第十八話 試合後
いよいよここ第四訓練所で、ステラとアメリアの初戦が開幕しようとしていた。
ステラとアメリアの模擬戦連戦無敗は学園外の街でも噂になっており、ステラ達の順番が午後の部でも彼らの試合を一目見ようと、朝から第四訓練場の観客席は一般の人達で埋め尽くされていた。
『それでは、Jグループ第六試合を始めます!』
会場は歓声と拍手に包まれる。
ステラとアメリアは審判員のコールと同時に、会場の中央に向かって歩き出した。
「頑張ろうね! ステラ」
「あぁ、頑張ろう!」
ステラ達の対戦相手も指定位置についた。そしてーーー
『始め!』
ステラとアメリアの初戦が開幕した。
開幕早々、両ペアは動きだす。しかし、息の合ったステラとアメリアの動きには全く歯が立たなかった。
「前に見た模擬戦の時もそうでしたが、想像以上の強さですね。会長」
観客席で観戦していたヴィレトは、隣で観戦していたジュリカに言った。
「そうだな…… だが、まだ本気は出していないみたいだぞ」
「そうなんですか?」
一度剣を交えたジュリカには分かっていたのだ。彼らは手を抜いていると。
それからしばらくして、ステラとアメリアは勝利し初戦は無事に終わった。
「お疲れステラ」
「お疲れ様だな。この調子で次の試合も頑張ろう」
「えぇ!」
無事に試合が終了してステラたちは一息つく。しかし、ここで事件は起こる。
それは、試合終了してから十分後の話だった。
「そんな……」
「……」
ステラは苦笑い、アメリアは絶望した顔で椅子の前に立っていた。
椅子には、折れたアメリアの剣が置かれている。
「私の愛剣が〜」
アメリアはその場に座り込む。
「何したらこんなに派手に折れるのだ?」
折れた言うよりも、砕かれたと言った方がいいかもしれない。それほど状態の悪い剣だった。
「普通はこんな状態にはならないが……」
「どうしてくれるのよ!」
「いや、僕に言われても」
ステラは困った顔をした。
「ねぇ、ステラが責任取りなさいよ」
殺気に満ちた目でステラを睨む。
「何で僕が責任取らないといけないのだ」
「だって、だってステラが『飲み物一緒に取りに行こ』って言うから」
「関係ないだろ。それに普通、剣を置いてくアメリアのほうが悪いと思うが」
言い争いしている二人。それも大勢の人の前で。
そんな中、ある人物がステラとアメリアの間に立った。
「落ち着いてください。ステラ、アメリア」
「「落ち着いている!」」
二人は同時にクロウに向かって言った。
「では何故、そんなに言い争っているのですか」
状況が全く理解できないクロウは、少し困っていた。
「「……」」
確かに、何で言い争っているんだろう。お互い目を見つめ、沈黙の時間が数十秒続いた。
ようやく我に帰ったステラとアメリアは気を取り直し、今までの出来事を全てクロウに話した。
「なるほど…… アメリアと一緒に飲み物を買いに行き、戻ってみるとアメリアの剣が折れていて、今に至るわけですか……」
「えぇ」
クロウは折れた《フレスグレズ》の破片を手に取り、左手に当て魔法陣を展開した。
「……微量ですが、この部分に魔力の痕跡がありますね」
「クロウも気づいたか」
頷くクロウ。
「えぇ! 私は何にも感じないけど」
「この量だと、なかなか感じにくいかもしれませんね」
試合で発動した魔力が微かに残ったものだろうか。それとも……
「クロウはこれをどう思う」
「そうですね…… この魔力からして、意図的に誰かが破壊したものだと、私は思います。これを見てください」
クロウの魔法石には、見たことのある魔力式が映し出されていた。
「この魔力式どこかで見たことありませんか?」
「ん〜 多分だけど、闇属性魔法の魔力式?」
アメリアが首を傾げながら言った。
「えぇ、その通りです」
クロウは答えた。
「闇属性魔法の中でも、かなりレベルの高い攻撃型魔力式のようです。一般的に上級生が習うものですね。おそらく犯人は、私達よりも上の上級生の誰かでしょうね」
(上級生の誰かが意図的に……)
しかし何の証拠も掴めない以上、ステラ達で犯人を見つけ出すことはできない。
ステラは大きくため息をついた。
「犯人を捕まえるのは至難の業ですが……」
「そんな〜〜〜」
アメリアは再びその場に座り込んだ。
「ステラ、何かいい方法はありませんか」
落ち込むアメリアを見てクロウは言った。
一つだけ方法はある。そう、この学園のトップである生徒会長に依頼する方法が。
(できれば頼みたくは無いが…… )
そもそも動いてくれるのだろうか。不安も残る中、ステラはこの案を提案してみる。
「生徒会長に頼んでみるのはどうだろうか」
「いい案だと思います。ですが…… 生徒会長は動いてくれるでしょうか」
クロウも同じことを考えていたようだ。
「とりあえず聞いてみよう」
ステラはポケットから小型魔法石を取り出し、メール欄からジュリカを選択した。
「ステラ、いつのまに生徒会長と連絡交換したのよ」
少し怒った感じでステラに言った。
「連絡交換した訳ではないよ。いつのまにか追加されてたんだ」
「本当に?」
「本当だよ」
言い終わるのと同時にメールの文章が完成し、写真を添付して送信ボタンを押した。魔法石には送信完了の案内が表示されている。
「あとは返事を待つのみだな」
「そうね」
「返事が来るまでここで待つ?」
「私はローズに来てほしいと連絡が来たので、先にそちらの方を……」
「分かった。じゃあ、返事が来たらまた連絡する」
「お願いします」
そう言って、クロウはその場を後にした。
「アメリアはどうする?」
「これ直しに武器屋に行こうかな」
アメリアは折れた《フレスグレズ》が入った袋を、大事に抱えた。
「その剣、とても大切なんだな」
「うん。この剣は大切な人からの贈り物だから」
「なるほど。それは大事にしないとな」
ステラの言葉にアメリアは笑顔で返事した。
それから数分後……
「ところで、どこの武器屋にするか決めてるの?」
「ん〜 正直どこの武器屋がいいか分からなくて……」
大通りを歩きながらアメリアは答える。
「なら、この近くにいい武器屋あるけど行く?」
「ステラがオススメする武器屋なら行くわ」
「了解した」
ステラとアメリアが向かった先は、沢山住宅が密集している通りだった。
「この辺に武器屋があるの?」
疑問に思うのも仕方がない。辺りは住宅で、武器屋と記された看板などはないのだがら。
「あるよ。多分この辺にあるはずなんだけど……」
ステラは辺りを見渡す。
「あった、これだ」
ステラはとある住宅に足を止めた。
アメリアもステラと同じ方向に体を向けたが、ただの住宅だった。
「でもこれって、ただの住宅だよ」
「入ってみたら分かる」
疑問が残る中、ステラの後に続いてアメリアも住宅の中に入っていった。
「嘘でしょ……」
中に入ったアメリアは驚いた表情を見せる。
目の前に広がっていた光景は、住宅の中なのかと思うほど沢山の武器やアイテムが並んでいた。
「すごいわ……」
よく見ると、武器やアイテムの値段はどれも低価格で販売されている。
その安さにアメリアは再び驚いた。
「安すぎでしょ。この武器、普通なら30レポンドぐらいで売られているはずなんだけど……」
名札には5レポンドと表記されていた。
「これだってそうよ」
アメリアが持っていたとても高そうな剣でも、10レポンドと表記されていた。
「確かに……」
何回も来ているステラでさえ苦笑いした。
しばらくして、ステラとアメリアは再び棚にある武器に目を向けた。
(この剣の形すごいな……)
そんな中、二人が商品を見ている後ろに人影が現れた。