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76話 7歳!

とりあえずソラの判断は信用された。

それはいいのだが……リックベルトさんがソラから離れない。

かなり、気に入ってしまったみたいだ。

ソラの事を撫でては突いてを繰り返したため、顔面に攻撃を受けている。

……ソラの攻撃を初めてみたが、あまり効力は無いようだ。

攻撃を受けたリックベルトさんの表情が、気持ちわ……残念な事になっている。

跳ね返って転がってきたソラを、急いで抱き上げて彼から引き離す。


「ハハハ、悪い。そんな表現力豊かなスライムって初めてで」


「いえ」


ソラのレア度を知れば知るほど、信用のおける人しか見せる事が出来ないと確信していく。

半透明も、個別判断も、ついでに表現力が豊かなのも珍しい。

そして何より、まだ言っていないが食べる物はポーション、しかもビンごとだ。

……ソラはレアすぎる。


リックベルトさんが、私の腕の中のソラを見て手をワキワキさせている。

狭いテントの中だが、もう1歩だけ彼から離れる。

信用が出来ても、リックベルトさんはちょっと……失敗したと感じてしまう。


ボロルダさんがテントの中を覗き込み、呆れた顔をする。

そしてリックベルトさんの服を掴み、テントから引きずり出してくれた。

抗議をしているようだが、今はそれどころではないだろうと怒られている。

確かに、その通りだ。

何だかソラのおかげで、ずっと纏わりついていた鬱々とした雰囲気が一新されている。


「ソラ、ごめんね。まだ話があるから行って来るね」


テントの外に出て、入口をしっかりと閉める。

そしてその前に立つ。

私の様子を見てリックベルトさんが、とても残念そうな顔をしている。

……ソラを変た……守らないと。


「えっと、何だっけ」


セイゼルクさんの声に視線を向けるが、ちょっと緊張感が途切れすぎたようだ。

何だか、皆で笑ってしまった。


「はぁ、よし。まずはギルマスに話をして……ソラの事は伏せておこう。あれはレアすぎる」


セイゼルクさんが、苦笑をしている。

やはりソラはレアすぎるようだ。

皆の話を聞いて、そうかなって思ってはいたが、上位冒険者から言われると重みがあるな。


「あと、4人には今日中に話を付けよう。集まる名目は、仕事完遂祝いって感じでいいよな」


「そうだな。それで話はどこでする? あまり長くアイテムを使っているのもおかしいだろう」


「だったらテントの中で個別に話そう。それぞれが考える時間が必要だろうしな。落ち着く時間も」


「わかった。セイゼルクは仲間の方を頼む。おれはギルマスに会って来る。リックは……連れて行くわ。此処に置いておくとソラに突進しそうだ」


ずっとテントを見ているリックベルトさん。

何がそんなに嵌ったのか、少し困った状態だ。


「えっ、いや大丈夫だ。此処でソラと待っているから」


「「……ダメだ」」


「え~」


欲がダダ漏れだけど、大丈夫かな。

私に視線を送ってもどうする事も出来ないので


「行ってらっしゃい」


と、言葉を送ると、セイゼルクさんとボロルダさんに笑われてしまった。

リックベルトさんは項垂れている。


「リックベルトは、ああ見えて可愛い動物が好きなんだよ。ただし、触りすぎて嫌われる事が多いけど」


ラットルアさんの顔は呆れている。

でも、確かにソラは可愛い。

可愛い物が好きな人なら、嵌るだろうな。

にしても嫌われるまで触るって……そう言えばさっきソラも既に……いや、まだ嫌いまではいっていないはず。


「さて、話も纏まったし、ギルドに行ってくるわ。ほらリックさっさと動け!」


リックベルトさんは何度も振り返りながら、ボロルダさんに引きずられて行った。

何だか、ガラリと印象が変わってしまってどうしていいのか。

……とりあえずソラを守ることを優先しよう。

セイゼルクさんは4人の仲間に集合を掛けると、広場を後にした。

残ったのはラットルアさん。


「あのさ、アイビーって本当に9歳?」


いきなりの事に驚いた。

そう言えば、私が8歳だと言った時もなぜかみんなに驚かれたっけ。


「はい。そうですが、何かおかしいですか?」


何だろう、何か変なのかな?

私は自分の手を見たりするが……分からない。


「あ~それともう1つ。本当に男の子?」


不意打ちだったために、固まってしまう。

そしてこれはやってはいけない反応だ。

どうしよう……誤魔化す方法が思いつかない。


「ぅわ~、ごめん。そんな泣きそうな顔をしないで!」


気が付かないうちに、泣きそうな顔になっていたようだ。

そっとラットルアさんを見る。

心配そうにこちらを見ているだけで、怒っているようには見えない。

それにホッとする。


「すみません。騙していて」


「それは違うでしょ。アイビーは、身を守るための手段を取っていただけだよ。女の子の1人旅は危ないからさ」


「ありがとうございます。でも、何度も言う機会はあったのに言わなかったので。あの他の皆も?」


「ん~、ボロルダとかセイゼルクは気が付いているかな。経験豊富だから。リックベルトはたぶん気が付いていないよ。……無神経だから」


何だろうリックベルトさんの名前を言う時だけ、ちょっと黒いモノが見えたような。

まさかね、優しいラットルアさんに限ってそれはないか。


「やっぱり、ばれてしまうのですね」


これからどうしよう、旅を続けていくのに。


「ん~、長く一緒にいると違和感を感じる程度かな。と言うかそれより年齢が9歳の方が驚くし」


そう言えば、聞かれたな。

それはどういう意味なんだろう。


「あれ? 気が付いてないの、もしかして」


私が首を傾げると、ちょっと彼は考え込んでしまった。

そして私を見ると、難しい表情をする。

何だろう、すごく緊張する。


「あのさ、アイビーって見た目が9歳には見えないんだ。だいたい7歳ぐらいに見えるかな」


…………えっ!

7歳ぐらい?

それはさすがに……だって、服とかきつくなって大きく……あれ?

そう言えば、5歳から9歳までで服がきつく感じたのって1、2回ぐらい?

あれ?

本当に成長していないのでは?

……マジですか?


「そ、そんなに落ち込まなくても……成長すると男の子には見られなくなるから」


それは、成長しないほうがよかったのか、悪かったのか?

ばれない点ではよかったのかな。

でも、成長できていない点では……悲しい。


「年齢を聞くまで、俺達全員7歳ぐらいだろうって予測していたんだ。子供になんて旅をさせているんだって、ヌーガとかマジで切れてた。で、年齢聞いた後は……悲しくなった」


「悲しく?」


「一緒にご飯を食べている様子から、病気の様子は無い。でも成長が遅いとなれば、過酷な生活を送って来たのかなって想像して」


過酷?

……そうなのだろうか?

過酷だったのかな?

5歳のあの時から全てが変わった。

それから1人で、占い師の助けを借りながらだけど、生きてきた。

そうか、過酷と言えば過酷な生活だったかもしれない。


「そうかもしれません」


「いつから旅を?」


「旅を始めたのは今年です。でも森での生活は……4年です」


「そっか。ラトミ村は村長と領主が、かなりひどいらしいからな。冒険者ギルドの情報では、半分ぐらいの村民が逃げたのではないかって」


「……そんなに……」


そんなに逃げ出していたんだ。

そう言えば、村長が汚職した村がとても閑散としていたな。

あんな感じになっているのかな。


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