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96話 カルアさん

「離してよ、何なの? マカシャ、離せって!」


ルイセリアさんが、叫んで暴れ出した。

何かを感じたのか、その顔は恐怖で歪んでいる。


「ルイセリア、諦めろ。お前が組織に加担していることは調べがついている」


「……違う。違う、違う! 私は知らない! 組織なんて知らない!」


「いい加減にしろ!」


ラットルアさんの怒鳴り声が、お店の中に響き渡った。

その声の迫力に体がびくりと震える。


「あっ、アイビー悪い。大丈夫か?」


「はい。大丈夫です」


ラットルアさんが、失敗したと言う顔をして私に謝ってくれたが、正直怖かった。

あんな彼の声を聞いたのは、初めてだ。


「説明を、してほしいのだけど?」


カルアさんが、私とラットルアさんを交互に見る。

私に説明を求められてもな……と思うので、ラットルアさんを見る。


「あ~、と言うか。カルアはどうして、ミーラ達と行動を共にしていたんだ?」


「ん? こっちの事情を調べたわけではないの?」


あっ、ラットルアさんが少し困った顔をしている。

それはそうだよね。

私が相談無く、彼女たちを巻き込んでしまったのだから。

ごめんなさい。


「組織の仲間ではない事は調べたが、それ以上は調べていない。だが組織の手先となっているミーラ達と一緒にいる事から、何か事情があるのだろうと思っただけだ」


「そう。というか、私はその組織が何か知らないのだけど。……もしかしてこの町の一番問題になってる組織とか言う?」


「知らなかったのか? ミーラはその組織の末端の人間だ」


ミーラさんは末端の人間?

……それもそうか。

組織に深くかかわっている人間だったら、使い捨てにされたりしないよね。


「……そうなの? それは知らなかった。私は、姉を探してるの。そいつの兄がどこかに連れて行った可能性があって……まさか、組織に渡された?」


カルアさんの顔色が一気に悪くなる。

そして、ギッと音がしそうなほどミーラさんを睨みつけたと思ったら、胸倉をつかみあげた。


「お前! 姉さんを何処に!」


「カルア、落ち着け!」


「落ち着いてなんて!」


「今は、組織を追い詰められるかの瀬戸際なんだ! だから少し落ち着いてくれ!」


ラットルアさんの言葉に、カルアさんの動きがぴたりと止まる。

ミーラさんもルイセリアさんも、驚きの表情を見せている。

おそらく組織が、そんな状況に追い詰められるとは思ってもいなかったのだろう。


「嘘。嘘よ!」


ルイセリアさんは、力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。

そして、首を振ってぶつぶつと何かを言っている。


「うるさい!」


カルアさんが、ルイセリアさんの首に何かを突き刺した。

……えっ!

すっと体を、カルアさんから離す。


「えっ? ちょっとアイビー違うわよ。殺してなんていないから! 眠り薬を打っただけだから。マカシャ、そうよね! ね!」


「アハハハ、そうだよアイビー、カルアは怖いから近づいたら、ぐぇっ、ごほっごほ……カルア、肘!」


マカシャさんが、お腹を押さえて膝をつく。

カルアさんを見ると、ものすごいこわい顔をしていた。

ルイセリアさん、本当に生きているのだろうか?


「アイビー、大丈夫だ。カルアは薬師でもある。おそらく眠らせただけだよ」


大丈夫と言いながら、おそらくを付けるのはどうなんだろうと思うが頷いておく。


「で、もしかしてこれからも動くの?」


カルアさんの言葉に、ラットルアさんと私が同時に頷く。

それを見たカルアさんが、ラットルアさんを睨みつける。


「ちょっとまさか、アイビーに手伝わせているの? この子まだ子供なんだよ!」


「違うんです! 私が無理やり参加したんです」


「でも!」


「カルア、俺達がしっかり守るから大丈夫だ」


「わかっているけど、6歳ぐらいの子に!」


6歳!

一番幼く見られている!


「9歳です!」


「えっ! そう言えば、ミーラがそんな事を言っていたっけ。ごめん見た目が……」


「カルア、悪いけど。ミーラにも頼む。ちょっと時間がかかりすぎた」


ラットルアさんの言葉に、ミーラさんが逃げようとしたがすぐに眠らされた。

手足を縛って、さてどうするかとなった時、ラットルアさんが待つように言ってお店から出て行った。


「本当に、無理やり付き合わされているわけではないの?」


「違います。組織に狙われているとわかってからずっと守ってくれているのです。私も自分の事なので出来るだけ協力したくて」


「そっか。でも、無理は駄目だからね! 絶対に」


「はい」


カルアさんはいい人だ。

よかった、ここにいるのがカルアさんで。


「悪い、待たせた」


ラットルアさんの言葉に視線を向けると、最近見たことがある人がいた。

確か、『フロフロ』のお店の人だ。

そう言えば、ラットルアさんが信頼している元冒険者のお店って言っていたな。


「簡単に説明は聞いた。この2人を逃がさないようにしたらいいんだな」


「あぁ、出来るだけ早く引き取りに行くようにするけど、予定が立てられなくて」


「大丈夫だ。組織の関係者なら絶対に逃がさない。それにしても、冒険者か」


冒険者の中に、裏切り者がいて悲しんでいるようだ。

彼女たちだけではない。

もっと多くの冒険者たちが、組織に関係している。

それを知ったら、どれだけの人が悲しむのか想像もできない。

本当に、どうして裏切ったりしたのだろう。


「カルア、マカシャ、協力してくれ」


「もちろん……あっ、私の協力者もいいかしら?」


「あ~、それは」


「何? 問題ないと思うけど」


「悪い。調べられない今の状態では何も言えない」


「どういう事? 信用できないって言うの?」


「移動しながら話そう。では、そいつらをお願いします」


「おう。任せとけ」


『フロフロ』のお店の人が、2人を肩に担いでお店から出て行く姿に驚く。

まさか2人を一気に運べるなんて。


「すごい」


「お~、まだ現役でもいけそうだよな」


マカシャさんが感激したような表情を見せたので、もしかしたら有名な人なのかも知れない。

ラットルアさんが拠点に向かいながら、組織について、そして組織に手を貸す者達について話をする。


「えっ、そんなに多いのか?」


マカシャさんが、神妙な表情でラットルアさんに聞いている。

カルアさんも、かなり厳しい表情だ。


「あぁ、だからカルア。今はお前の協力者という者達を信用できない」


「そうね。それはその通りだわ。でも、どうしたら調べられるの?」


「ボロルダがマジックアイテムを使用して調べてる。これからの事だが、拠点の周りに潜んでいる組織の者をあぶり出す事と、もう1つはミーラの兄達と共にいる犯罪者達の一掃だ」


「拠点の周り?」


「元商家の周りに、組織は何重にも見張りを付けているから、そいつらをボロルダが見つけるんだ」


「そう。で、私たちはどう協力したらいいの?」


「犯罪者達を捕まえるのに協力してくれ。あれは人が多い方が良い」


「犯罪者? そんなにやばいの?」


「指名手配犯の巣窟だよ。しかも人殺しが一番多い」


「うげっ」


「マカシャ、変な声を出さないで」


「自警団の裏切り者の確保は成功したみたいだな。既に討伐隊は戻って来ているようだ」


ラットルアさんの視線を追うと、困惑した表情の人達が綺麗に並ばされている。

その周りを問題なしと判断した自警団の人達が、武器を片手に歩き回っている。

拠点からは、手足を縛られた人達が庭に放り投げられ……運ばれている。

あっ、なんだかすごい豪華な服を着た人がいる。


「あれは、貴族だな。読みが当たったな。うれしくないが」


その貴族を見て、ギルマスさんが頭を抱えている。

どうやら貴族階級でも相当上のほうの人みたいだ。

フォロンダ領主で大丈夫かな?

手が出せない人だったら……。


「ねぇ、何あれ?」


「ん? あれは拠点にある証拠を奪いに来た、組織の者達を一網打尽にした結果だな」


「あそこに積み上がっている人の中に、貴族がいるような気がするけど」


カルアさんの質問に、ラットルアさんは苦笑い。


「さて、カルアとマカシャは俺と来てくれ。アイビーは、あっいた! ボロルダがあそこにいるから」


ラットルアさんの視線を追うと、人が並んでいる先にボロルダさんの姿がある。

どうやら準備を整えているようだ。

私が行くべき場所は、あそこだな。


「では、私はあそこに行きますね」


「えっ、どうして?」


カルアさんが不思議そうに聞いてくる。


「ボロルダの傍の方が安全だろ?」


「あぁ、そうか。……でも、この列に組織の者がいる可能性があるのでしょ? 一緒に行くわ」


「ありがとうございます」


カルアさんと一緒にボロルダさんのもとへ行く。

ボロルダさんは、カルアさんを見て驚いていたが何かを察してくれたようだ。


「悪いなカルア。感謝する」


「いえ……あの、この列に私の知り合いを並ばせてもいいですか?」


「あぁ、構わないぞ」


「ありがとうございます」


ポンと頭の上に手が乗る。

見れば、ものすごいいい笑顔のボロルダさん。

此処までの作戦が成功してうれしいようだ。


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