第十四話 前日
「ステラ、朝ですよ」
クロウが扉を軽くノックするが、ステラの反応はない。
(まだ、寝ているのでしょうか…… 珍しいですね……)
普通に寝坊しているだけだと思うが、ステラの寝坊は珍しいらしい。
クロウは深くため息をついた。
「開けますよ」
クロウは扉を開ける。
予想通り、ステラは爆睡だった。
「ステラ、起きてください」
ステラを揺さぶりながら、クロウはひたすら声をかける。すると……
「ん〜 おはよう」
ステラはあくびをしながら、ベットから出る。
「おはようございます。ステラが寝坊するなんて、珍しいですね」
「ちょっと寝るのが遅かったからな」
「そうですか……」
まだまだ眠そうなステラは、顔を洗い制服に着替える。
「いこうか」
「えぇ」
ステラとクロウは部屋を出て、いつもの待ち合わせの場所へ向かっていた。
向かっている途中、ステラとクロウが戦った第二訓練場が見えてくる。
「今日は出来そうにないな」
「そうですね……」
第二訓練場の入り口は生徒の列で埋め尽くされていた。
また、第二訓練場以外にも他の訓練場で沢山の生徒が並んでいた。
理由は明日が学年対抗剣舞試合だから、今日に限って訓練場で特訓しようとする生徒がいたからだ。
(今日、特訓したも意味ないんだけどな……)
ステラは第二訓練場に並んでいる生徒の間を通り、再び待ち合わせ場所まで歩き出す。それから数分後……
「ステラ、こっちよ」
アメリアが手を振ってステラを呼ぶ。
「お待たせ。少し遅れてごめんな」
「全然いいよ、気にしないで」
「じゃあ…… 全員集合したのでいきましょうか」
ステラとアメリアの間に入ったレインが言った。
「あ……あぁ、そうだな」
ステラ達はその場所を後にし、学園の外に出た。
王都〈シュベティーナ〉
明日が学年対抗剣舞試合であるため、王都の大通りには沢山の出店が並んでいた。
まだ朝十時前だと言うのに、沢山の人で賑わっていた。
「人多いな〜」
「まぁ、世界中から来ていますからね」
「世界中から……」
クロウの言う通り、王都で見ない服をきた人が歩いているのが見える。
「あの店、珍しいものが売ってるみたいだ」
ステラ達が向かった先の店は、とても珍しい物が売っていた店だった。
その店には、王都にはない置物や食器、本などがあった。
どれも見た目は高そうだったが、20〜60アランドと、思ってたより安かった。
「いらっしゃい」
奥にいたこの店の店主が姿を見せた。
「店主殿、この本を一冊買いたいのだが」
「へぇ、52アランドとなっております」
クロウは魔法空間から財布を取り出し、52アランドを店主に渡す。
「クロウはどんな本を買ったのだ?」
「こんな本です」
その本の題名は〈coat of arms history〉と書かれていた。
題名どおり、紋章の歴史が記されている本だった。
「面白そうだな」
「もしかすると…… ですね」
「そうだな」
「全く…… あなた達は」
また、良くないことを考えて頭を抱えるローズとアメリアだった。
「あっ、これ可愛い」
アメリアが手に取った物は、クマのぬいぐるみだった。
「それが欲しいのか?」
「うん……」
アメリアは恥ずかしそうに、顔をクマのぬいぐるみで隠す。
「じゃあ、このぬいぐるみください」
「24アランドとなります」
ステラも魔法空間から24アランドを取り出し、店主に渡した。
「あ…… ありがとう」
アメリアは、クマのぬいぐるみの頭から顔を少し出した。
「あぁ…… いいのが見つかってよかったな」
ステラはアメリアの頭を撫でて言った。
「……」
「サナ、どうかしたのか?」
何かを見つめるサナを見て、レインは不思議に思うが……
「なんでもない」
小さな声でレインに答える。
そして、サナはレインの制服の裾を引っ張って歩き出そうとした。
「そろそろ、行きましょう」
「そうだな」
「えぇ……」
ステラ達も、レインとサナに続いて歩き出した。
その後、沢山の店をまわった一行は最後の場所に来ていた。
「本当にここか?」
「あぁ…… 確かにここのはずですが」
ステラ達がいた場所は、王都の東にある山の公園だった。
あたりは暗くなっており、虫の音が四方八方から響いてくる。
「もうすぐです」
クロウが時計を確認して言った。
「3…… 2…… 1…… 今です」
クロウの掛け声と共に、無数の花火が夜空に舞い上がった。
「わ〜 綺麗〜」
「あぁ…… とても綺麗だ」
夜空に舞い上がる花火は、まるで明日の学年対抗剣舞試合の応援のようだった。
ステラ達は円陣を組んだ。
「アメリア、クロウ、ローズ、レイン、サナ…… 優勝目指す覚悟で、明日から頑張るぞ」
ステラはそれぞれの顔を見て言った。
「うん」
「えぇ、そうですね」
「お互い頑張りましょ!」
「優勝は一組だけですが……」
「……」
ステラに続き、それぞれが喋り出す。
ようやく落ち着き、円陣を解除し帰ろうとした次の瞬間……
「「「……」」」
今までとは比べものにならないぐらい、大きな花火が夜空を舞った。
(明日から頑張るか〜)
ステラはその花火を目に焼き付け、その場所を後にした。