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嘘っぱちだったすか!?

「はっきり言うわ。無理」

「そんなあ…………」


 いつものテーブルに座っている静は、母親に怒られている子供のように項垂れた。


 大事な話がある────そんなルインが静から送られてきて急いで帰ってみれば、聞かされたのはとんでもない話だった。


「部屋の掃除ならしてやってもいいが、今から静を料理上手にするのは天地がひっくり返っても不可能だ。お前、包丁握った事あるのか?」

「ええと…………小学校の調理実習が最後かな…………あれも取り上げられちゃったけど…………」

「その頃からかよ。年季入ってんな」


 小学校の調理実習なんて、生徒が未熟な事をある程度想定してやるもんじゃないのか。それでも包丁取り上げられるって一体何したんだよ。振り回したりしてないだろうな。


「オフコラボはゼリアちゃんに事情を話して協力して貰った方がいいんじゃないか?」


 聞けば静とゼリアちゃんは会った事は無いものの仲はいいらしい。打ち明けたら協力してくれそうな気もするが。


「うう…………やっぱりそれしかないのかなあ」


 静は心底嫌そうに呻いた。恥ずかしいんだろう。気持ちは分かるがこればっかりは仕方ない。


 料理は遊びじゃないんだ。刃物だって扱う。中途半端に教えて、それで静が怪我でもしたら俺は自分を許せる気がしなかった。


「静の為でもあるんだよ、分かってくれ。ゆっくり時間を取って覚えたいって言うんならいくらでも教えるからさ」

「…………それはいい…………」


 いいのかよ!


 女性が料理を作るべき、みたいな古い考えはイマドキナンセンスだけどさ、少しくらい作れるようになっといたらいつか自分を助けると思うんだけどなあ。


「────とにかく。俺が協力出来るのは部屋の片付けまで。それを踏まえた上でどうするか決めてくれ」

「ふえええん」


 世界の終わりだー、とでも言いたげにテーブルに突っ伏す静。


 …………まあ遅かれ早かれ、こうなってたと思うぞ。





『ええええええええええええええええ!? エッテ飯嘘っぱちだったすか!?』

『う、うん…………ごめんね、嘘ついてて…………』


 その日の晩、私は早速ゼリアちゃんと通話をすることにした。放送は関係なく完全にプライベートだ。


『いや~ちょっと…………頭ついてきてないっす。え、だってめっちゃノリノリだったじゃないすか? ツブヤッキー』

『うぐっ…………ちょ、ちょっと気持ちよくなっちゃってさ…………はは』


【今日のご飯は麻婆茄子♪ 隠し味の山椒が効いてて今日みたいな暑い日にぴったり! #エッテご飯】


【今日はじゃがいものガレット~。フランス料理を作るのは初めてだったけど美味しく出来て一安心★ #エッテご飯】


【たまには和食を、ということで今日は肉じゃがです! カレーと肉じゃが、あなたはどっち派?♡ #エッテご飯】


 …………死にたい。


 嘘だと知られてしまった今、自分の過去ツブヤキを今すぐゼリアちゃんの脳内から消去したい衝動が私を襲う。


 あーーーもう…………恥ずかしすぎる…………。


『は~、まさかあの感じでエッテ作ってなかったなんてびっくりっす…………あれ? じゃああれは誰が作ってたっすか?』

『えっと、隣に住んでる人が協力してくれてて…………』

『へー…………あ、それって荷解き手伝って貰ったって言ってた人っすか?』

『えっ!? そうだけど…………よく覚えてたねそんな事』


 確か引っ越した日にルインで言ったんだっけ。


『えー、でも確か男の人って言ってたっすよね。随分女子力高い人なんすねえ』

『本当にね…………私と性別逆なんじゃないかなって感じだよ…………』


 口ではそう言ったけど、そんな事は思ってなかった。


 私は蒼馬くんの男らしい所も沢山知っている。だからいくら家事スキルが高くたって、蒼馬くんは私の中ではかっこいい男の子だった。


『はえ~、じゃあエッテはその人の家で毎日夜ご飯食べてるってことなんすよね?』

『うん、そんな感じ…………』

『…………ぶっちゃけ付き合ってるっすか?』

『つきッ!? ちょちょっといきなり何言い出すの!?』


 ゼリアちゃんがいきなり変なことを言い出すもんだから、私は飲んでるカフェオレを吹き出しそうになった。


『いやだって…………普通に考えたら付き合ってるっすよそれ。気の無い相手に料理振舞うっすか、普通』

『えっ…………』


 そうなのかな…………蒼馬くんが私の事…………?


 そういえばこの前も私と一緒にいると楽しいって言ってた。私の事好きって言ってた気がする。


 えへへ…………嬉しいな…………。


『そ、そうかなあ? 何か他の人に悪いな…………へへ』

『他の人? どういうことっすか?』

『あ、えっとね。4人でご飯食べてるんだ。私と、あと女の人がふたり』

『ハァ!? なんすかそれ、ハーレムもののアニメか何かっすか!? エッテ、いつの間にかハーレムものに組み込まれてるっすよ!』

『は、ハーレム……?』


 蒼馬くんと付き合えるんだったら、別に私はハーレムでも構わないんだけど…………。


『ちょっとその男に興味湧いてきたっす。エッテご飯の件は全面的に協力してあげるっすから、私にその人紹介して欲しいっす!』


 エッテご飯の件は全面的に協力してあげる────その言葉に釣られて、私はゼリアちゃんをマンションに招待するのだった。

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