第十七話 信頼
〝おぉーーー!〟
ローズとガイウスの刃が会場の中央で交わった。やはり、準優勝した刃の重みは他の生徒とは違う。
何度か刃を交えた後、両者は一度下がった。
「予想はしてたけど、手ごわそうな先輩ね」
「前回の準優勝ペアですからね」
持っていた剣を地面に突き刺すクロウの行動に、観客席は驚きの声が出ている。
「どうする?」
「そうですね…… 以前、からくり人形で練習した時の作戦はどうでしょう?」
「あの作戦ね…… わかったわ」
ローズは前に一歩踏み出した。次の瞬間……
「なっ……」
ほんの数秒前までクロウの隣にいたはずのローズがガイウスの背後にいた。
「もらったわ」
ローズはガイウスの剣めがけて振り下ろしたが……
「さすが、王女様。だが……」
ローズが気づいた時には遅かった。
ガイウスはクロウの方に体を向けていたにも関わらず、ローズの剣を受けたのだ。それだけではない。まっすぐ立ったま、ローズの剣を受け止めていたのだ。
「嘘でしょ」
「どうした? 本番はこれからだぞ」
剣を跳ね除けた後、右足をローズの方へ踏み入れ間合いを詰めてきた。咄嗟にローズは腕を引いて体勢を戻そうとしたが、間合いが近すぎたため攻撃を受けてしまった。
「くっ……!」
ローズは飛ばされながらも体勢を戻し、クロウがいる場所に下がる。
「大丈夫ですか?」
「えぇ…… 私は大丈夫よ。やっぱり、単独攻撃は無理みたい」
「そうですか…… では」
クロウは余裕な表情をみせるガイウスとシリテスを見つめる。
単独攻撃がダメなら、ペア攻撃はより一層難しい感じてしまう。やはり、彼らは傭兵だ。
「ローズ、もう一度ガイウスとシリテスの間合いに入ってくれませんか?」
「何をするの?」
「これ以上、相手や他の生徒にも技を見られたくありませんからね~ ここはひとつ、奥義を披露しようと思いまして」
「別にいいけど…… 今すぐにできるの? 準備する時間が必要じゃない?」
「先程からそのための準備をしていたので大丈夫です」
クロウは自信満々答えた。キョトンとしたローズは、地面に刺さっていたクロウの聖剣を見つめ……
「なるほど、そういうことね。じゃあ……」
ローズは剣を構えなおしながら、《帝王の小紋章》を発動した。
紋章に反応したのか、愛剣の刀身は白く輝き、瞳の色が赤から白銀に変化する。
「王女様、その瞳の色は……」
「紋章による副反応みたいなやつかな」
「俺にもできるかな」
「それはどうかしら」
「まあ、いいや。紋章を発動した王女様は何をしてくれるのか楽しみだな」
「そうだな」
ガイウスとシリテスは攻撃に備え、剣を構えなおす。
観客席から選手を見守る生徒たちは、クロウとローズの不思議な行動に感心を示していた。
「合図したら上に跳んでください」
「わかったわ」
ローズは言い終わると同時に動き出す。
(速い!)
紋章を発動しているためか、先程より攻撃のスピードが上がっている。気づけば、ガイウスとシリテスは防御の方を重視した体勢になっていた。
「なるほど、これが《帝王の小紋章》か…… なら、」
攻撃を受け流すシリテスは目を閉じる。そして……
「〝レイ・セルベロス〟」
シリテスの手から緑色に輝く紋章が現れる。
「ステラ、シリテスの紋章はどんな紋章なの?」
「ん〜 見た感じは風に特化した紋章だと思う」
「なるほどね」
紋章を発動したシリテスは、少しずつ攻撃重視の動きになっていった。
ガイウスもタイミングよく攻撃してくるようになってきた。
「クロウ、そろそろやばいかも」
「もう少しだけ辛抱してください」
クロウは静かに目を閉じた。すると、クロウを中心として魔力が剣に吸い込まれていく。
異変に気づいたガイウスは……
「させるか!」
持っていた剣を投げ飛ばした。片手で投げ飛ばしたとは思えないほど、尋常じゃない速さでクロウの方に向かって飛んでいるのがわかる。
「まずい……」
ローズは慌ててその剣を薙ぎ払った。払ったのはいいが、再びシリテスの攻撃がやってくる。
「くっ!」
なんとか攻撃を受け止められたものの、この体勢はさすがにきつい。
「その体勢で受け止められるとは…… さすがだ。だが、いつまで待つかな」
シリテスは少しずつ剣に体重をかけ始めた。
(早く……)
ローズは剣を力強く握りしめた次の瞬間……
「ローズ、今です!」
クロウの合図とともに、ローズは会場の天井目掛けて高く跳んだ。
「なんだと!」
ローズがいなくなった先には、クロウが突き刺さった剣を握りしめる姿がシリテスの目に映った。
「王国式剣術奥義ーーー」
周りの魔力が一瞬無くなったと思った次の瞬間……
「〝雷羅壊刀〟」
強い稲光ともに、会場全体に爆発音が響き渡る。
気づいた時には、シリテスが持っていた剣は二つに折れていた。
「これが、クロウの本気か…… 」
「初めて実戦で使ったのでまだまだですが」
シリテスはその場に座り込んだ。
「ガイウスの剣もあの瞬間で壊していたのか……」
「いえ、ガイウスの剣はローズが薙ぎ払った時にすでに壊していました」
「壊していた動きはしていなかったはずだが…… どんな術を使えばできたのだ?」
「それは秘密ですよ」
クロウはシリテスに手を差し伸べた。
「それは残念だ」
シリテスはクロウの手を取り立ち上がった。
『ガイウス選手、シリテス選手の武器破損を確認! 勝者クロウ選手&ローズ選手!』
試合終了のアナウンスが会場全体に響く中、クロウはローズの近くに行きハイタッチを交わした。
「負けたみたいだな」
「あぁ…… だが、とても楽しかったと思うぞ」
ガイウスとシリテスはその場で握手をした。そして……
「またな、クロウ」
その言葉を残して、ガイウスとシリテスは姿を消した。
「無事に一回戦突破したし、美味しい物食べにいこう」
「そうですね。どこがいいでしょうか」
「ん〜 パスタとか」
「それはいいアイデアですね。いきましょう」
「うん!」
次の試合が始まる前に、クロウとローズも会場を後にした。
無事に第一回戦を突破した二人。次はどんな試合が繰り広げるのか、今後に期待。
「言っとくけど、クロウの奢りだからね」
「はい……」