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第十二話 生徒会長VSステラI

5月8日

 アレスト王国立学園の生徒会長であるジュリカは、朝から第三訓練場で剣の素振りをしていた。


「もっと練習しなければ」


 素振りの動きは速くなる。

 あの時の模擬戦を観戦してから、ジュリカは少し変わっていた。



模擬戦 第二訓練場

 ジュリカは副生徒会長ヴィレト・ルレイと一緒に、ステラ達の模擬戦を観戦しにきていた。


「会長、どちらが勝つと思いますか?」


 ジュリカの横からヴィレトが問いかける。


「クロウペアだと思う」


 腕を組みながらジュリカは答える。


「会長らしいです。私は、ステラペアが勝つと思いますが」

「ならばここは一つ、ゲームをしないか」

「ゲームですか?」


 ヴィレトは不思議そうな顔をした。


「そうだ。ルールは簡単、勝つと思う方に賭ける。それだけだ」


 思った以上に簡単なルール。

 ヴィレトは深呼吸して「何を賭けたらいいのですか?」と、ジュリカに聞く。


「そうだな…… 800レポンドでどうだろうか」

「800レポントですか……」


 この国の通貨の呼び方は二種類ある。〈アランド〉と〈レポンド〉だ。

 〈アランド〉はコインで、〈レポンド〉は紙幣のことを指すため、ジュリカ達の言う〝800レポンド〟は一年間贅沢な暮らしができる金額となっている。


「わかりました。会長も800レポンド賭けてくれますよね」

「もちろんだ。まあ、勝つのは私だと思うが」


 自信満々なジュリカと不安そうなヴィレトは、ステラ達のいる会場の中央を向く。そして、試合が始まった。


「頑張ってください、ステラペア」


 ヴィレトは立ち上がり、周りの生徒と同じように応援する。

 ジュリカは静かに試合を観戦する。数分後……


《ローズ選手の降参宣言により、ステラ&アメリアペアに一点入りました》


 会場のスピーカーからこのアナウンスが聞こえた。

 次の瞬間、ジュリカは驚いた顔でステラのいる東ゲート側をみる。


「バカな…… 第三王女殿下が負けただと」


 ヴィレトは苦笑いした。


「これで私の勝ちですね。会長の800レポンドは、私のものです」

「いやまだだ。西ゲートの方はクロウがいたはずだ」


 ジュリカは西ゲート側を向いた。

 その頃の西ゲート側では、クロウがアメリアに攻撃を仕掛けていたところだった。

 

「クロウ勝て」


 ジュリカはただそれだけを願っていた。それから数分後……


《クロウ選手の降参により、今回の模擬戦の勝者はステラ&アメリアペアでーす》


 会場のスピーカーからこのアナウンスが再び聞こえてくる。

 次の瞬間ジュリカは立ち上がり、席を離れようとした。


「会長、800レポンドは……」

「今回は仕方ない! お前のものだ」


 そう言ってジュリカは会場を出た。

(あんなに強かったのか。 特に、王女殿下がステラにやられるとは…… このままでは……)

 生徒会長室に戻る間ずっと考えていた。

(明日から練習しなければ……)



 ーーーそして今に至る。


「はあぁぁぁ!」


 ジュリカは再び剣を振ったが、振った剣は衝撃に耐えきれず粉々になった。

(やってしまった…… まあ、練習の剣だから折れても仕方ない)

 ジュリカは砕けた剣を戻し、別の剣を手に取った。

 そして剣を振ろうとした。だが……


「あれ…… 生徒会長?」


 聞き覚えのある声にジュリカの手は止まった。

 振り返ってみると、出入り口には模擬戦に勝利したステラが立っていた。


「お前は…… ステラだったか。何のようだ」


 突っ立っているステラに聞いた。


「トレイニングのついでに立ち寄っただけです」

「そうか……」


 再び剣を動かしたが、「そうだ!」と何かを思いついた様子で動きを止めた。


「お前はクロウ、王女殿下と模擬戦をしてそれに勝ったよな」

「えぇ……」


 ジュリカは一歩ずつステラに近づいてくる。


「そこでだ。君と今から簡単な模擬戦をしないか」

「模擬戦ですか?」

「そうだ、ルールは模擬戦と一緒だ。どうだろうか?」


 ステラはその場で考え込む。正直、ステラはめんどくさいと思っていた。しかし……


「いいでしょう。模擬戦、受けて立ちますよ」


 ステラ剣を抜いた。


「よろしくお願いするぞ」


 こうして、ステラとジュリカの戦いが始まった。

 

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