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91話 やばい人が多すぎる!

忘れていたわけではないのだが。


「リックベルトさんは、いないのですか?」


「ちょっと用事があるんだ。先に食べちゃお」


ラットルアさんの言葉に頷いて、目の前のお肉を口の中に入れる。

長時間煮込まれた柔らかいお肉が美味しい。


「美味しい」


「確かに、人気店だけあるな」


ラットルアさんの言葉に無言で頷く。

全員がお肉の煮込みを堪能し、食後のお茶の時間。

ボロルダさんが、盗み聞き防止のマジックアイテムを起動させると、シファルさんが口を開いた。

シファルさんとヌーガさんだが、やはり朝から商人の行動を調べていたようだ。


「商人だが、人目を避けた場所で1人の男と会っていたんだ。その男が誰か分からなくて、仕方なく二手に分かれて調べる事にした」


「その男が誰か分かったのか?」


「もちろん。商人と会っていたのはオルワと言う人物で、貴族達の御用聞きだ。調べるのに少し手間取ったが」


「そうか。で、御用聞きだが、どの貴族に出入りしているか調べたか?」


ボロルダさんの言葉に、シファルさんが首を横に振る。

調べたのが漏れると、貴族の場合は目を付けられる可能性があるから、下手な調査は出来ないのだとラットルアさんがこっそり教えてくれた。

貴族は色々とめんどくさいな。


「そうか、分かった」


「商人の方だが、シファルと別れた後は、この町の商人と会っていたこと以外に問題はなし。ただ、会った商人がタフダグラと言う点が問題だな」


「あいつか。あまりいい噂を聞かない奴だな」


「証拠はないが、アヘンの売買に手を染めていると言われているからな」


アヘン?

何処かで耳にしたような言葉だけど、何だろう。


「ラットルアさん、アヘンって何ですか?」


「知らない? 気持ちを高揚させる麻薬なんだ。国として禁止しているモノだよ」


あぁ、麻薬。

馴染みが無いから忘れていたな。

組織も麻薬に手を出しているのかな?

それにしても商人は、組織が用意した罠の可能性が高い。

そんな人物に、組織に関わっている人物が会いに行くだろうか?

もしかして、商売敵だったりして。


「あとは俺達だな。こっちはもっとやばいかもしれない。トルトとマルマだが、森の奥の洞窟に大勢の人間を匿っている事が分かった」


ロークリークさんの言葉に、全員が少し険しい顔をする。

マールリークさんは、少し疲れた表情を見せて話を続ける。


「集まっている奴らはどう見ても一般人とは思えなかった。まぁ一般人が洞窟に隠れ住む必要は無いからな。犯罪者を匿って上手く利用しているって感じだろう」


「そいつらを今回、けしかけてくるつもりかも知れないな」


セイゼルクさんの言葉に、マールリークさんとロークリークさんは頷いた。


「人数は確認できたのか?」


「全員なのかは不明だが、今日確認できた人数は21人だ」


「多いな!」


ボロルダさんが驚くのも分かる。

洞窟に隠れ住んでいると言うから、もう少し人数は少ないと思っていた。

ばれる事を組織が予測していたとしたら、人数を増やした可能性があるかもしれないな。

拠点の見張り役は、人数が多くなればなるほど少なくせざるを得ない。

でも、どんな犯罪者だろう。

人手が一番必要な犯罪だと……人殺しとか?

まさかね。


「ボロルダ達は何を始めたんだ? で、俺達はどう動く事になっている?」


シファルさんが聞いた事で、代表してボロルダさんが朝からあった事を話し出す。

元商家を拠点として、組織に対して罠の下準備が既に終わった事。

罠に必要な人を選ぶために、ソラが自警団員とギルマスさんが選んだ冒険者を判断した事。

そこで判明した問題ありの人数や、ボロルダさん達が目を掛けていた冒険者が駄目だった事などだ。


「あいつらが、駄目? 本当か?」


「あぁ、アイビー、間違いないよな」


ボロルダさんの言葉に頷く私を見て、シファルさんもヌーガさんも大きなため息をついた。


「そうか、まぁ自警団もそれだけの人間があっち側なんだ。あり得るか。馬鹿な奴らだな」


シファルさんの静かに響く声が、寂しそうで悲しい。

あれ?

で、リックベルトさんはどうしたんだろう。


「あの、リックベルトさんは……」


「あぁ、忘れてた。悪い。リックベルトだが、あいつって特技があるんだ」


マールリークさんの、忘れていた発言にちょっと場が明るくなる。


「特技ですか?」


「そう、人の顔を覚えるのが得意なんだ。1回見ただけで記憶できるんだ」


「すごいですね。私、人を覚えるのが少し苦手なので羨ましいです」


「へ~、アイビーにも苦手な事ってあるんだ」


ラットルアさんの言葉に驚く。

苦手な事だらけなんだけどな。


「いっぱいありますよ」


「そう? 気が付かなかった」


「確かにアイビーってなんでもこなす印象があるな。で、リックベルトだけど、洞窟に潜んでいる奴らを確認してもらって、今はギルドで指名手配されている人物がいるか調べてもらっているんだ」


「おっ、噂をすればだな」


セイゼルクさんが、広場の入り口に向かって手をあげる。

見るとリックベルトさんが、かなり疲れた顔をしてこちらに向かって来るのが見えた。


「疲れた~。さすがに人数が多かった」


「ご苦労。で、どうだった?」


「ちょっと休憩させてくれてもいいと思うんだが。まぁいいけど。指名手配者が11人。調査対象が5人だ」


「指名手配が11人? 間違いなく?」


シファルさんが、人数に驚いているが全員が似たような反応だ。

私もまさか指名手配されている人物がそれほどいるとは。


「俺も驚いた。だから何度か確認したんだが、間違いないと思う。で、もっと最悪なのが11人中10人が人殺しって事だ。調査対象とされている人物も殺し関係だった」


「ぅわ~。そんな奴らが森に潜んでいると思うと気持ち悪いな。と言うかこれまでよく会わなかったよな」


セイゼルクさんが自分の肩をさすっている。

確かに気持ちが悪い。

それにいつ遭遇してもおかしくない状態だったのだから、恐ろしくもある。

いや、組織が罠のために集めたのなら、最近集まった可能性もある。

でも、すぐにこれだけの犯罪者が集められるという事は普段からどこかに匿っている可能性があるのかも。


「で、何を話していたんだ?」


リックベルトさんに、ボロルダさんがもう一度説明をする。


「なるほど罠か。と言うかアイビーを巻き込むのはどうなんだ?」


「そうなんだが、作戦のほとんどがアイビーの案だからな」


「確かにそうだが……アイビー怖くなったらすぐに逃げて……って何処にって感じだな今のこの町って」


リックベルトさんの言葉に、全員が苦笑いだ。

確かに敵が多すぎて逃げ場が見当たらない。


「俺はそろそろ行くわ」


「ん? あぁ、そう言えばフォロンダ領主と会う約束をしていたか」


「あぁ、あの後伝達が来て、夜に屋敷に行く事になった」


「1人で大丈夫か?」


ヌーガさんが心配そうに聞いている。

それに対して、ボロルダさんが軽く肩をすくめた。

それは大丈夫と言う事なのか、それとも……。


「ソラの判断を信じるよ。オルワの御用聞き先も聞いてくる」


ボロルダさんは、笑ってそう言うと広場を後にした。

ヌーガさんとシファルさんは、心配そうに後ろ姿を見送っている。

リックベルトさんはいつも通りだ。


「大丈夫だろ。ソラが大丈夫って判断したんだから」


「そうだが……あっ、悪いなアイビー。別にソラを疑っているわけではないからな」


ヌーガさんが私の顔を見て慌てている。

もちろんそんな心配はしていない。

いや、疑われても仕方がないと思っている。

ソラの判断には、まだ何の確証もないのだから。


「大丈夫です」


「それにしても、裏切り者に指名手配犯。どうなっているんだこの町は」


セイゼルクさんの言葉に、誰も何も答えられないようだ。

それはきっと思っていたより悪いからなのだろう。

ボロルダさんは大丈夫かな?

本当にフォロンダ領主は、こちら側の人なのだろうか?


「大丈夫だよ」


私の心境を察したのか、ラットルアさんが優しく頭を撫でてくれる。

視線を向けると、笑顔でもう一度大丈夫だと言ってくれた。

そうだ。

ソラを信じている私が、不安に思うなんて駄目だよね。


「ありがとうございます」


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