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完堕ち静ちゃん

「ほーい、出来たぞー」

「やたっ! はやくっ、はやくっ!」


 静がテーブルで騒がしくする。まるで子供だ。


 平皿をテーブルに置くと、静が大げさな声を出した。


「おおぉー! おいしそーっ! これ何て料理?」

「アクアパッツァ。オリーブオイル feat.魚の水煮、みたいな感じのイタリア料理」

「イタリア料理!? え、なに蒼馬くん料理人なの?」

「いや別に。つーか作るの初めてだからあんまり期待すんなよ」


 女性中心だし何かお洒落な料理作ってみるかなーと思って試しに作ってみたんだが、味に自信はない。


 見た目は結構いい感じに出来たんだけどな。


 にんにくの効いた白ワインスープの中心にオリーブオイルで焼いた真鯛の切り身、周りにはあさりとプチトマトを添えて、最後にイタリアンバジルを振りかけてみた。白、赤、緑がいい感じに混ざり合って、食欲はそそる。


「ねえねえ、これ写真撮っていい?」


 静はスマホ片手に聞いてくる。


「ツブヤッキーに載せるのか?」

「う、うん…………ダメ?」

「…………いいけど、いつでも昨日みたいに助けられる訳じゃないからな」


 静はエッテ様料理上手路線で行くみたいだった。


 俺の料理を「自分が作りました!」って載せるつもりらしい。

 それは全然構わないんだが、いつかボロが出るんじゃないかという心配はある。なにせこいつは料理どころか部屋の片付けすら満足に出来ないんだ。


「それは大丈夫。ボロが出ないようにするから」


 静はいい感じの角度を探して色んな所からアクアパッツァを写真に収めていく。


「…………よしっ。ごめんお待たせ。食べよ?」

「おう、食べるか」

「それじゃ…………いただきまーす!」


 手を合わせ、魚の切り身を口に放り込む。


「…………お、なかなかいけるな」

「いやいや! めちゃくちゃ美味しいよ!」

「そっか。それなら良かった」


 静は美味しそうにプチトマトをもぐもぐしている。

 野菜食べれるのか、えらいな。


 父親のような気持ちで静を見守っていると、ある事に気が付いた。


「悪い、ちょっとミーチューブ観ていいか」

「もぐもぐ…………どったの?」

「ひよりんの生放送があるんだよ」


 言いながら俺はテーブルにスマホを置く。

 ザニマス生放送は丁度始まったところだった。


『はぁい、今週もザニマス生放送の時間がやって参りましたっ! 司会は私八住ひよりとっ』

『遠藤玲奈とっ』

『富士見あきなの3人でお送りしまーす!』


「間に合ったか」


 後からでも観れるけど、出来ればリアタイしたいからな。


「もぐもぐ…………え、いまのがもぐもぐ…………ひよりさんなの!?」

「食うか喋るかどっちかにしろ。そうだよ、全然印象違うだろ」

「うん。誰かと思っちゃった」


 静が興味ありげなので、スマホの向きを静向きに変えてやる。静は食べる手を止め、まじまじと画面を見ている。


『今日はぁ…………早速あのコーナーやっちゃっていいですか!? …………じゃん! SSRのシナリオを振り返っちゃおうのコーナー! このコーナーはですね、直近に実装されましたSSRアイドルの声優をお呼びしましてですね、シナリオの感想を聞いてみよう! というコーナーとなっておりますー! 今週のゲストは………………そう、私八住ひよりでーす!』


 今週の生放送はこれが楽しみだったんだよな。


 ザニマスはガチャで出るカードに結構長いシナリオがついていて、そのシナリオの良さがザニマスの一番の長所といってもいい。回を追うごとにアイドルの仕事への意識やプロデューサーへの感情が成長していって、めちゃくちゃエモいんだよ。マジで今すぐ始めて欲しい、ザニマス。


 直近のガチャ更新で追加されたのはひよりんが声優を担当している『星野ことり』というキャラの新規SSRなので、今回のゲストはひよりんという事になる。


 因みに星野ことりは俺の推しでもあるので、俺はせこせこ溜めていた石で天井した(300連)。

 10連で出てくれよ、マジで。


「ひよりさんめっちゃ堂々としてる…………凄いなあ」


 静は真剣な目で画面の向こうのひよりんを見つめている。


「…………俺からすりゃ、静だって凄いと思うけどな。一万人の前で喋るなんて俺には無理だ」

「え?」


 静はスマホから顔を上げて俺を見る。


「昨日だって同接一万人いってただろ? 俺なら緊張で何も話せないもん」


 想像してみる。


 俺の言葉を全国、いや世界中の人たちが聞いている。


 俺の一言一句で喜んだり、癒されたり、笑ったりする。


 …………うーん、やっぱり無理だな。


「最初は私も緊張したけど、すぐに慣れるよ?」

「いや、誰でも出来る訳じゃないと思うぞ。それに、静のトークスキルがあってこそだと思うし」

「そうかなあ」


 静は自分の才能にあまりピンと来てないみたいだった。


「そうだって。だって俺…………静と話すの好きだし」

「えっ…………?」


 静は驚いた様子で俺を見つめている。


「俺達、まだ出会って一週間とかそこらだろ? それなのにこうやってふたりきりで飯食べてさ。それで気まずくないのは…………やっぱり静と一緒にいるのが楽しいからだと思う」

「…………ぼふ」


 静は謎の効果音を口にする。見れば耳まで真っ赤になっていた。


「そ、そそそ蒼馬くんきょきょ今日はどうしたの!? なんというかいつもより積極的と言うかついに私の事を好きになってくれたのかなというか手料理食べさせられた後にそんな事言われたらキュン死しちゃうというかっ!?」


 静は早口で何かを捲し立てたけど、あまりに早すぎて何言ってるか全然分からなかった。


「ごごごごめんちょっと私子宮の様子がおかしいので今日は帰りますっ! あとはよろしくっ!?」


 静は勢いよく席を立つと、ダッシュでリビングから出て行ってしまった。バタン、と玄関の扉が閉まる音が遅れて聞こえてくる。


「どうしたんだ…………?」


 なんか変なこと言っちゃったかな。確かにハードボイルドを自負している俺らしくは無かったか。


「それにしても…………」


 テーブルの中央に置いた平皿を見る。


 静が結構食べると読んでたから、結構余っちゃったな。


「うーん…………」


 一応ひよりんにルインしとこうかな。

 蒼馬会に送ると静が気にするかもしれないし、個別ルインでいいか。


『夜ご飯、余ってるんで良かったら来てください。アクアパッツァです』


 写真はエッテ様のツイートから拝借して、載せる。


 それにしても静のやつ…………


『今日の夜ご飯はアクアパッツァ! オリーブオイル feat.魚の水煮、みたいな感じのイタリア料理だよっ! ♯エッテご飯』


 俺の言ったことそのままじゃねえか。


 しかもなんだ♯エッテご飯って。シリーズ化する気か。


 エッテ様の呟きはまだ投稿して数十分だというのに3000リツブヤキされていた。リプも沢山来ている。


『凄い! 美味しそう!』

『めちゃくちゃお洒落…………』

『食べてみたい!』


 などなど。


「…………へへ」


 悪い気はしないな、うん。

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