85話 ソラの判断
ソラを連れて、冒険者ギルドに行く事になった。
目的は2つ。1つはソラがギルマスさんを判断する事。
もう1つは、ギルマスさんが味方と確定したら、裏切り者を見分ける事が出来ると、報告する事だ。
ソラについては、ボロルダさんもセイゼルクさんも秘密にすると約束してくれた。
ただ、納得させる方法があるのかと不安に思っていると、ボロルダさんが何やら準備をしていた。
何をするのかと聞いてみたが、後のお楽しみだと言われてしまった。
初めて入る冒険者ギルドにちょっと興奮してしまう。
絶対に足を踏み入れる事はないと思っていた場所だ。
周りを見回すと、人が少ない。
もっと人が溢れかえっている印象だったのだけど。
「今の時間は人は少ないよ。もうしばらくしたら、依頼を終わらせた冒険者でいっぱいになる時間だ」
私がちょっとがっかりしていると、ラットルアさんが説明してくれた。
なるほど、今はちょうどみなさん仕事中か。
残念。
ラットルアさんの後を追いながら、通りすがりに貼り出されている依頼票を見る。
薬草の採取や町の掃除、洞窟内の鉱石の採掘や魔物の討伐依頼まで色々あるようだ。
「アイビー」
名前を呼ばれて気が付いた、いつの間にか立ち止まって依頼票を見ていた。
急いで、ラットルアさんのいる部屋に入る。
中には4人の男性の姿があった。
ギルマスさんだけではないのか、誰だろう?
皆、体格が良いな。
ただ、1人だけすごい神経質そうな人がいる。
私を見て、眉間に皺を寄せた。
「どうしてこんな幼い子供が、あなたたちと一緒にいるのですか?」
その神経質そうな人が、少し大きな声で問いかけてくる。
「話しただろ? この子がアイビーだ」
「連れて来たのか!」
一番顔の怖い人が叫ぶ。
その声に体がビクつく。
「ギルマス、うるさい」
ボロルダさんが、耳を塞ぐしぐさをすると、ギルマスさんが私に向かって謝ってくれた。
「向こうの動きがおかしいだろ? だから一緒に動く事にした」
セイゼルクさんの言葉に全員が納得したようだ。
「アイビー紹介するよ。うるさいのがギルマスだ」
「しつこいぞ。ギルドマスターのログリフだ。ギルマスでいいぞ」
「よろしくお願いします」
「俺は自警団の団長をしているバークスビーだ」
「副団長のアグロップ。よろしく」
「ギルドの財務を管理しているフォロマロです。先ほどは失礼を」
「よろしくお願いします」
ギルマスさんは背が高くてとにかく顔が怖い、だが声は優しい。
団長さんは、驚くほど穏やかな表情をしている。
副団長さんは、顔に大きな傷があり鋭い目をもっている。
フォロマロさんは、やっぱり神経質そうな顔つきだ。
ボロルダさんに向かって大きく2つ頷く。
これは、此処にいる人達は大丈夫と言う合図。
此処に来る前に、ソラにあるお願いをした。
自己紹介の時に、問題のある人か、ない人かを判断してもらう様に。
なので、自己紹介されるたびに、バッグの中でプルプルと2回ずつ震えて教えてくれていたのだ。
結果、ソラの判断は全員大丈夫。
なので、私はボロルダさんに2回頷いたのだ。
ちなみに、問題ありの人がいる場合は1回だ。
ボロルダさんが手に持っていた物に視線を向ける。
それはテントからわざわざ持ち出してきた少し大きいガラス玉。
じっと見ている姿に、何をしているのかと不思議に思う。
「ここにいる者は、全員大丈夫みたいだ」
「何がだ?」
ギルマスさんが、不思議そうな表情をしている。
彼だけでなく、この部屋にいた他の3人も似たような顔つきだ。
私は、その言葉に少しドキリとする。
ソラの事は話さないと言っていたが、どうやって納得させるのか。
「あぁ、このマジックアイテムが反応しなかったから、ここにいる全員が味方と判断したんだ」
……ん?
あっ、なるほど。
ソラを隠すために、別の物を用意したのか。
「ほぉ~、それはマジックアイテムか?」
「そんなマジックアイテムがあるなんて聞いたことが無いが」
「マジックアイテムは世界各地で未知なモノが発見されているからな、それもその内の1つだろう」
ギルマスが前のめりになってボロルダさんの手元を覗き込もうとしている。
団長さんと副団長さんは興味がありそうだが、ギルマスさんほどではないようだ。
ボロルダさんはさっとガラス玉をバッグに隠してしまう。
「最近手に入れたんだ。ただ、使い始めると2、3日で石に変化しちまう」
「そうなのか?」
「あぁ。もう1つあったのだが、無駄に使って石になっちまった」
嘘をつくのが、上手だなと思う。
でも、そんな嘘をつかせてしまったのは私のせいなので、少し後ろめたい。
ソラの事は説明できないけど……。
ちょっと落ち込んでいると、背中にぬくもりを感じた。
横を見るとセイゼルクさんが、少し笑って肩をすくめた。
それに微かに笑い返す。
そうだ、ソラには頑張ってもらってボロルダさんに恩を返そう。
……私はソラを運ぶだけだな……ご飯をもっと美味しく作れるように頑張ろう。
「2、3日か……ボロルダ、やってほしい事が」
真剣な表情で団長さんがボロルダさんを見つめる。
団長の願いは、ここにいる全員が分かっているだろう。
「わかっている、自警団の裏切り者を見つける事だろ? 冒険者の方はどうする?」
「参加してほしい奴をここに呼んでおく、あとでまた来てもらえるか?」
ギルマスさんの言葉にうなずいてボロルダさんは、団長さんと副団長、それと私たちを連れて部屋を出る。
「……大丈夫なのか? アイビーはまだ子供だろう?」
副団長さんがボロルダさんとセイゼルクさんに小声で訊いている声が聞こえる。
それに2人は問題ないと答えているが、どうやら副団長さんは心配のようだ。
何度も私を確かめるために後ろを振り返っている。
どうしてあんなに心配をされるのだろう?
「副団長には、アイビーと同じ年頃の子供が3人もいるからな。他人事とは思えないんだろう」
ラットルアさんが、理由を教えてくれる。
それが聞こえたのか、ちょっと副団長の耳が赤くなっている。
鋭い目をもっていて、見た目ちょっと冷たい人のように見えたが違うようだ。
6人でしばらく歩くと、大きな商家が見えてくる。
その周辺に自警団の服を着た、数人の見張り役がいた。
団長さんや副団長さんに気が付いたのか、ちょっと驚いた表情をしている。
「ご苦労様、ちょっと中を確認する事になってな。あぁ、紹介しておくこの子はアイビーだ。事情がありボロルダ達が護衛している。アイビー、一応紹介するよ」
団長さんが右から順に名前を紹介してくれる。
それはガラス玉に、1人ずつ確認をさせるためという事になっている。
ボロルダさんでは既に知り合いがいるため、1人ずつ名前を確認する事はない。
その為の偽装工作という事になっている。
本当はソラに1人ずつ確認させるためだが。
「最後にマルガジュラ」
それまでプルプルしていたソラが止まったのを感じた。
つまり最後に紹介された人は、裏切り者。
握っていたラットルアさんの服を1回引っ張る。
「マルガジュラ、久しぶりだな。ここ最近顔を見ないと思っていたらここだったのか」
「あぁ、ちょっと怪我をしてな。見張りだったら出来そうだから団長に異動をお願いしたんだ」
どうやらラットルアさんの知り合いだったようだ。
よかった、自然にボロルダさんとセイゼルクさんに伝えられた。
ラットルアさんの対応を見て、ボロルダさんが団長さんに何かを伝えている。
次の瞬間、団長が一瞬鋭い目を見せた。
驚いた。
それまでの穏やかな団長さんの表情が、ギルマスさん並みに恐くなったのだ。
やっぱり、この町を守る自警団の団長さんだけはある。
ドキドキとうるさい心臓を、ゆっくり深呼吸する事で落ち着かせる。
心臓が落ち着いた頃、建物内を案内してくれることになった。
「あの、この子供もですか?」
「組織に狙われているから、離れるわけにはいかなくてな」
自警団の人達は、セイゼルクさんの答えにかなり驚いたようだ。
「楽しみだね、アイビー。何か見つかるかな?」
ラットルアさんは、ワクワクした表情で周りを見回している。
ほんとうに何か発見出来たらいいな、特に隠し扉とか!