラ君」


 そう言い残し、グレンも姿を消す。

 同時に結界もなくなり、ヴィレト率いる生徒会のメンバーがこちらに向かってきた。


「会長、だ…… 大丈夫ですか!」

「すぐに保健室へ」


 生徒会の迅速な対応により、ジュリカはすぐに保健室へと連れて行かれた。

(無事でいてほしい……)

 ただ一人、ステラはその場所に立ち止まっていた。

 


ディストア教会

 グレンとリデルは長い廊下を歩いていた。


「今回の戦闘、余裕だったわ」

「確か、彼女は東北伝統流とかいった技を使っていたな」

「東北伝統流と言っても、剣技の方よ」

「どっちでも一緒だろ」

「一緒じゃないわ」


 話している間に、大きな扉の前に着く。


「リデル、これから大司教様に報告してくる。先に行ってくれ」

「分かったわ……」


 そう言って、リデルは走って何処かに行ってしまった。

 リデルを見届けたグレンは、大きな扉を開ける。目の前には一人の人物が座っていた。

 彼女こそ、このディストア教会の最高指導者、大司教ヴェルカ・アズ・クロアルドだ。


「来たのね、グレン」


 グレンはヴェルカの前まで来て、一度お辞儀をした。そして……


「大司教様、報告があります」


 グレンは今日の事について彼女に報告した。

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