83話 考えすぎ?
お茶の葉は、また今度みんなで捜しに行くことになった。
ミーラさんは問題ないと答えていたが、顔が少し引きつっていた。
次のお店に行く予定だったけど、ルイセリアさんには用事があるらしい。
先ほどまで森に行こうと話していたのに。
これは、予定通りにいかなかったからだろうか?
お店の前でミーラさん達と別れて広場へ戻る。
やはり色々とおかしい。
しかも、お店の中にいた5人まで怪しくなってしまった。
広場に戻りながら、野菜を売っている店舗を見て回る。
野菜なら山積みにあるので、特に必要は無いのだが。
お互いに、すぐに広場に戻る気がしなかった結果だろう。
「カルアはどっちなのだろうな?」
先ほどの行動を見る限り、私を助けてくれているように見える。
だが、それはなぜかと考えると答えが出ない。
ミーラさん達の事を、彼女も何か疑っているのだろうか?
「カルアは2年前にこの町に移動してきた冒険者だ。その前までは2つ隣の町で冒険者をしていたらしい」
ラットルアさんからカルアさんの情報を貰う。
ただ、冒険者についてよく知らない。
「冒険者の方は、よく移動をするのですか?」
「報酬を増やしたいと考えた時や、まぁ、ちょっとしたいざこざから逃げる時も」
「いざこざ?」
「あ~、えっと、男女の問題とか、兄弟間のいろいろとか……分かる?」
「なんとなくですが、分かります」
移動してきた事については違和感はないようだ。
店舗を見終わり、人の少ない道に入る。
周りを見て、問題ないと確認してからラットルアさんに問いかける。
「あの、取り締まりって失敗したんですよね?」
「えっ、そうだよ。なんで?」
「ミーラさん達の様子が、話に聞いていた組織のイメージと合わないからです。と言っても、冒険者を仲間にしている事を考えると、やはり用意周到な面が推察されます。それを考えると、組織に何か問題が起こっているのではと思ったので」
「問題を起こしたのが、取り締まりってこと?」
「それは分かりませんがミーラさん達の行動は、何か急いで事を進めようとしているように感じます」
「確かに、ミーラ達は何か焦っている印象だな。でもあの取り締まりは本当に何もなかった。確かに少しだけ書類は残されていたが」
「書類ですか?」
「そうだけど、まったく意味はなかったらしい。これについてはセイゼルクも確認している」
「書類でないとしたら、お金はどうですか?」
「お金? 確か金庫があって少し残っていたという話だったかな。でもそれもたいした金額ではないという事だ」
「取り締まった場所って民家ですか?」
「確か、元商家だったかな。結構な大きさの建物だ」
大きな建物ならあり得るかな?
「建物内に何か隠されている可能性はありませんか?」
「いや、ないと思う。徹底的に調べ尽くしたからな」
「そうですか……その場所は今どうなっていますか?」
「今は確か、まだ問題が解決していないから見張りを付けているはずだ」
「見張り……どれくらいの人数ですか?」
「えっと、最初より人数は減っていて、今は5、6人だったかな」
「見張りをしているのは自警団の方ですか?」
「あぁ、冒険者も加わっていたがミーラ達の事があるからな。今は自警団だけだ」
「自警団。あの、取り締まりの場所を調べたと言いましたが、誰が調べたのですか?」
「ん?あっ、大丈夫。調べたのは自警団だけで冒険者は参加していないから」
「自警団だけで……もしかして……」
「アイビー?」
どうしよう、証拠も何もない私の想像だけだけど。
とりあえず話すだけ話してみるかな。
「あの……自警団の人達って大丈夫なのですか?」
「自警団? もしかして調べた奴らの事か? いや、彼らは大丈夫だと……」
「その人達はどうやって自警団に入ったのですか?」
「隊長や副隊長、あとは貴族からの推薦…………」
「貴族」
「そう、貴族から推薦されて……」
「あの、言いにくいのですが……」
「大丈夫、言いたいことはわかった。そうだよ、自警団にだって裏切り者が」
そう、用意周到な組織ならば、冒険者だけではなく自警団にも手を出していると私は考えた。
ラットルアさんも、それに気が付いたのだろう。
少し混乱している。
もし、自警団にも裏切り者がいると考えると、元商家には何かが隠されている可能性が出てくる。
組織はそれを取り戻したい、だが見張りがいるために行動を起こせない。
ゆっくり待てば、いずれは見張りもいなくなるからそれからでも遅くない。
でも、隠してある証拠が重要過ぎて待てないとしたら……。
組織としてどう動くか。
見張りに割く人手を削ればいい。
ミーラさんは、組織にとって捨て駒かもしれない。
ミーラさんだけではない、今組織の人間だと思われているすべての者が捨て駒とも考えられる。
ミーラさんが裏切り者だと発覚した事で、まだ裏切り者がいる可能性を考えて、冒険者ギルドは動きづらくなったと言える。
既に見張りから手を引いている。
そうすると、主として動くのは自警団になる。
そんな時にミーラさん達が行動を起こせば、間違いなく捕まえようと動き出す。
見張りに人を回す余裕もなくなるだろう。
「トカゲのしっぽ切り」
「えっ、何それ」
「……いえ、なんでもないです」
1つ深呼吸して、今の考えをラットルアさんに話す。
ラットルアさんも似たような事を考えたようだ。
そして、苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「どうしたんですか?」
「自警団の3割ぐらいが貴族からの紹介だ」
何と言うか、それはまた多すぎるな。
全員が裏切り者という事はないだろうが、調べるとしたら時間がかかりすぎる。
これも計算しての行動だとすると、この組織のトップは恐ろしいな。
でも、私が考えた事ぐらい他の人も思いつくだろう。
ギルマスさんや、自警団の隊長さんは私より知識が多いのだから。
「あの、私の考えすぎという事もありますから」
「……アイビーがもし、一番に疑うとしたらどんな貴族?」
ラットルアさんが立ち止まって私を見下ろす。
私だったら……、
「犯罪とは無縁だと判断される人物でしょうか。もしくは武勇伝があるかもしれません」
「……どうして?」
「信用されている人や尊敬されている人には、様々な情報が集まりやすいです。そして何かあった時にも、まずは疑われることが無いので安全に逃げることが出来ます」
「そうか……思い当たる人が2人いる。1人はボロルダが信頼している人。もう1人はこの町の住人ならけして疑う事をしない人だ」
「疑う事をしない……どうしてですか?」
「11年前、盗賊に襲われている冒険者家族の子供を、自分の命を顧みず救った人だからだ」
「……救った人」
命を救った人か、何だかここ数日で何度も聞いた言葉なんだけど。
「怪我を負わされながらも勇敢に子どもを守った事で、町の英雄だ」
「襲ってきた盗賊はどうしたのですか?」
「全員死んでいる……どうしてだ?」
「………………自作自演なんて事は……」
「…………」
あっ、黙ってしまった。
でも、もしそれが自作自演なら11年も前から準備をしていたことになる。
あれ?
「あの、組織の事が認識されたのは何年前ですか?」
「確か7年前だったかな。奴隷にされそうになった女性が、逃げ出した事で組織があると知ったんだ」
7年前、その4年も前に自作自演?
早すぎるかな。
でも、認識されたのは7年前でも活動はもっと前からっていう事もあるし。
広場が見えてきた。
テントに視線を向けると、セイゼルクさんの姿が見える。
今日は早いな、と思うが、マールリークさんとロークリークさんの姿が見えない。
何かあってセイゼルクさんだけが戻って来たのだろうか?