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82話 3人の関係

3人の姿が見えると、やはり緊張してしまった。

それを察知したのか、ラットルアさんが軽く背中を叩いてくれた。

その瞬間ふっと余分な力が抜けたのが分かり、小さく笑ってしまった。

本当に彼は、頼もしい存在だ。


「アイビー、こっちこっち」


手を振るミーラさんと、軽く手をあげるルイセリアさん。

そしてちらりと視線をよこすカルアさん。

マールリークさんの話では、本当に仲がいいのか疑問だと。

でもミーラさんとルイセリアさんの2人を見ていると、とても仲がいいような印象を受ける。

カルアさんは、確かに1歩引いた雰囲気があるので仲良くは見えないな。


「お待たせしました」


「悪いな」


待ち合わせた場所は『フロフロ』のお店の前。

朝方ミーラさんからラットルアさんに、待ち合わせ時間と場所についての伝言が届いた。

伝言を聞いてすぐに待ち合わせ場所に向かったのだが、少し遅れてしまった。

ミーラさん達は、気にした様子も見せずにお店に入って行く。

後に続くと、午前中という事もあるのか店内は少しガランとしている。

お客は、女性の2人連れと男性の3人連れだけだ。


お店の人に案内されて椅子に座る。

私の隣にはカルアさん、反対側にラットルアさん。

前の席にミーラさんとルイセリアさん。

少しルイセリアさんがカルアさんを睨んだように見えたが、何だろう。

気のせいかな?


メニューについて話していると、視線を感じた。

微かな不快感。

自然になる様に気を付けながら、店内を見回す。

1人の男性と視線が合う。

ちょっと身構えるが、先ほど感じた視線とは異なる印象を受けた。

男性の視線からは、興味ありげな様子が窺える。

初めてみる顔だと思うのだが、なんだろう。


「どうしたの?」


隣に座ったカルアさんから声がかかる。

別に誤魔化すこともないだろう。


「ちょっと、じっと見て来る男性がいて」


「男性?」


カルアさんが店を見回して、私を見ている男性に視線を向ける。

何だか、思いっきりため息をついている。


「ごめんね。私の知り合い……ちょっと話してくる」


ラットルアさんも会話を聞いていたのか、男性を見る。


「大丈夫?」


小さな声で聞かれたので、頷いておく。

カルアさんの知り合いだという男性の視線には不快なモノを感じない。

それより好奇心が抑えきれずと言う雰囲気なのだ。

カルアさんの知り合いらしいので、きっと彼女から何か聞いたのだろう。

好奇心を刺激されるような話ってなんだろう?


ばごっというちょっと大きな音がお店に広がる。

慌てて音の発生源と思われる場所を見る。

カルアさんが男性の頭を思いっきり叩いたようだ。

……男性はひたすらカルアさんに謝っているし、連れの男性2人は大笑いしていた。

何だかすごく気になる集団だ。


「あれって、カルアの知り合いだっけ?」


「えっと、そうだっけ?」


ミーラさんとルイセリアさんの会話が届く。

やはり3人は仲がいいとは言えないようだ。


「ミーラさんとルイセリアさん、カルアさんはいつから友達なのですか?」


隣でラットルアさんが少し驚いた顔をしていた。

ただ、警戒して何も聞かないのは逆におかしいと感じた。

ミーラさんに疑いがあるから、意味を探ろうとして何も聞けない状態になっている。

もし、その前提が無ければ私がどう行動するかを考えた。

疑問があれば、間違いなく納得がいくまで聞く。

それが私の性格だ。

なら、この質問は間違ってはいないはず。

それに、答えが分かるかもしれない。


「えっと、ちょっと前かな。飲んでいる時に意気投合して……ね」


ルイセリアさんが少し慌てたような雰囲気で話す。


「そう、私とルイセリアが親しくなって、ルイセリアに紹介されたのがカルアなの」


「そうなんですか。冒険者仲間で親しくなったのかと思っていました」


「合同チームの討伐依頼でもないと、同じ冒険者でもそれほど親しくはならないかな」


「そうか? 同じスキルとか持っていると仲が良くなったりするだろ?」


「まぁ、そうなんだけど」


ラットルアさんの言葉に、少し言葉を濁すミーラさん。

やはりミーラさんとルイセリアさんの間の関係には違和感が拭えないな。

カルアさんが戻ってくると注文を依頼する。

新商品5つとラットルアさんだけいつも食べてるというお菓子も追加していた。

しばらくすると、お皿に乗ったふわっとしてぷるっとした印象のお菓子と、果実を絞ったジュースが目の前に置かれた。


「いただきます」


全員がスプーンを持ってお皿のお菓子を食べる。

口に広がるあまりに優しい味に、ふっと癒される。

美味しい。


「美味いだろ」


ラットルアさんの言葉にうなずいて、もう一口お菓子を口に入れる。

全て食べ終わってからジュースを飲む。

口の中がさっぱりする。


「ラットルアさん、本当に美味しいです」


「ねぇ、アイビー」


「はい」


「あのね、お茶の葉っぱを探したいのだけど。一緒に森に行ってくれないかな?」


森へ一緒に……これは確実に罠かな。

どうやって断ればいいかな。

難しい。


「お茶の葉っぱって、私が飲んでいる物ですか?」


「うん、食後にぴったりだと思って。欲しくなったんだけど、どんな木なのか分からなくて」


断りづらいな。


「この辺りの森にあるか分かりません。討伐隊がいた場所からこの町まで少し森を見て歩きましたが、お茶の葉っぱが取れる木はありませんでした」


「そうなんだ。もっと奥に行けばあるかもしれない?」


「それは、ちょっとわかりません」


「それなら一緒に探そうよ」


ルイセリアさんも話に乗ってくる。


「俺も一緒だから」


「ラットルアは仕事があるでしょ? 私はちょっと休息日を貰っているから問題ないけど」


休息日?


「あぁ、マルマとトルトが2人だけで修行する数日は、休む日にしているのだっけ?」


「そう。それに狙われているのは知っているからしっかり守るわよ」


「話は少し聞いている。私も一緒にアイビーを守るから問題ないでしょ」


ルイセリアさんがミーラさんを援護する。

これは外堀を埋められてしまった。


「それなら問題ない。セイゼルクから当分は依頼を受けないって言われているから」


「えっ、どうして?」


「あぁ、シファルにとって大切な時期だからね」


ミーラさんの焦った雰囲気に、ラットルアさんが堂々と答える。

その話し方から本当なのか嘘なのか見分けがつかない。

でも、昨日はそんな話は無かった。

と言っても、私はシファルさんの事情を知らないし。

どっちなんだろう。


「だったら、皆で行けばいいじゃない」


カルアさんの一言に、ルイセリアさんの眉間に皺がよる。

どうやら不本意の様だ。

私の視線に気が付くと、一瞬でその表情を隠したが。


「カルア、お茶に興味なんてあったの?」


ルイセリアさんとミーラさんの様子からカルアさんの行動は予定外の様だ。

やはりカルアさんは組織とは無関係なのだろうか?


「アイビーのお茶を飲んでから興味が湧いたの。そうだ私の知り合いも一緒に良いかな?」


「知り合いって誰?」


ラットルアさんが聞くと、カルアさんはお店の中の男性3人を指さす。

指を差された男性はちょっと焦っている。


「あの、今日じゃなくてもいいから」


ミーラさんの少し大きな声がお店に響く。

驚いてミーラさんを見ると、慌てている。


「もう、何をやっているのよミーラは」


ルイセリアさんが急いでフォローしたが、その様子を見て、やはり首をひねってしまう。

どう考えても、一筋縄ではいかない組織とは思えない。

もしかして何か問題を抱えているのだろうか。

その問題が何か分からないかな?


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