第二十話 生徒会入会
朝から第一グラウンドは、ステラとアメリアが模擬戦をしていて騒がしかった。
「〝闇夜冥護〟」
移動する速度が上がり、ステラはそれに対抗する形で鉄の剣を構えるが……
「〝風圧〟」
(くっ……)
ステラの体に何十倍の圧がかかった。
予想はしてたけど重くて自由に動けない。
このままではまずいと判断したステラは動こうとするが、時すでに遅し。ステラの真上から剣を振り下ろすアメリアの姿が、ステラの刀身に映る。
(やばいね……)
「〝雲集霧散〟」
ステラ目掛けて魔力を纏った刀身が直撃する。
「どうかしら……」
煙が立ち込める中、アメリアはステラがいた位置を睨みつける。
(流石に効いたよね)
徐々に煙が晴れていく。だが……
「噓でしょ……」
ステラは無傷でその場所に立っている。
「腕が上がったな、アメリア」
腕を上げ下げするステラを、ただじっと見つめるアメリアだった。
(無傷…… 仕留めた感触はあったはずだけど……)
魔法を使った形跡がなく、どうやってあの一撃を受け止めたのだろうか。それを知るのはステラ本人だけだった。
「まだ続ける?」
「いや、次の試合に備えるためにやめておくわ」
「分かった」
ステラは鉄の剣を鞘にしまい、ポケットから小型魔法石を取り出す。一日が経ってもジュリカからのメールは来ない。
(これは直接言ったほうが良さそうだな)
そんなことを思いつつ、対戦表を見る。
「確か今日は、レインとサナの試合だったよね」
「そうだな」
対戦表にはレインとサナの名前が書かれたDグループの場所を見つける。
「午後の部なの?」
「そうみたいだな。ほら」
ステラは小型魔法石をアメリアに見せる。
(それにしても、いまいちわからないな…… この対戦表)
AからGグループの前半組、HからNグループの前半組、AからGグループの後半組、HからNグループの後半組で分かれており、交互に入れ替えて試合を行われている。
人数が多いためこのような分け方をされているのだ。
「どうする? 時間まだあるみたいだけど……」
「とりあえず僕は部屋に戻るよ。少し魔法の勉強したいから」
「分かったわ。じゃあ、14時に集合ね」
「了解だ」
アメリアは他のクラスメイトの試合を見に、第二訓練場に向かっていった。
アメリアを見送ったステラは自室に戻り、机にペンと魔法本をひろげる。
「さて、始めるか」
ステラは火属性魔法〝火炎〟を発動する。
流石に寮の一室であるため、かなり小さくして発動している。本来ならば十倍は大きい。
また人を簡単に傷つけてしまうため、火属性魔法の初級とはいえかなり危険だ。
「まぁ、こんなものか。次は……」
先程の火炎と風属性魔法風撃を組み合わせ魔法を発動するが、火をまとった風撃は机に直撃し、火がおこる。
「まずい」
慌ててステラは水を机にかけ、火は一瞬にして消えた。
「危なかった。もう少しで火事になるところだった」
ステラは焦げた机を治癒を使って元の状態に戻した。
「今度はこの寮が火事になり得る」
あまり魔法を部屋で使うのは良くないと、ステラは改めて認識する。
(今後は外で……)
そう思った矢先、誰かが扉を叩いているのに気づく。
「誰ですか……」
「ジュリカだ。入ってもいいか」
(何だと……)
運が悪い。部屋は先程の出来事で煙が充満していた。
「とにかく窓を……」
ステラは急いで窓を開ける。それと同時に、ジュリカが部屋に入ってきた。
まだ、了承してないのに。
「すまない。大事な話があって来たんだ」
「大事な話ですか?」
「あぁ……」
ジュリカは椅子に座り、ステラは紅茶が入ったコップを持って机に置く。
相変わらず、生徒会の特別な制服を着ているジュリカは怖い印象を与える。
「それで、大事な話というのは」
「昨日の件についてだ」
「昨日…… 剣が破壊されたことですか」
「そうだ。君のメールを見て直接話そうと思ってな」
(なるほど…… てっきり、無視していたと思ったが)
そもそも、何故部屋に来たのか。生徒会長室に呼び出せばいいのにと、疑問に思った。
「実はその出来事、生徒会に何件もメールが来ていてな。今調査しているところなんだ」
「そうなんですか」
昨日の出来事が他にもあったとは……
これは大事件になりそうな予感がする。
「あぁ。だが、生徒会でも調査できる範囲が限られてな。あまり進展してないんだ」
「まぁ、一般の人も観覧に来てますからね」
「そこでだ。一時的に君が生徒会に入っていただけないだろうか」
「えっ……」
突然の勧誘。ステラはその場で固まる。
「君が入ってくれば、調査も進展するに違いない」
「待ってください、生徒会に入るって…… そもそも、試合があるんですよ」
「大丈夫だ。試合があったらそっちを優先してくれて構わない。生徒会の皆んなはそうしてる」
「……」
正直、断る理由がない。ステラはため息をついた。
「分かりました。一時的ですからね」
「あぁ、承知した」
ステラはジュリカからバラの中に鷲が描かれたバッチを渡される。
「これは、生徒会のバッチだ。一時的とはいえ、これを付けてくれ」
バッチを付けたステラは鏡に目を向ける。
(生徒会……)
バッチが目立って仕方がない。
もう一度外し、隠れるところに付け直した。
「さて、私はこれで失礼す…… 誰だ」
ジュリカは扉の方を睨み、ステラも人の気配に気づく。
誰かがステラ達の話を聞いていたのだ。
「入ってかないのだな。だったら……」
ジュリカは鉄の剣を扉に突き刺す。
(あ〜 扉が)
扉は真っ二つに割れ、そこには人はいなかった。外に逃げたのだろうか。
ステラは窓の外を見ると、黒いコートを見に纏った犯人らしき人の姿がこちらを様子を伺っているのが分かる。
「逃すか! ステラも来るんだ」
ジュリカに続いてステラも後を追った。
あの短時間であんなところまで行ったのか。
犯人らしき人は、ステラ達と三百メートルほど離れて走っていた。
「行くぞ!」
「はい」
走り出す二人。この先は確か……
先頭を走る犯人らしき人が第二訓練場に入っていくのが見えた。
「チッ…… よりによって人が多いところに」
「会長、どうします?」
「こうなったら」
ジュリカはポケットから小型魔法石を取り出し、電話欄から生徒会と書かれた項目を押した。
「私だ。至急、動けるものは第二訓練場に来い」
そう言って、電話を切る。
「私達は先に行くぞ」
「はい」
二人も第二訓練場の中に入っていく。
会場は一般人もいる為、混雑していた。これじゃあ、見つけるのにも一苦労。
扉についた微かな魔力を頼りに探すが、犯人らしき人は見当たらない。
「こっちだ」
言われるがまま、ステラは会場の裏側にある放送室に向かった。
「生徒会だ」
扉を勢いよく開け、生徒会と記載された手帳を見せた。
(恐ろしい)
その場は一瞬にして凍りつく。
「か、会長。どうなさいましたか?」
怖気付きながら放送員の生徒は質問する。
「この会場に生徒会が探している犯人がいる」
「は、犯人ですか」
「そうだ。そこで、第二訓練場全ての監視システムを見せてもらう」
「別にいいですよ…… こちらです」
ジュリカとステラは大型の魔法石を覗く。そこには沢山の人が映し出されていた。
これで何が分かるのだろうか。すると……
「〝対象検索〟」
目を閉じたジュリカは、手を魔法石の前に向け魔法を使った。
「フッ…… 見つけたぞ」
数十秒も経たないうちにある場所を示し、ステラも示された場所に目を向けた。
そこには、先程の黒いコートを着た犯人がいた。
「もう一人、怪しい人物がいるぞ」
ジュリカは指の位置を少しずらす。
ずらした指先には、背の高い男性が示されていた。見るからに隣の黒いコートよりは怪しさなどはないが。
それに、男性はこの学園の教師を示すバッチを付けている。
「会長、でもこの人、教師のバッチを付けていますが」
「私はこれでも生徒会長だぞ。全員の教師の顔ぐらい把握している」
「つまり、会長の知らない顔の人…… この学園の教師じゃない」
「そうだ」
頷きながらジュリカは放送室の窓から会場全体を見渡す。
「タイミングいいな。来たぞ」
同時に放送室の扉が開き、生徒会のバッチを付けた六人ぐらいの生徒が入ってくる。
その光景を目の当たりにした放送員の生徒は逸走していった。生徒会、どれだけ恐れられているのか……
「会長」
「よく来た、ヴィレト」
お互い一歩踏み込んで握手する。
ヴィレトの後ろには、この学園の生徒とは思えない顔つきをした五人が並んでいた。
「今回動ける人数は」
「私含めて六人です」
「私と彼を含めて八人か……」
「彼とは」
「紹介が遅れたな。彼が一時的に生徒会に入ってもらったステラだ」
この場にいる全員の視線がステラの方に向く。
「貴方は確か…… 連戦無敗のステラ君ですね」
「えぇ……」
「お会いできて光栄です。私はヴィレト・ルレイ、生徒会副会長を務めているものです」
ステラは差し出された手を握る。
彼が生徒会副会長…… 噂では、魔法戦闘になるとジュリカよりも強いと言われている人物だ。
「一時的とはいえ同じ生徒会の仲間。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ヴィレトの歓迎により、後ろの生徒会のメンバーも表情が少し和らいだ気がする。
「さて…… 会長、今回はどのような内容ですか」
「今回は、生徒会でも調査している事件と関連してくるかもしれない内容だ」
場の空気が一気に緊張包まれる。
「先程ステラと話していた時、何者かに盗み聞きされていた。その犯人がこの第二訓練場に隠れている」
「ほぉ…… ちなみに、特定は出来ているのですか?」
「あぁ。この二人だ」
魔法石に映し出されている二人の男女を見てヴィレトは、
「なるほど。この犯人を捕まえればいいのですね」
と、扉に向かって歩き出した。
「待て、他にもいるかもしれない。お前はグローダスと見回りに行ってきてくれ」
「見回りですか」
「そうだ」
「分かりました。グローダス、行きますよ」
大柄な生徒グローダスと共にゆっくりと歩き出した。
「お前達も二人一組で行動してもらう。ペアは……」
この感じだとジュリカと一緒に行動するのだろうか。
気づけば、放送室にはジュリカとステラしかいなかった。
「私達はあの犯人たちを捕まえるぞ」
「はい」
(本当に一時的なのかな……)
疑問に残る中、ステラの生徒会初任務が始まった。