94話 組織を潰すためなら
「ここからが時間との勝負です。団長さん達には、森に入ったらすぐに問題ありと判断した人達を全て捕まえてほしいのです」
「えっ? それだったら洞窟の奴らが逃げ出さないか?」
「途中でミーラさんを捕まえて、洞窟まで情報が行かないようにしたいのですが、出来ますか?」
「ん~、何とかなるかな。で?」
「味方だけとなった討伐隊は拠点に戻り、周辺の人達をまずは誘導してください。理由はお任せします。そして誘導された人達をソラが調べます。その時はボロルダさんが一緒にいてくださると、うれしいです」
「俺と言うか、偽のマジックアイテムだな」
「はい。あの~、建物内にいる全ての人を眠らせる方法ってありますか?」
「あぁ、あるよ。洞窟に立てこもった奴らを捕まえるのに必要だからな。あっ、なるほど、敵味方関係なく眠らせちゃうのか、すごいな」
「えっと、人手が足りないですし、とりあえず逃げられないようにしたいので。そのあとで洞窟にいる犯罪者達を一掃する予定なんですけど……。えっと……こんな感じですかね?」
「すごいな。過激な計画だ」
「はい。そう思います。すみません」
「いや、謝る必要は無い。組織を潰せるなら、これぐらいどうって事は無い。それに……」
セイゼルクさんは苦笑いしている。
あれ? ちょっと違うな。
楽しそうに見える?
まさかね?
「楽しそうだね~」
ぅわっ、ビックリした!
いつの間にか、シファルさんが私の後ろに立っていた。
気配がしなかったな。
って、楽しそう?
「自警団の裏切り者と拠点の周りの組織の者を捕まえるのって、組織に内部情報が漏れていると思わせるのが狙いかな?」
「はい、シファルさんの言う通りです。ついでに冒険者の方もある程度捕まえられれば一番です」
「うん、いいねそれ。そこまでしたら、組織の動きはかなり鈍くなるだろう。情報が漏れている心配に、動かそうにも手足がもがれた状態だ。そして証拠の書類で止めを刺すと」
なんだろう。
シファルさんも、セイゼルクさんも笑っているはずなのに、寒気がする。
ラットルアさんはいつも通り……ではないな。
何故かものすごい笑顔……笑顔だよね?
えっと、まだ伝える事があったはずだけど、何だったかな。
「あっ、拠点には組織側の人を多く残してほしいです。あとは、フォロンダ領主にお手伝いをしていただきたい事があるのですが」
「フォロンダ領主に?」
ラットルアさんが首を傾げる。
よかった、いつもの彼だ。
さっきのは……忘れよう。
「はい。組織が、拠点に誰を送り込むのか予測が付きませんから。まさか、貴族がいるとは思いたくありませんが、いた場合は自警団では対応できないかと。なので味方になる貴族の人がいてくれたら安心だと思って」
「貴族か。それは無いと言いたいが、アレがあるからな……まさかが有りえそうだよな」
セイゼルクさんが、少し遠い目をする。
普通は貴族が、そんな低俗な事をするとは思えない。
でも、何かあった場合の対策として、組織は貴族を動かすだろう。
「そうとう無理がある作戦です。なので……」
「でも、組織を追い詰める事が出来るし、あいつらを助ける事も出来る。しかも面白そうだ」
「おいおい、シファル。面白いは無いだろう~」
と言うセイゼルクさんも、楽しそうですが。
マールリークさんもリックベルトさんも苦笑いだ。
何だろう。
かなり無理な作戦で反対される覚悟だったのだけど、すごくやる気になっている。
それほど組織が憎いって事かな。
ボロルダさんがずっと何かを考えている事が気になるけど。
「ふっ、アイビーは最高だな」
ボロルダさんも怖いです。
おかしいな、優しい人達は何処に行ったのだろう?
「これまでの恨みが返せるかと思うと、ものすごくやる気が出るな。本当に今までやられっぱなしで、どれだけの人が悲しんだか。しかも、仲間まで引きずりこみやがって」
ボロルダさんの言葉に他の人達も頷く。
組織の存在を認めてから、色々対策を考えて実行してきたと聞いた。
それなのに、町から人が突如消える事があったのだと。
証拠が無いため、すべてが組織関連とは言えないが被害者もいただろうと苦渋の表情だった。
それを考えると、私の作戦は無謀だけど上手くいけば組織を追い詰められる。
「やるぞ」
ボロルダさんが、力強く言い切る。
「指名手配を調べた事は既に組織に知られているだろう。だが事が事だからな、もう一度確認してもおかしな事ではない。リックベルトとロークリークはギルドで指名手配犯を調べてくれ。信じられない、団長達に相談しようって感じで演技して来いよ。そうだ、ミーラとの約束は何時だ?」
ボロルダさんの言葉に、指名された2人がものすごく嫌そうな顔をしている。
そう言えば、彼らは声を普通に出しているけど大丈夫なのかな?
周りを見るが、彼らの音量なら聞かれる可能性がある。
マジックアイテムを使用していないので不安だな。
「あと1時間後かな。それより、もしかしてアイビーに話していないのか?」
何を?
そう言うとラットルアさんが、セイゼルクさんの持っているカバンから何かを取り出した。
それは、話を聞かれる事を防ぐマジックアイテム。
「発動しているのですか?」
「そう。ごめん、ずっと小声だったからおかしいなって思っていたんだよ」
「……もう少し、早く教えてほしかったです」
「悪い。誰かが話していると思っていた」
セイゼルクさんが、顔の前で手を1回ぐっと握るしぐさをする。
それは冒険者たちが、声を出せない時に謝る合図となっているものだ。
いや、色々な事があって忙しいのだから忘れていても仕方ない。
「大丈夫です。では、普通に話しても大丈夫なのですか?」
「大声でない限り大丈夫だよ」
ラットルアさんに、髪の毛をぐしゃぐしゃっとかき回される。
私のミスが面白いみたいだ。
何だか悔しい。
でも、なんだか変に入っていた力が抜けたな。
「よし、話をつづけるぞ。マールリークとヌーガとシファルはこのまま拠点に行ってくれ。団長達に問題発生の可能性あり、討伐隊が必要だと自警団から相当数の人数を集めるように言ってくれ。ただし、詳しく話す必要は無いだろう。彼らもプロだから、ある程度の情報で察する事が出来るはずだ。あ~途中で退場者が出る事だけは、それとなく伝えてくれ」
ある程度で団長さん達には伝わるのか。
さすが、色々と経験しているだけはあるな。
「俺達は?」
「残りは、ギルドの外で待機。確認が終わったリックベルトたちと合流しよう。ラットルアとアイビーはミーラから話を聞く必要があるとして、約束の場所へ行ってくれ。俺達は拠点へ行って、討伐隊をすぐに作って、森へ行く」
なるほど、さすがボロルダさんだな。
後は、彼らに任せても大丈夫かな。
「って、感じでどうだ。アイビー?」
ん?
私に聞く理由が分からないが、問題は無い。
「大丈夫だと思います」
「アイビー、ミーラにはどう聞けばいいのかな?」
「そうですね」
どうして、私に聞くのだろう?
セイゼルクさんやボロルダさんがすぐ隣にいるのに。
「とりあえず、マルマさん達の森での様子を聞いてみましょう。あとは最近、マルマさん達が借金を作ったかどうかですかね?」
人が身を崩す場合は、お金が関係している事が多いと聞いた。
他には、秘密を握られたとかかな?
「あ~、お金関係は確かに一番に聞くべき事かな」
「森とマルマさん達の話をすれば、ミーラさんは気が付くと思います」
私たちがするべき事は、ミーラさんに森の中での問題を知っていると気付かせる事。
なので、分かりやすい質問の方が良いだろう。
「俺も人の事は言えないが。ラットルア、それぐらいは自分で考えろよ」
「よく言う。ボロルダだって心配でアイビーに確認取ったくせに」
「……重要度が違う」
「ぅわ、開き直りやがった」
「2人とも、どっちもどっちだからね」
シファルさんの突っ込みに、その場に笑い声が広がる。
彼は、仲間を苛め……注意する時って本当に楽しそうだよな。
でも、そのお蔭で緊張感が少し緩んで、いい感じになった。
これが狙いなんだろうな、すごいな。