本日も蒼馬会はいつも通り
第二章、始まりました。
新キャラがどばーっと増えたりとか、そういう事はありません。
シリアス展開もありません。
ゆるーく進んでいく予定です。
どうぞよろしくお願い致します。
「────そういう訳でさ、なんか俺VTuberになっちゃったんだよ。これからもしかすると夜飯作れないこともあると思う。極力ないようにするけどね」
夜飯時、エビチリを小皿に分けながら俺は今日の事を皆に打ち明けた。
「ふっふっふ」
「蒼馬くんがVTuberに? 凄いわねえ」
「お兄ちゃんが…………?」
何故か得意げに腕を組んでいる静は置いておくとして、ひよりんは俺のデビューを素直に喜んでくれた。
「実は私も近々ミーチューブチャンネルを開設する予定なの。いつかコラボ出来たらいいわねえ。静ちゃんも蒼馬くんも」
「あっ、あの話決まったんですか!? 楽しみですっ」
「あの後すぐ事務所に相談してね? やっとオッケー貰ったの」
静はその事を知っていたのか、本決まりになったことを喜んでいる。
ひよりんがミーチューブかあ。どういう内容になるんだろ。ザニマスの事とか話すのかな。
「…………真冬ちゃん?」
真冬ちゃんは4人でいる時はあまり喋るタイプじゃない。
たまに静に毒を吐くくらいで、あとは基本的に黙々と食べている。だから今も黙っている真冬ちゃんにさほど違和感がある訳では無かったんだけど、何故だかいつもとは違う気がして俺は声を掛けていた。
「なあに、お兄ちゃん」
反応してこちらを向く真冬ちゃんはいつもと変わらないように見える。やっぱり気のせいだったのかな?
「ぐふふ…………真冬、あんた寂しいんでしょう。愛しのお兄ちゃんがVTuberになっちゃっ────痛ッ!? ちょっと、スネ蹴るのはナシ!」
すかさず真冬ちゃんを煽りにいった静が反撃をくらい目に涙を溜めた。本当にこいつらは…………仲が良いんだか悪いんだか。
「でも…………確かにそうねえ。静ちゃんと蒼馬くんはVTuber、私もミーチューブで活動するし…………真冬ちゃんだけ取り残されちゃうわねえ。静ちゃん、真冬ちゃんもVTuberにさせてあげられたりしないかしら?」
「んー…………うーん」
ひよりんは俺達の顔をゆっくりと見回したあと、静に提案した。
確かに真冬ちゃんだけそういう活動が無い。その事について深く考えていなかったけど、もしかして寂しかったりするんだろうか。真冬ちゃんはあまりそういう活動をしたがるタイプには見えないけど。まあ、それを言ったら俺もそうか。
「一応オーディションは常にやってるけど…………私情とか一切抜きにして、真冬は向いてない気がするんだよなー。リスナーに何か言われたらキレそうだし────痛いっ! また蹴ったな!?」
静が大きく叫び、頭をテーブルの下に潜り込ませた。患部を確認しているんだろう。青くなっていなければいいが。
「勘違いしないで。私はVTuberになる気なんてないから。それに寂しくもない。私、お兄ちゃんのチャンネルに出るから」
「…………は?」
真冬ちゃんは得意の真顔で訳の分からない事を言い出した。決定事項ですよ、という風に澄まし顔でエビチリを口に運んでいるが流石に口を挟まない訳にはいかない。
「ちょっと待って真冬ちゃん、それどういうこと?」
「どういうことも何も、そのままの意味。妹なら出ても違和感はないはず」
「そもそも妹じゃないんだけど…………」
俺は知っていた────こうなった真冬ちゃんはテコでも動かないってことを。下手に断ったら無理やり乱入されかねない。彼女の手には我が家の合鍵が握られているんだ。
「うーん…………でも、いいのかなあそういうの」
正直に言ってしまえば俺としても真冬ちゃんが出ることに不満はない。仲間外れみたいになるのは俺の本意では無かったし、真冬ちゃんとわいわいやれるならそれに越したことはなかった。
「…………お~いてて………そういう形なら、まあいいんじゃない? 事前に許可取っといた方がいいと思うけど」
丁度静に聞こうと思っていたら、テーブルから頭を抜きながら静が答えた。
「大丈夫なのか? 複数人でやってるのとか聞いたこと無いけど」
「家族がちょっと出たり一緒にゲームやったりとかは割とあるよ? 家族のエピソード話す人だと、寧ろ出演望まれてたりするし。そういうのは結局はリスナーが受け入れてくれるかだから、上手い事やる必要はあると思うけどね」
「なるほどな…………」
明確に決まりがある訳じゃなくてあくまでリスナーありきなのか。それならまあ、何とかなるかもしれない。
「とりあえず一回相談してみるわ。誰に相談すればいいんだろ」
「マネージャーとかまだいないんだっけ…………それなら、この前の摩耶さんに言っとけば何とかなると思う。あの人ゼリアちゃんのマネージャーなんだけど、その他にも色々やっててめっちゃ権力持ってるから。ゼリアちゃんに調整お願いしとくね?」
「ありがとう、助かるよ」
「いいっていいって。誘ったの私だし、真冬のお姉ちゃんとしてこれくらいはね?」
言うや否や、静は真冬ちゃんに対して身構えた。また蹴られると思ったんだろう。そう思うなら変な事言わなければいいのに。
けれど、真冬ちゃんは動かなかった。ゆっくりと静に目を合わせる。
「静、ありがとう」
「お、おお…………どういたしまして……?」
相変わらず真顔の真冬ちゃんにやられ、静はたじたじになっていた。やっぱり静は末っ子だ。
「ふふ…………良いわねえ、若いって」
そんな二人を眺めながら、ひよりんが幸せそうにビールを呷る。
蒼馬会は、今日も通常運転。