静<真冬<ひより
プロットを確認したら「支倉ひより(27)」って書いてありました。
一体いつ1歳若返ったんでしょうか。
「蒼馬くんに身体を求められたですって!?」
「そうなの…………私、どうしたらいいか分からなくなっちゃって」
「嘘…………信じられない…………」
例によって真冬の家に集まった私達。何故かまた、当たり前のように私だけ床に座らされているんだけどそんな事は今はどうでもいい。緊急を要する議題が今目の前にあった。
「え、ちょっ、どういうことなんですかそれ!?」
身体を…………身体を…………求められた…………?
それって、つまり、そういうことなの…………?
まさかの発言に頭がパンクして、思考が意味のない所をぐるぐる回っている感覚だけが広がっていく。蒼馬くんがひよりさんを押し倒すイメージがぐわーっと脳内に湧き出て来て、私はあわててそれを打ち消した。
「うん…………あのね? 私、今朝蒼馬くんのお家に行ったの。仕事前にちょっとお話出来たらなって。そしたら…………そしたら…………蒼馬くんがいきなり…………『脱げ』…………って」
「きゃーーーーーーー!!!!!!」
「…………嘘よそんなの…………私が夜這いした時手を出してこなかったのに…………私は信じない…………」
「ちょっ、夜這い!? あんたも何やってんのよ!? いやそんなことよりそんなことより、ヌ、ぬぬぬ脱げって言われたんですか!?」
思わず前のめりになりながら問い詰める私に、ひよりさんは今朝のその衝撃発言を思い出したのか、顔を更に赤くして俯いた。
「びっくりしすぎて詳細は覚えてないんだけど、そんな感じの事を言われた気がするの…………」
「そんな…………蒼馬くん、最低だよ…………」
蒼馬くん…………いい人だと思ってたのに…………蒼馬くんだけは違うと思ってたのに…………!
「結局蒼馬くんも胸で人を判断するんだあぁあああっ! うわあぁああああああん!!!」
「静ちゃん!? どうしちゃったの!?」
「ふっ、貧乳は辛いわね」
「うっさい! あんただって見向きもされなかったんでしょうが!」
「くっ…………」
ひよりさんの胸と自分の胸を見比べる。まじまじと観察するまでもなく、そこには富士山と浜辺に作った砂の山くらいの差があるのだった。
「ちくしょお…………神よ…………どうして私にばかりこのような惨い仕打ちを…………」
私は現実に耐えられず、床に突っ伏した。図らずも乳神であるひよりさんにひれ伏すような構図になってしまい、それも私の惨めさを加速させた。
乳なのか、この世は結局乳なのか!?
「胸か…………豊胸手術って幾らかかるのかしら」
絶望に打ちひしがれながら頭を起こすと、真冬がスマホを操作していた。もう豊胸手術の決心を固めたというの?
「まふゆや…………分かったら私にも教えておくれ…………」
きっと私は真冬の2倍くらいお金がかかるんだろうな…………真冬は別に小さい方じゃないもん…………私と違ってさ…………
「ふたりとも早まらないで……! ふたりには、ふたりの良さがあると思うのっ」
「小さい事の良さってなんだよお…………まな板代わりに料理に使えますってかあ…………?」
「私はまあ、普通くらいはあるから。まな板には使えそうにないけれど」
真冬が自分の胸に手を添えて持ち上げた。そこにははっきりと分かるレベルで載っているのだった。
脂肪が。たぷんたぷんと。
「誰がまな板じゃ!」
「自分で言ったんじゃない…………」
真冬の真似をしてみても、すっ…………と手が胸を通り過ぎるだけ。あれれ、今何かあったかな?
おかしいなあ。おかしいよね?
「はーあ、私の胸…………一体どこに落としちゃったんだろ。警察署に届いてたりしないかなあ」
「静、現実を見て。逃げても胸は大きくならないわ。揉むと大きくなるって聞いた事あるけれど」
「まずその揉む胸が無いんだよ…………貧の者の気持ちはお
なんとでもなれーという気持ちになり、私は両腕を放り出し仰向けに寝転んだ。自分の家では床に寝転ぶなんて出来ないから、何だか新鮮な気持ちだ。
「お、落ち込まないで静ちゃん! ほら、蒼馬くんがそんな胸だけで判断する人な訳ないじゃない」
「それは…………そうかもしれないけど…………」
でもさ、大きい方がいいに決まってるよね。男の人ってそうだもん。
「ところで、ひよりさんはお兄ちゃんの事嫌いになったんですか?」
「へ…………? 嫌い? どうして?」
真冬がやっと本題に入った。私は起き上がる気になれず、真っ白な天井をぼーっと眺めながら聞くことにした。
「さっきお兄ちゃんが気にしてたんです。ひよりさんに嫌われちゃったって」
「え────全然そんなこと無いよ!? 夜ご飯だって、ちょっと顔を合わせるのが恥ずかしかったから断っただけで、嫌いになったなんてことは全然っ」
「そうですか」
「うん…………身体を求められたことだって、その…………どちからといえば、う、嬉しかったし…………」
「ちっ…………」
私は耐えきれず舌打ちをした。全国の巨乳よ、滅びろ。
「それなら誤解を解いた方がいいんじゃないですか? お蕎麦、ひよりさんの分も用意してたみたいですよ」
「う、うん。ごめんね、私ちょっと行ってくるね!」
言うや否やひよりんはリビングから出て行った。寝転んでいた私は、それを床を伝わってくる振動で感じた。
部屋には、私と真冬だけが残された。
「…………真冬、やけに優しいじゃん。蒼馬くんとひよりさんがくっついてもいいの?」
「嫌だけど。お兄ちゃんが悲しそうにしてるのを見るのはもっと嫌だから。今回だけは特別」
「ふーん…………あんた、本当に蒼馬くんの事が好きなんだね」
「何年好きだと思ってるの? ふたりとは年季が違うのよ。ほら、用も済んだんだから床に転がってないで帰って」
「ほーい」
…………同じヒトを想っているからなのかな。
私たちの恋がどうなろうと、真冬とはずっと友達で居られるような気がした。
まあ蒼馬くんの彼女になるのは私なんだけどね。ほら、性格は私が一番ぷりちーじゃない?