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支倉ひよりに待ち受ける試練

感想欄やTwitter等で沢山のお祝いのコメント、ありがとうございます。じわじわと実感が湧き出て来て、喜びに震える毎日です。


極力毎日更新をしたいとは思っているのですが、色々見直したり忙しくなることもあるので、毎日更新が崩れることも出てくると思います。


ごめんなさい!

「…………いやいや待て待て。みんなで使うって…………どういうこと?」


 果たして合鍵とはそういう使い方をするものだったか。まるで高校生が部室の鍵当番を決めるかのような軽さで宣言されても、分かりましたとすんなり納得する事は出来ない。いくら俺の家が最近はほぼフリースペースのようになっていたとしてもだ。


「そのままの意味だよ? 私達も真冬みたいに蒼馬くんちに好きな時に入りたいの…………だめ?」

「だめ? って言われてもな…………」


 小首を傾げ上目遣いで見つめてくる静に不意打ちを食らい、俺は目を背けた。


 …………女の子ってどこでこういう動きを覚えてくるんだろうか。男女別で分かれる体育の授業とかでやるのかな。男子が野球やサッカーをやっている間、女子は可愛い仕草の練習をしてたりするんだろうか。そんな訳はない。


「…………そもそもさ、割と好き勝手うちに来てないか? 基本鍵開けっぱだしさ」

「そうだけど、たまに閉まってるじゃん。昨日の初配信の後とかさ。真冬が鍵開けて入るもんだから、私とひよりさんはびっくりして腰抜かしたんだよ?」

「あー…………?」


 すぐ寝落ちしたからあまり覚えてないが、配信が終わった後少し真冬ちゃんと話した気がする。もしかして他の2人も来ようとして、それで真冬ちゃんと鉢合わせたってことか?


「ごめんねお兄ちゃん…………2人だけのヒミツだったのにバレちゃった…………」

「いや、別にそんな隠れて付き合ってたみたいなのは無いけど…………うーん」


 萎れたフリをする真冬ちゃんを一刀両断しながら頭を回転させる。因みに真冬ちゃんはふざける時も真顔だから本気なのかめちゃくちゃ分かり辛い。いや、今はそんなことはどうでもいいか。


 …………合鍵なあ、正直ダメかと言われるとそうでもないんだよな…………ぶっちゃけ今と何も変わらない気がする。だって、静とひよりんは真冬ちゃんみたいに夜中勝手に入ってくることは無いだろ?


 それなら2人が合鍵を持っていた方が、真冬ちゃんが侵入してくる回数が減っていいんじゃないか?


 あ、そもそも夜中入られたくないならチェーン掛ければよかったんじゃん。なんでその事に気が付かなかったんだろ。あー、でもチェーン掛かってたら真冬ちゃん傷つくよな…………別にそこまでして入られたくない訳でもないし…………はあ。


「…………絶対無くすなよ? あと、俺が居ない時は勝手に入らないこと。それが約束できるならまあ…………いいけどさ。こっちも合鍵貰っちゃってるし」

「やたっ! …………そういえば私だけ合鍵渡してない! 今度持ってくるね、あーでもどこやったかなあ…………」

「いや、別にいらんけど」

「何でよ!?」


 だって片付けする時くらいしかあのゴミ屋敷行きたくないもん。怒って掴みかかろうとしてるけど、その態度は部屋を綺麗に片づけてる奴しか取れない態度だからな?


「良かったあ…………これで好きな時に蒼馬くんの寝顔が眺められるのねえ。それじゃあ私、仕事だからそろそろ行くわね」

「…………え?」


 ひよりんが軽く手を振って玄関に歩き出す。何か聞き捨てならない事を言っていた気がするんだが、それを確かめる前にひよりんは出て行ってしまった。





 まあ言うてもよ?

 そんな初日の夜中から合鍵使って入ってくることなんかある訳ないよな。

 …………と思っていたのだが。


「…………本当に来ないんかい! いや入ってきてほしかった訳じゃないけどさ」


 カーテンの隙間から差し込む朝日に夢から呼び戻され上半身を起こすと、すぐ横にはパジャマ姿の静とひよりんが────という事もなく、俺はひとり目を覚ました。


 極々一般的な朝だ。


「なんかあれだ…………ほら。ラブコメだったら入ってくるじゃん普通。絶好のお色気シーンじゃん。下着姿のひよりんが隣で寝てたりとかさ、そういうのあんじゃん」


 本当に期待していた訳じゃないんだけど…………予想を透かされた自分が何だか恥ずかしくなり、誰が聞いてる訳でもないのに言い訳が勝手に飛び出す。


「何か気を揉んで損したな…………」


 月曜の朝からもやもやとした気持ちを抱えてしまった。週の始めからこんな気持ちじゃ一週間乗り切れない。ここは冷水で顔を洗って嫌な気持ちはすっきり流してしまうに限る。


「ふわぁ…………今週も頑張りますかねえ…………」


 あくびをしながら寝室のドアを捻る。

 朝の陽ざしで温められた寝室より、ほんの少しだけ冷たい空気が気持ちよく肌を撫で────


「────っ!?」


 急に現れた人影に軽く飛び跳ねる。いや、人影はずっとそこにあった。ドアの前に誰かいたんだ。


 一体誰だ。

 真冬ちゃんか?

 静か?


 それとも────


「わ、わたっ、わたたたっ…………わたしっ裸になった方が良かったのかなッ!?」


 ────最悪だった。お洒落なワンピースを身にまとったひよりんが、顔を真っ赤にしながら壊れたロボットみたいに身体を震わせている。


「ちっちちち違うんです! 今のは例え話というか極々一般的なラブコメ論として言っただけでして俺は一切そのような事は考えてなくてですね!?」

「そそそそうだよねっ! 私の裸なんか見たいわけないよねだって私26歳だもん皆とすっごく歳も離れちゃってるもん正直浮いてるよねほんとごめんね!?」

「いやそれはそれで話変わってくるというか別に浮いてないと思うし俺には答えようが無いというかほんとマジで誰か助けて欲しいんですけど!?」

「朝からごめんねちょっとお話出来たらいいなって思っただけなの私仕事行くからじゃあね!」


 ひよりんがライブ中でしか見たことないような俊敏な動きで飛び出していく。遠ざかっていく背中を俺は茫然としながら見送ることしか出来ない。


「……………………最悪だ」


 ひよりんに…………ひよりんに…………下ネタ言っちまった…………!

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