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第十一話 パートナーと休日

模擬戦終了後 第二訓練場控え室


「お疲れ、ステラ」

「あぁ、お疲れ様」


 模擬戦を無事に終えたステラとアメリアは、控え室で休憩をとっていた。

 

「とりあえず…… 怪我を治さないと」


 先程の模擬戦で折れた肋骨に手を当てるステラ。


〝治癒(ヒール)〟」


 肋骨に当てていた手から、光属性魔法特有の魔法陣がでてきて、折れた肋骨を治していく。


「大丈夫?」

「大丈夫だ。一応、治ったみたいだし。アメリアの方こそ大丈夫か?」


 ステラは治ったろっをさすりながら、アメリアに聞いた。


「えぇ、大丈夫よ」


 ステラの横に座りながらアメリアは答えた。


「そうだ!」


 アメリアは手を叩いた。


「ねえステラ。明日、どっか行こうよ」

「明日? 別にいいけど」

「やった!」


 アメリアは軽くガッツポーズする。


「じゃあ、明日の八時ぐらいに学園の門の前に集合ね!」

「分かった」


 伝え終わった後、アメリアは荷物を持って嬉しそうに控え室を出た。

(まあ…… 大会までの一ヶ月、自由に過ごしていいって言われたしな)

 ステラは持っていた瓶の水を飲む。


「……」


(それにしても、どっかに行くって…… まさか、デート!)

 ステラの手から便が落ちる。


「え〜〜」


 ステラの変な声は廊下まで響いた。



5月7日 午前七時

 ステラは予定の一時間早く、学園の前に来ていた。


「流石に、早過ぎた……」


 アメリアと二人で初めてどこかに行くので、ものすごく緊張していたためか、前髪を何回も触るステラだった。


「……」


 数分後、レインとサナが歩いて来るのが見えた。


「おはよう、ステラ君。何してるんですか、門の前に立って。それに私服なんて、珍しいな」

「おはようレイン、サナ。まあ、私服も着てみたぐらいで別に何もないが」

「そうですか…… そういえば昨日の模擬戦見ましたよ。おめでとう」


 レインは赤い瞳を向けながら言った。


「ありがとう。レイン達も模擬戦して欲しかったらいつでも行言ってな」

「えぇ、その時はお願いしますよ」


 ステラとレインは握手した。すると……


「行こう……」


 サナがレインの服の袖を引っ張った。


「じゃあ、また」

「あぁ」

 

 ステラとレインは手を振って別れた。

 しかし、サナだけがレインの横からこちらを睨んでいる。

(僕って、サナに嫌われてるのかな……)

 ステラは少し悲しくなった。


「……」


 それから数分後、白いワンピースを着たアメリアが、女子寮のある方角からこちらに向かって来るのが見えた。


「お待たせ、ステラ。早いね〜 まだ八時前よ」

「だいぶ緊張しているからな」

「そ、そう。じゃあ、行こうか」


 アメリアは顔を隠しながら、ステラの手を引っ張った。


「あぁ、行こう」


 ステラとアメリアは歩きだし、門を後にした。



王都〈シュベティーナ〉

 ステラとアメリアは、王都の中でも商業が集中地区に来ていた。

 

「それにしてもすごいところだな〜 王都って」


 ステラは入学して以来、一度も学園の外に出たことがなく、ゆっくりと見ながら歩くのは初めてだった。


「すごいでしょう。ここは、最先端の文化が集まる所だから」


 王都について詳しいアメリアは、自信満々に答えた。

(流石だな。それにしても……)

 大都市〈フェネック〉でさえ、見た事ないものばかりあるので、少し焦るステラだった。

 

「アメリア、あの建物はなんだ」


 他の建物とは比べ物にならないほどの大きさがある円形の建物が、ステラの目に入った。


「あれは…… この国で一番大きい図書館〈フレッチェ大図書館〉よ」

「あれが…… 図書館だと……」


 その正体は図書館だった。

(一体、どれだけの本があの図書館にあるのか)

 見惚れてしまうほど、遠くからでも美しい彫刻が図書館の存在感を際立たせていた。

 また数分歩くと、目的地の場所に辿り着いた。


「ここよ」


 看板にはま〈喫茶店 クレイト〉と書いてある。

 中に入ると、外とは違い落ち着いた雰囲気のある空間だった。

 ステラとアメリアは奥の席に座る。すると……


「いらっしゃいませ…… お決まり次第、お呼びください……」


 喫茶店の店主がメニューを渡して、カウンターに戻って行った。

 二人は渡されたメニューを開けた。


「どれも美味しそうで悩むな〜」


 メニューにはサンドイッチやベーグルなどのパンはもちろん、パスタやシチューなどが書かれたあった。


「アメリア、オススメとかない?」

「そうね。この〝特製サンドイッチ〟とかどうかしら。絶品よ」

「そうなのか。じゃあ、僕はそれにしようかな。アメリアは決まったか」

「うん、決めたわ。すみません」

 

 アメリアは手を挙げて、カウンターにいた店主を呼ぶ。

 

「お決まりですか」


 店主はペンとメモ用紙を持ってやって来た。

 ステラは〝特製サンドイッチ〟と〝ブラックコーヒー〟、アメリアは〝クロワッサン〟と〝紅茶〟を頼んだ。


「少々、お待ちください……」


 店主は再びカウンターへと戻っていく。

 数分後、出来立ての特務サンドイッチがテーブルに置かれた。


「「いただきます」」


 ステラは特製サンドイッチを一口食べる。


「!!!」


 一口食べた瞬間、トマトの酸味とレタスの瑞々しい甘さがダブルで口の中に広がり、後からコショウのピリッとした辛さがこれまた癖になる。

 とにかく、ステラの手が止まらないほど絶品なサンドイッチだった。

 

「美味しい」

「ふふっ、良かった」


 アメリアは嬉しそうにステラを見つめた。

 そんな中、見覚えのある人物が窓の隙間から中を覗いていた。


「いいのでしょうか? 怒られそうですが」

「いいでしょ。だって気になるでしょ、あの二人」

「まあ…… そうですけど」


 覗いていたのはクロウとローズだった。それに……


「ですが、あまり覗いているとバレますよ」

「……」

「そうね」

 

 レインとサナもローズの横で中を覗いていた。

 ことの発端は数分前…… レインとサナは学年対抗剣舞試合の訓練をするために、学園を訪れていた。

 レインは準備するために男子更衣室に来ていた。そこでクロウが着替えているのを見かけた。


「クロウ君、おはようございます」


 レインは手を振ってクロウの前まで歩いていく。


「おはようございます。レインも訓練しに来たのですか?」

「まあ、そんなところです。遅れましたが、昨日の模擬戦、お疲れ様でした」

「ありがとうございます。負けてしまいましたけどね」

「でも、とても素晴らしい模擬戦でしたよ」

 

 レインはロッカーに荷物をしまいながら、クロウに答える。

 ここで、ある話が持ち上がる。


「そういえば、ステラはまだ来ていないみたいですが、今日は来ないのでしょうか?」

「ステラ君なら……」


 レインは先程会ったステラについて、クロウに話した。

 クロウはその話を頷きながら聞く。


「なるほど、私服で学園の門の前に立っていて、誰かを待っていた…… 確かに、興味深いですね」

「ステラ君が誰と会うのか…… 少し気になりますね」

「そうですね」


 クロウとレインは第一訓練場に向かう廊下を歩いていた。すると、後ろから突然ローズが話しかけて来た。


「ステラが誰に会うって?」

 「「!!!」」


 二人はバクバクと心臓が鳴る胸を抑えながら、ローズの方を向く。


「ローズ君、驚かさないでくれ」


 まだ心臓が鳴り響く胸を抑えながらレインは言った。


「ごめんね、レイン。驚かすつもりはなかったのだけど」


 ローズは手を前に合わせながら謝る。

 レインとローズは模擬戦の後、少し話したぐらいで、そこまで仲のいいとはいえないが、会話はだいぶ馴染めて来たらしい。


「それで、ステラは誰に会うのかって聞いているのだけど」


 何回も聞いて来るローズの横で、レインは何かに気づく。

(もしかして、ステラ君は……)

 分かって来たレインはクロウの目を見つめた。


「誰かに会うのは分かりかねますが、ステラはおそらく商業地区に行ったと思われますよ」


 ローズはきょとんとしているが、レインと同じクロウも大体予想はついていた。

 ローズだけがまだ分からない。


「じゃあ、今すぐ行きましょう」

「「……」」


 クロウとレインは互いに顔を合わせる。


「まあ、行ってもいいでしょう……」


 レインは不安そうに言った。クロウも「仕方がないですね」と、深くため息をついた。


「サナも連れて来たことだし、行きましょう」

「どこにいるのですか?」

「あれ、今まで一緒にいたのに」


 ローズが連れて来たサナが、いつのまにかいなくなっていた。

 その後、サナを見つけステラを探しに商業地区へ向かって行った。

 そして今に至る。


「それにしても、ステラが合う人ってアメリアだったんだ」

「以外でしたか」

「まぁ、意外だったかな。それに……」

「それに?」

「なんでもないわ」


 ローズの言葉に疑問を思ったクロウだったが、再び窓の隙間から中を覗く。だが……


「あれ…… ステラとアメリアがいませんけど」

「「えっ……!」」


 ローズとレインも慌てて覗く。


「本当だ、ステラ達がいないわ」

「どこに行ったのでしょうか…… おそらく、この店からは出ていないはずなのに」


 三人は窓の隙間から必死にステラとアメリアを探す。


「ねえ……」


 サナが声を出してレインの服の裾を引っ張るが、サナの声が小さくて、探すのに夢中なレインは全く気づかない。


「ねえ…… ねえってば……」

「どうしたんだい、サナ君」


 ようやくレインが気づくが……


「えっ……」


 レインは目の前にいる人物に思わず目を疑った。

 そこにいる人物はステラとアメリアだった。


「なあクロウ君、アメリア君、後ろ後ろ」

「後ろ?」


 クロウとローズも後ろを向く。


「あっ…… ステラ」


 ローズは小さく手を振った。

 しかし、ステラの目は鬼のように怖かった。


「クロウ…… これはどういう事だ」

「そ、それはですね」


 完全にステラは怒っていると、この場にいる人物は思っていた。しかし……


「はぁーー、全く君たちは……」


 ステラは頭を抱え、クロウ達を喫茶店の中に入れた。

(あれ…… 怒っていない?)

 クロウ達は、ステラとアメリアが座っていた席に座る。


「店主、四人分の紅茶をお願い」

「かしこまりました……」


 注文を確認した店主はカウンターへと戻って行った。


「あ、紅茶でよかったかな」

「ありがとうございます……」


 ステラの目を見れないクロウ達だった。


「はぁ〜 何故、あんな所にいたんだ」

「それはですね……」


 クロウは恐る恐る説明する。


「なんだ、そんな事で」

「えっ……」


 ステラの言葉に、思わずクロウ達の顔は上がる。


「別に声を掛けてくれれば言ったのに。それに、大体僕が会う人って想像つくだろ」

「……」

「確かにそうですね……」


 思わず苦笑いしてしまうレインだった。

 サナは相変わらず興味なさそうに聞いている。


「とにかく…… この話は終わり。紅茶も来たみたいだし、学年対抗剣舞試合についた話そう」

「えぇ、そうですね」


 結局ステラ達は昼まで、学園のことや学年対抗剣舞試合について話し合った。

 昼になるとクロウは用事があると言い、「残る!」と言うローズを引っ張って学園に戻って行った。

 レインもサナの「帰ろう……」を聞き、学園に戻って行った。

 

「みんな、帰ったな。僕達もどこか行こうか」

「そうね」


 ステラとアメリアも喫茶店を出た。


「どこに行く?」

「そうだな…… さっきの大図書館、行かないか?」

「別にいいけど」


 ステラとアメリアは〈フレッチェ大図書館〉に向かって歩いた。



フレッチェ大図書館

 ステラとアメリアは図書館の前に来ていた。


「大きいな〜」


 改めてステラが図書館の前に立つと、ステラがとても小さく見えてくる。

 

「大きいでしょう。これこそネフェリル神聖王国が誇る…… て、あれ?」


 アメリアが気づいた時には、隣にいたはずのステラは図書館中に入っていた。


「まったく、ステラったら」


 ステラの後を追いかけるように、アメリアも中に入っていった。


「すごい……」


 中に入ると目の前には大きなカウンターがあり、そのカウンターを囲むように壁には沢山の本が並んでいた。

 

「この本の数、一体どうやって……」


 この図書館には一体どこから集めたのか分からないほど、沢山の本があった。

 ステラは案内板を見て気になる場所を見つける。


「アメリア少し見て来てもいいか」

「分かったわ。私はあそこにいるから、終わったら教えて」


 アメリアはため息をついて言った。


「あぁ、ありがとう」


 ステラは子供に戻ったかのように、目的地まで走って向かった。


「まったく…… ステラったら」


 アメリアは棚に並んでいる本を一冊手に取る。

 一方、ステラは気になっていた〈神聖王国の歴史〉の本を集めたエリアに来ていた。


「ここ全部そうなのか……」


 目の前の棚全て、ネフェリル神聖王国の歴史について記された本が並んでいた。数えきれないほど並んでいた。

 少し進んでいると、〈紋章の歴史〉と記された本を見つける。

(古の紋章についても分かるかな……)

 ステラはその本を開ける。


「……」


 しかし、古の紋章については記されていなかった。

 その後も探したが有力な情報はなかった。


「はぁ〜 結局、得るものはなかったな。仕方がない、アメリアのところにでも戻るか」


 ステラは諦めてアメリアがいるエリアに向かった。

 その頃、アメリアは……


「遅いな〜」


 アメリアは本を閉じながら時計を確認する。

 三十分ぐらい待っても、ステラが戻ってくる気配はなかった。


「もう少し待ってみるか……」


 アメリアは別の本を撮りに行こうとした。その時……


「あっ…… ごめんなさい」


 アメリアの手が後ろにいた男性に当たったのだ。


「いいよ別に、気にしないでくれ」


 その男性は笑顔で答える。


「……」

「?」


 男性は腕を組みながらアメリアを見つめる。


「自己紹介がまだでしたね。私は、グレン・セルト・アクティナスというもの。ディ…… アレスト王国立学園の新任教師です」

「はぁ……」


 名刺を渡しながらグレンは笑顔で言った。

(名刺……)

 渡された名刺はどこか違和感を覚える。


「君も学園の生徒ですよね」

「えぇ、そうですが……」

「だったら、ステラと言う生徒を知っていますか?」

「えっ……」


 グレンの顔から笑顔が消える。

 アメリアは一歩後ろ下り、隠してある短刀を抜こうとした。


「知ってますが何か?」

「そんなに睨まないでください。ただ、聞いてみただけです」

「そうですか……」


 アメリアはゆっくりと短刀をしまう。

 グレンも笑顔に戻った。


「それでは、また学園でお会いしましょう」


 グレンは出入り口に向かって歩き出した。

 アメリアは一息して、再び本棚に目を向ける。その時……


「ステラによろしくと言っておいてくれ」


 出入り口に向かったはずのグレンが、アメリアの耳元で囁いた。


「!!!」


 後ろを向いたアメリアだったが、そこにはグレンの姿はなく、ステラが手を振って来るのが見えた。

(あれ、名刺は何処だろう……)

 ポケットに入れてた名刺がいつのまにかなくなっていた。


「アメリアどうした?」

「…… いや、大丈夫」

「そろそろ時間だし帰ろっか」

「えぇ……」


 ステラとアメリアは図書館を後にし、学園に向かって歩き出した。


『ステラによろしくと言っておいてくれ』


 ただその言葉だけが、アメリアの頭から離れなかった。



 

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