スペシャルゲスト
ジャンル別日間1位になれました!!!
ほんとーーーーーうにありがとうございます!!!
一生の思い出になりました…!!!
「────と、というわけでっ、スペシャルゲスト・声優の八住ひよりさんでーす!」
静が早口で何とか場をつなぐ。ひよりんは一瞬で状況を察したのか「やっちゃった」という表情を浮かべた。
静はひよりんに対し手を合わせながら必死に頭を下げて、それを見たひよりんが負けじと頭を下げ合っている。
みやびちゃんはよく分からないが何か楽しそうにしていた。
「…………」
俺は急いでひよりんにルインを送った。
『今エッテ様のオフコラボ配信中です。一緒にいるのはゼリアちゃんです。俺はいないものとして振舞ってください』
俺が自分のスマホを指さしてアピールすると、ひよりんは自分のスマホを確認して……俺に向かって指で丸を作った。
コメント:『!!!????』
コメント:『ひよりん!?』
コメント:『マジ!?』
コメント:『あの八住ひより?』
コメント:『えどういう関係なの!?』
コメント:『神 回 確 定』
コメント:『やべええええええええええ』
人気声優のまさかの乱入に、コメント欄はかつてない勢いを見せていた。
「え、えーっと、こんばんはー! 声優の八住ひよりでーす! ごめんなさい、オフコラボ中って知らなくてプライベートでエッテ様の家に遊びに来ちゃいましたー!」
コメント:『偶然だったのかwwwwやべえwwww』
コメント:『エッテ様とひよりん仲良かったのか』
コメント:『盛り上がってまいりました』
「えっとねー、もう言っちゃうけど、私とひよりさんはマンションのお隣さんなんだよね。それで普段から遊んでるんだ」
観念したのか静がひよりんとの関係を白状する。みやびちゃんはコメントと一緒になって「ええええ」と驚いていた。
コメント:『まさかすぎる』
コメント:『そんな夢のような場所がこの世にあるのか』
コメント:『俺もそこに住みたい』
「えっと……視聴者の皆さん本当にごめんなさい。すぐ帰りますから……」
コメント:『帰らないでええええええええ』
コメント:『ひよりんファンの俺氏、今マジで震えてる』
コメント:『折角だし3人でわちゃわちゃして欲しい』
コメント欄は折角やってきた大きな魚を逃さまいと必死だ。
「…………いやーマジでびっくりした! あ、初めましてバーチャリアル所属のゼリアっていいます! よろしくお願いします!」
「あっ、初めまして。声優の八住ひよりです」
頭を下げあうふたり。
「突然なんですけどっ、今私たちオフコラボ中なんですけど、よかったらひよりさんも参加してくれませんか!?」
「えっ…………いいの? 参加しちゃって」
「大歓迎です! チャットの皆も参加して欲しいって言ってます!」
コメント:『ナイスゥ!』
コメント:『初対面の声優誘うのコミュ力高すぎだろww』
コメント:『ゼリ虐されすぎてメンタル鋼になっとる』
「それじゃあ、お邪魔しよう…………かな?」
「やったー! それじゃあ皆、ちょっとだけ打ち合わせしたいから、5分マイク切るね! んじゃ!」
コメント:『了解です』
コメント:『承知!』
コメント:『らじゃー!』
◆
「ほんっとうにごめんなさい!」
ひよりんが思い切り頭を下げる。
「いや、ひよりんさんは悪くないですって、俺が今日の蒼馬会は中止だって伝え忘れていたせいですから」
「まあまあ、誰が悪いかなんて今はどうでもいいじゃないっすか。とりあえず天童さん料理お疲れ様っす」
緊急事態にも関わらず何ともマイペースなみやびちゃんの様子に、何となく空気が弛緩する。
「どういたしまして。そういや俺もう必要ないよな?」
「そうっすね。これ以上何かあるとヤバいんで、とりあえず席外してて貰えると助かるっす。家借りといて申し訳ないっすけど」
「いやいや気にしないで。んじゃあ…………」
自室に籠もっててもいいんだが…………音を出しちゃダメとなると何とも落ち着かない。
外で暇を潰す場所の候補を考えていた所、ひとついい場所を思いついた。
「…………俺は外出てるわ。食べ終わったら食器は適当にキッチンに置いといてくれればいいから」
「了解っすー!」
「蒼馬くん、本当にありがとね」
「気にすんな静。オフコラボ楽しめよ。んじゃ」
俺は玄関で鍵をふたつ持って外に出た。
ひとつはうちの鍵。
もうひとつは────
◆
「お邪魔しまーす」
まさか真冬ちゃん家の合鍵を使う日が来るとはな。
リビングに入ると、ソファに寝そべっている真冬ちゃんがいた。ノートパソコンをお腹の上に置いている。
「────お兄ちゃん。大変みたいだね」
「ん────ああ、観てたのか」
ノートパソコンにはミーチューブが表示されていた。真冬ちゃんにはオフコラボの事を伝えていたから、気になったのかな。
「ほら、ここ座って?」
真冬ちゃんはソファから起き上って俺のスペースを空けてくれた。
「ありがとう。それじゃお邪魔するね」
ふかふかのソファが俺の尻をずっしりと受け止めてくれる。ソファに残った真冬ちゃんの体温を尻に感じてちょっと興奮した。
「おに〜いちゃん♪」
座るや否や真冬ちゃんが腕に抱きついてきた。多分わざとなんだろうけど、腕に思い切り胸が当たっている。
わざとでも何でも興奮するものは興奮するもので、多分男は一生この柔らかさには勝てないんだと思う。
「ちょ、真冬ちゃん近いって。オフコラボ見ようよ、ほら」
すっかり隅に押しやられていたノートパソコンを膝の上に乗せる。配信はもう再開しているようだった。
「ぶー、折角お兄ちゃんがうちに来てくれたのに…………」
言いながらも、真冬ちゃんは俺の腕を抱き枕のようにしながらノートパソコンに視線を向けていた。
…………お邪魔させて貰ってる側だし、身体くらいは快く貸し出そう。でも俺の手を太腿で挟むのはやめてくれないか?
マジで生々しいから。ぬくもりとかそういうのが。
『うっっっんまあぁあああああい! エッテご飯うっっま! やっばいこれお店出せるって!』
『ゼリアちゃん大袈裟だからw でもありがとねー』
『いや、私もお店出せると思うなー。私もうエッテご飯無しじゃ生きていけないもん』
『ひよりさんはいっつもエッテご飯食べてるんですか?』
『たまに食べさせて貰ってるんだー。私の元気の秘訣だよ』
『いいなー、私も食べにこよっかなー』
さっきは不意を突かれて素が出てしまっていたけど、ひよりんもすっかり放送モードになっていた。
コメント:『ひよりんトレンド1位なってて草』
コメント:『トレンド1位マジ?』
コメント:『美味しそおおおおおおおおおお』
「わ、ホントだ」
ツブヤッキーのトレンドを確認したら『ひよりん』がトップになっていた。そりゃあいきなり人気声優が乱入してきたらツブヤキたくもなるよな。ちょっと検索するだけで『エッテ様とゼリアのオフコラボにひよりん乱入してきて草』みたいなツブヤキが沢山あった。
「…………お兄ちゃん、ダメだからね」
「何が?」
真冬ちゃんが不満げに呟く。
「蒼馬会はもう満員なんだから。座る場所もないし」
「? …………ああ、そうだなあ。食べたいって言ってくれるのは嬉しいけど、わざわざ来て貰うのも悪いしな」
どうやらゼリアちゃんの「食べにこよっかな」という発言が気になっているみたいだったけど、俺もこれ以上人を増やす気はなかった。蒼馬会は流れるように人が増えてはいったけど、別に誰でもウェルカムって訳じゃない。
たまたま隣に住んでる人達が「この人になら料理を作ってあげたいな」と思える人達だったってだけなんだ。
「…………真冬ちゃんにだけ言うけどさ。俺、最初は蒼馬会結構疲れてたんだ。一人で食べるのに慣れちゃってたから。食べてる最中は楽しいんだけど、解散したあと疲れたーってなってたんだよね」
真冬ちゃんは相槌も打たない。でも、聞いてくれているのは雰囲気で分かった。
「でもね、最近は4人で過ごすあの空間が気に入ってるんだ。それは複数人で食べるのに慣れたってのもあるかもしれないけど、それだけじゃなくて…………やっぱり俺にとって蒼馬会の皆は特別なんだ。だから、もう人を増やすつもりはないよ。例え誰であってもね」
「…………特別」
真冬ちゃんはぼそっと呟いた。
「特別って…………私も?」
「勿論。真冬ちゃんも特別だよ」
「そっか…………なら、いい」
ぎゅう、と腕を抱く力が強くなる。
ちらっと隣を盗み見てみれば────真冬ちゃんはとても穏やかな表情を浮かべていた。
「…………」
パソコンから騒がしく音声が流れてくるけれど、あまり耳に入ってこなかった。
真冬ちゃんと過ごすこの穏やかな時間の方が今は心地よかった。
言葉を交わした訳じゃないけれど────多分真冬ちゃんも同じ気持ちなんじゃないかなあって。
何故だか俺にはそんな確信があるのだった。
◇
…………因みにこの時配信ではひよりんのミーチューブチャンネル開設について真剣に話し合っていたらしく、それもまた俺にとって無関係ではなくなるのだが────それはまたもう少し後の話。