第十話 模擬戦II
5月6日
「それでは、ステラ&アメリア対クロウ&ローズの模擬戦を開始します…… 始め!」
ステラ達は審判員の合図と同時に、中央で一斉に剣が交わった。そしてステラとローズは西コートへ、クロウとアメリアは東コートへと場所を移動する。
西コート ステラ対ローズ
最強の紋章を持つステラと、神聖王国最高ランクの剣を操る聖剣使いにして王女のローズが再び動き出した。
白銀色の聖剣がステラの胸元に迫ってくる。
「なっ……!」
ステラは後ろに下がるようにステップを踏んだ。
(速い……)
ローズの攻撃構造は至ってシンプルだが、動きが速く一撃が重い。剣が交わるごとに体に圧力がかかる。
ステラはさらに後ろに下がった。
「やるな」
ステラが下がると同時にローズは攻撃をやめ、ステラから離れた所に現れた。
「これ程の攻撃を受け流すとは……さすがね。エレファン家のステラ……」
(今、あきらかにエレファンって言ったよな……)
ステラは観客席の方へと目を逸らす。
(よかった…… 聞かれてはいないか)
観客席は相変わらず騒がしかった。
「ど、どうかな」
もう一度ローズの方を向いたが、そこにいたはずのローズの姿はどこにもいない。
(しまった……)
とっさに剣を握りしめ構えたが、時すでに遅しだった。
気づけばローズの攻撃がステラの右腹部に直撃したのだった。
「くっ!」
ステラは攻撃を受けたが、受け身をとって場外に出るのを防いだ。
(危なかった~ 死ぬかと思った)
ステラは胸を撫で下ろす。
例え模擬戦でも、常に危険と隣り合わせだと改めて感じたステラは立ち上がった。
〝おぉーーーーー〟
歓声はさらに高くなった。
会場のスピーカーからは「場外に出たものは失格だから、この判断は間違いではない」と、放送委員のセセラが得意げに言っているのが聞こえた。
(それにしても凄いな、この制服)
良かったことに、この学園の制服は頑丈に作られているため、先程の攻撃でも破れなかった。
ステラは少し安心する。
噂では、よっぽどがない限り破れないらしい。
一体どんな原理で柔らかくなっているのか。ただ、破れない代わりに攻撃が当たったら物凄く痛い。
それがこの学園の制服だ。
「へ~ 今の攻撃でも倒れないか……」
「ここで倒れたら負けだしな」
「まだ模擬戦ですよ」
「ふっ…… 模擬戦だからだ」
ステラは構え呼吸を整えた。
(うっ…… やっぱり折れているな)
先程の受け身の反動で肋骨が折れてしまったのだ。
しかしステラは、光属性魔法〝治癒〟を使わずに動きだした。ローズもそれに合わせて動き出す。
物凄い速さで刃が交わり両者の動きは止まった。
「何故、貴方がこの学園にいるの?」
予想通りの質問が来た。
再び刃が動く。
「何故かな。僕は来たかったから来ただけだ」
ステラはローズの剣を受けながら答えた。
「ふ、ふざけないで」
さっきよりもローズの動きは速くなり、ステラの受けも速くなる。
「普通なら貴方は……」
「……」
ローズのは恐ろしいと思うほどの顔つきだった。
(このままでは……)
ステラはローズから距離をとり攻撃体制に入った。
「これで終わりだ、ローズ」
「そうね……」
ローズは紋章を発動し、攻撃する構えに入った。
ステラは先に攻撃しようとしたが、先に攻撃したのはローズだった。
「終わりよーーー〝風化した剣聖〟」
無数の刃が一斉にステラに向かって放たれる。
「くっ!」
ステラは攻撃が当たったものの、構えを崩さず、ローズの攻撃の隙をついた。
「まだまだだな、ローズーーーエレファン家秘伝五級剣技〝流星剣〟」
ステラの放った攻撃は、ローズの剣に直撃した。
「うっ!」
ローズの手から聖剣が落ちた。
「しまっ……」
ローズは聖剣を拾おうとした。
しかしステラがローズの背後に移動したため、聖剣を拾うのをやめた。
「終わりにしよう」
ステラはローズの聖剣を拾い上げ言った。
「はぁ~ 分かった、降参よ」
ローズは手を挙げた。
そしてローズが言い終わると同時に、ライゼの声がスピーカーから会場中に響く。
『ローズ選手の降参宣言により、ステラ&アメリアペアに一点入りました』
ライゼが言い終えた後、生徒達の大歓声が起こった。
一方、東ゲートでは……
「決着ついたみたいだね」
「そうみたいですね。私達も終わらせましょうか」
アメリアとクロウは、西ゲートのステラとローズの姿を見つめながら言った。
そして再び動きだした。
数分前……
東コート クロウ対アメリア
模擬戦連勝連敗であるアメリアと、宰相の息子であるクロウが、東コートで剣を交える。
「一度、戦ってみたかったんだ。クロウと」
「私もですよ、アメリア。ステラのパートナーに相応しい人柄なのか、ここで見極めさせていただきますよ」
両者はの攻撃の速さは剣が交わるたびに速くなっていった。
また、東コートの床も破壊されていく。
(さすがね、クロウ…… ならば)
アメリアは上体を低くし、一歩踏み込んだ。
「永久に眠れーーー〝暗夜冥護〟」
「しまっ……」
クロウが魔法障壁を発動しようとしたが、アメリアとの距離が近すぎて、魔法を発動する速さよりもアメリアの攻撃の方が速かった。
「くっ!」
攻撃を受けたクロウは一旦後ろに下がる。
「〝治癒〟」
クロウは剣を拾い上げ、再び構えなおす。
「さすが、ステラのパートナー。実力は確かですね」
「ありがとう。クロウもなかなかね」
「ふっ……」
アメリアとクロウが睨みあうなか、会場のスピーカーからアナウンスが聞こえてきた。
『ローズ選手の降参により、ステラ&アメリアペアに一点入りました』
アメリアは安心したのか、顔の表情が少し和らぐ。
「決着ついたみたいだね」
「そうみたいですね。私達も終わらせましょうか」
クロウは剣を持ち替え、攻撃する姿勢に入った。
(くる……)
しかしアメリアは限界だった。
(次で終わらせる)
動く姿勢をみせるクロウに対しアメリアも剣を構える。
一呼吸置いた次の瞬間、クロウの剣がアメリアに向かって飛び込んできた。
「うっ!」
アメリアは攻撃を受ける。
「王国式剣術最上級第一級〝綺羅星〟」
クロウが放った攻撃は、激しい振動と光線がアメリアに迫っていく。
(まずい…… このままでは……)
アメリアは攻撃を避けようと動こうとしたが、限界がきたのか体が動かない。
(だめか……)
アメリアは目の前が真っ暗になった。諦めかけていたのだ。
(ごめん…… ステラ……)
アメリアは目を閉じた。だが……
「アメリア! 目を開けろ!」
(あぁ…… ステラ声が聞こえる)
アメリアは目を開ける。すると、限界だったはずの体は思うように動くようになっていた。
(いける!)
アメリアは右足に体重を乗せ、クロウの攻撃よりも低く構えた。
「ありがとう、クロウーーー〝一刀両断〟」
「えっ……」
次の瞬間、クロウの体制が崩れ、手から〈聖剣アルフォス〉が離れる。
「なっ!」
愛剣を落としたクロウは魔法を使おうとした。
しかし、アメリアの剣がクロウの前に突き出されたため、クロウは魔法を使うのを止める。
「降参しなさい」
クロウは苦笑いした。
「ははは…… 私の負けです」
クロウが降参した瞬間、観客席から大歓声が起こった。
『クロウ選手の降参により、今回の模擬戦の勝者はステラ&アメリアペアでーす』
〝ウォーーーー〟
〝おめでとうーーーー〟
〝両者ともよかったぞーーーー〟
生徒達は立ち上がり拍手した。
ステラ達は大歓声と拍手を浴びながら、一同は会場の中央に集まる。集まったステラ達は、観客席の方を向いて一礼をした。
そして再びお互い戦った方を向く。
「ローズと戦えてよかった。ありがとう」
「礼を言うのは私の方よ。ステラ、本当にありがとう」
ステラとローズは握手するが、その握手は少し強かった。
「ねえ…… ステラのことは、お父様に黙っておく。その代わりに……」
小声に変わったのか、『その代わりに』以降のローズの声は聞こえなかった。聞こえなかったが、きっと大事なことに違いないと思ったステラは小さく頷く。
一方、ステラとローズの隣にいた二人は……
「なかなかでしたよ、アメリア。次は負けませんから」
「どうかしら。勝つのは私の方よ、クロウ」
アメリアとクロウはとても熱く、睨み合っていた。
ステラは睨み合っている二人を見て、思わず笑ってしまった。
「?」
ローズは困った顔をした。
しばらくして、笑いがおさまったステラは観客席に目をやる。
(これが模擬戦ではなくて、本当の大会だったらな……)
なんて事を考える。
考えていると、終わりのチャイムが鳴った。
「帰るか」
ステラ達は退場する前に、もう一度観客席の方を向き一礼した。
再び歓声が起こる。観客席の歓声は、おそらく学園中に響いたかもしれない。
歓声を聞きながら、ステラ達はそれぞれの控え室に戻っていった。
ステラ達が控え室に戻っていくのを見て、放送委員の二人は観客席の方に向かって手を振り、最後の挨拶をした。
『それでは、次の模擬戦でお会いしましょう!』
『ここまでのお相手は、放送委員のライゼと』
『セセラです~』
『『それではー!』』
こうして、ステラ達の模擬戦は無事に終わった。