93話 計画をつぶす!
「あぁ、そうだな。そうだ。確かにその通りだ」
ボロルダさんの、少し戸惑った様子に首を傾げる。
やはり、ちょっと間違ったのだろうか?
「組織のこれまでの動きを考えると、起こり得る未来だな」
シファルさんの言葉に、ラットルアさん達全員が頷く。
何だ、やっぱり合っていたのか。
でも、だったらどうしてあんな反応だったのだろう?
あっ、私の年齢だ!
しまった。
「アイビーは本当に色々と思いつくな」
「いえ。ちょっと……」
やばい、どうしよう。
考えてから話をしようと思っていたのに、9歳という部分を除外していた。
これからは、もう少し慎重になろう。
……でも私、組織に狙われているんだよね。
こんな状態で、慎重になる必要ってあるのかな?
それに、既にいろいろ言ってしまった後なので、今更取り繕うのも手遅れな気が……。
と言うか、確実に手遅れだろう。
うん、今回はいいかこのままで。
でもこの問題が解決したら、ちゃんと考えよう。
いつか自分の首を絞める事になりそうだ。
「フォロンダ領主が狙われる可能性が高いと考えて良いな。どうする? 団長達に相談するか?」
セイゼルクさんの言葉に、ボロルダさんが首を横に振る。
「今の団長達の周りには敵が多すぎる。はぁ、味方を増やしたいが」
「味方か~、増やしたいが。情報の管理がな~」
マールリークさんの言葉は、全員が思っている事だ。
味方が多い方が色々と動きが取りやすい。
その反面、情報が漏れやすい。
ボロルダさんから「あいつらが敵でなかったらな~」と小さな声が聞こえた。
きっと問題ありと判断した冒険者たちの事だろう。
「あ゛~。とりあえず味方は諦めよう」
ファルトリア伯爵は、いつ動き出すだろう?
これまでの組織の動きは、想像以上に早かった。
とすれば、既に何らかの準備を終わらせている可能性も考えられる。
「ファルトリア伯爵が、既に準備を整えていると考えた方が良いかもしれません。なので、こちらもいつ組織が動いてもいいように、準備を整えておく必要があるでしょう」
「確かにな、組織の動きは早いな」
ボロルダさんの眉間に、くっきりと皺が寄る。
何処かで組織の計画を狂わせたいが……あ~、何も思いつかない。
「悲観していても仕方ないな。よし、まず団長達と合流しよう。組織が動いたら、どう動くか決めておかないと駄目だしな。とりあえず拠点に向かうぞ。ラットルアはアイビーから離れるなよ」
セイゼルクさんの言葉に、全員が動き出す。
私はテントにソラを迎えに行く。
ソラはまるで話を聞いていたかのように、シファルさんにもらったバッグの近くで揺れていた。
「ソラ、頑張ろうね。応援してね」
縦に1回ぐ~っと伸びるソラを撫でるとバッグに入れる。
少しバッグがもぞもぞと動くが、すぐに動かなくなった。
テントを出て、ラットルアさんの隣に並んで歩き出す。
「そう言えばラットルアさん、今日もミーラさん達と会う約束をしていなかったですか?」
「あっ! 忘れてた。断らないとな」
断ったら、ミーラさん達はどう思うかな?
ミーラさんの目的は、おそらく私を攫う事だ。
あの大量の犯罪者達を、町に近づけるとは思えないから攫う時は使わないだろう。
組織から、囮とは言われていないだろうから、別の理由であそこにいるはず、考えられるのは……。
攫ってきた者達の監視や移動の時の護衛かな?
組織対策の拠点に出入りする様子は、きっと既に知られている。
そこで約束を破れば、何か動きがあると思うはず。
私だったら、とりあえず様子を見るために動かないかな。
ん?
駄目だよね、これ。
「どうしたの?」
「いえ、私たちが拠点に出入りするとなると、ミーラさん達はどうするのかと思いまして」
「あぁ、警戒するだろうな」
「それは駄目ですよね。動いてもらわないと作戦が実行できません」
「そうなのか?」
「はい。組織が狙っているのはミーラさん達を捕まえるために、特別部隊を作らせる事だと思うんです。その為に、あれ程の人数の犯罪者、しかも人殺しを集めたのですから」
「ん? えっと、どうして?」
「拠点の見張りを少なくするためです。おそらくですが、2、3日中にミーラさん達が人殺し集団を匿っていると言う情報が何処かから入るのだと思います。もしかしたらその日はあちこちで問題が多発するかもしれません」
「えっと……」
伝わらなかったな、どう言えばいいかな?
「えっと、泥棒より人殺しの方が捕まえる時、人が必要ですよね」
「あぁ、そうだな。危険度が高いから」
「ミーラさん達のもとに集まっている人が人殺しの集団だと情報が入ったら、相当な数の人員が駆り出されることになりませんか? そして、なぜかその日に限って問題が多い。この状況で拠点にどれだけの人が置けるでしょうか」
「最低限だろうな。なるほど、だからあれだけの犯罪者が集まっていると考えたのか」
「はい。組織の目的は元商家から違和感なく人を離れさせることなので、ついでに町の中からも。そうすれば組織の者が動きやすくなります」
「なるほど。それに、リックベルトが掴んだ情報が自警団に入れば、かなり自警団が動くだろう」
「ミーラさん達も犯罪者達も捨て駒だと思います。捕まえられても組織には繋がらないか、もしくは……討伐隊に紛れ込んだ組織の者に全員を殺させるか。おそらく後者かと」
「……使い捨てか」
ラットルアさんの表情が一気に曇る。
私の前で話を聞いていた、マールリークさん達の表情も悔しそうだ。
裏切り者だとしても、救いたいのだろう。
でも、組織の動きに乗って仕掛けたのでは、おそらく殺される可能性が高い。
あれっ違う、間違えた!
犯罪者達が動く必要は無い、組織は情報を流すだけでいいんだ!
根本的に間違えた。
どうしよう……待った。
どうして組織が動くのを待っているのだろう?
こちらから仕掛けて、組織の計画をつぶせば……。
そうだ、拠点を見張っている者もまさか拠点が出来た次の日に動くなんて思わないだろう。
だったら、今日が一番こちらが有利に動ける日かもしれない。
「ミーラさん達を利用して、すぐに仕掛けましょう!」
「「「えっ?」」」
そうだ、仕掛けるなら早い方が良い。
何か動きがあると、組織はすぐに対抗措置を考える。
拠点が出来るとわかれば、何か策を講じるはず。
なら、それが出来る前に動けば良い。
そうしたら、ミーラさん達だって救えるはず。
「ミーラさんにマルマさん達の事をそれとなく聞きましょう。そして、既に討伐隊が組まれていると情報を漏らすんです。いえ、既に討伐隊が動いているの方が……」
「ちょ、ちょっと待って。セイゼルクとボロルダを呼んで来るから」
セイゼルクさんとボロルダさん?
どうして?
あっ、そう言えば、いつも彼らが方向性を決めていたな。
そうか、彼ら2人はそれぞれチームのリーダーだ。
何かを決めるには、2人のどちらかと決めないと駄目なのかな?
う~、私も焦ってるな。
落ち着け、しっかりしろ!
「アイビー、話は聞いた。えっと、ミーラを使って仕掛けるのか? それも今日?」
セイゼルクさんとボロルダさんが、慌てた様子で私の左右に並ぶ。
歩きながらなので、周りを気にしながら小声で応える。
「はい、そうです。ミーラさんには、おそらく見張りが付いていると思います。ミーラさんを利用すると言うか、見張りを利用します。それと動くのは今日と言うか、今すぐです! わざわざ組織が動くのを待つ必要が無いと気が付いたんです。それに拠点が出来た次の日に動くとは組織でも思わないでしょう。先に動き出せば、ミーラさん達を助けられるかもしれません」
セイゼルクさんが、少し目を見開く。
そして、ボロルダさんには頭を撫でられた。
「よし、だったら団長達と話し合って」
「いえ、団長さんの周りには組織の者がいっぱいいます。なので無理やり巻き込みましょう」
「えっと……どういう事だ?」
ボロルダさんが、かなり戸惑っている。
「マルマさん達が犯罪者を匿っていると騒いで、すぐに討伐隊を組んでください。その間に私とラットルアさんがミーラさんと接触して情報を漏らします。おそらくですがミーラさんは、すぐに動くと思います。仲のいい兄弟だと、ラットルアさんから聞いているので。もし動かなければ、私の考えが間違っていた可能性があります」
「なるほど、ミーラが慌てて動き出せば、見張りは俺達の動きに気が付く。そうすれば否応なしに、拠点への襲撃をすぐに実行に移す必要が出てくる」
「はい。拠点周辺でも同じ情報が流れるので、違和感が無いと思います。実際に討伐隊が出て行くわけですし」
ん~、ここからが問題だな。
多くの人を死なせないためには、時間との勝負だ。
出来るかな?
いや、皆が悲しい顔をするのは嫌だ。
皆の力を借りてやってみせる。