70話 気配を消す方法
町の説明を受けながら、冒険者広場へ向かう。
家族がいるロークリークさんと、彼女がいるシファルさんは待っている人の下へ。
ヌーガさんとマールリークさんは、知り合いに会いに行くそうだ。
残ったのはセイゼルクさん、ラットルアさん、ボロルダさん、リックベルトさん。
彼らは広場で一緒に過ごしてくれるらしいが、彼らの拠点はこの町だ。
きっと住み慣れた家があるはず。いいのだろうか?
広場には、多くの冒険者がいる。
誰かの目がある場所なら、1人でも大丈夫なのでは?
「気にしなくていいよ、アイビー。リーダー達、2人とも行く所が無いから」
私の雰囲気で、何を考えているのか分かったのだろう。
ラットルアさんが、楽しそうに話す。
「2人とも、討伐前に彼女の家を追い出されているからな。問題なしだ」
続いて、リックベルトさんも楽しそうに情報を追加する。
「お前らな……と言うか、なんで知っているんだ?」
ボロルダさんが情けない声で、リックベルトさんに問いかける。
それには肩をすくめるだけで、答える気はないようだ。
とりあえずは、2人は問題ないとして後の2人は?
「ラットルアさんはいいのですか?」
「あぁ、俺には家族がいないからね」
一瞬つらそうな表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
おそらく、この事には触れないほうがいいのだろう。
「そうですか。ラットルアさんがいてくれると心強いです」
「俺も問題ないよ。家族からいい加減家を出て行けって追い出されたから」
……それは、問題ないと言えるのだろうか?
違う問題があるような気がする。
リックベルトさんは、にっこり笑っている。
「えっと、ありがとうございます」
一緒に居てくれるのはとても心強い。
なので感謝だけは、しっかりと言っておこう。
広場に着くと、町同様かなり広い。
許可書は無いようだが、出入り口の場所には管理人だろう人が立っていた。
その人にセイゼルクさん達は手をあげて、私は頭を下げて広場へ入る。
「すごい、広いですね」
「だろ~。この他にも冒険者用の広場は4ヶ所あって、全部で5ヶ所。どれもこれと同じぐらい広いかな」
広場が5ヶ所、すごい。
ボロルダさんが空いている場所を指した。
「あのあたりが広さ的に良いだろうな。他のテントとも少し離れている」
「そうだな」
セイゼルクさんも賛成なので、見つけた空間にテントを設置していく。
4人が取り出したテントは、討伐の時に見た大型のテントではないようだ。
「違うテントですね」
「ずっと仲間と一緒と言うのはな。これは個人用のテントだ」
「そうなのですか」
1人用と言っても、私のテントより大きいサイズだ。
それが4つ、それぞれ設置されていく。
私も急いで自分のテントを張る。
テントの中を整えながら、少し悩む。
ソラのポーションを、捨て場まで取りに行きたい。
それには1人になる必要がある。
どうしよう。
ソラのポーションの残りは、明日の朝までしかない。
何とか今日中に、捨て場に行かないと。
テントの外に出ると、討伐の時に見かけた冒険者がボロルダさんと話している。
「わかった。全員に集まる様に言っておいてくれ」
「わかりました。では、お願いします」
「あぁ」
冒険者は急いでいるようで、すぐに走り去る。
「アイビー」
走り去った後ろ姿を見ていると、ボロルダさんに声をかけられる。
視線を向けると、真剣な表情のボロルダさん。
ちょっと不安になりながら、傍による。
「少し用事が出来た。1人になるが大丈夫か?」
1人。
最近は1人になることは少ない。
なのでちょっと緊張するが、いつまでもこれではいけない。
ポーションを取りに行く必要もあるし。
「はい」
「気を付けろ」
頷くと、頭を軽く撫でられた。
他の3人もテントの設置が終わったようで、そのまま集合場所へ行くようだ。
ラットルアさんが、何度も振り返りながら手を振っている。
その姿に心が温かくなる。
一度テントに戻り、しっかりと扉を閉めて金具で止めてから、ソラをバッグから出す。
「ごめんね、全然外に出せなくて」
プルプルと揺れるソラを撫でる。
「まだ、狙われている状態なんだ。だからもうしばらく我慢してね」
でも、テントが設置できたのはよかった。
旅の道中はテントを使用しなかったからな。
テントの中なら、ソラをバッグから出すことが出来る。
伸びる運動をしているソラを見る。
やっぱり、バッグの中は窮屈だよね。
「ソラ、運動が終わったらポーションを取りに行こう!」
なるべく多くポーションを確保したい。
一番容量の入るバッグを持つ。
狙われているとわかってから、1人で行動するのは初めてだな。
ふ~っと大きく息を吐き出して、外の気配に気を配る。
こちらを監視しているような気配は感じ取れない。
「ソラ、行こう」
ピョンと跳ねて私の下に来るソラを、専用のバッグに入れて肩から提げる。
テントから出ると、しっかりと入口を閉める。
周りを見て、広場を後にする。
気配を探るが、大通りは人が多くて読みにくい。
だからといって、人の少ない道を歩くのは駄目だよね。
町の中も油断しない様にと、ラットルアさんから注意を受けている。
門で許可証を見せて、町から出る。
周りを確認して、捨て場のある場所を予測する。
あまり離れている場所ではないだろう。
あれ程大きな町だと、ゴミの量も多いはず。
遠すぎる場所だと、違う場所に捨てる人が出てきてしまうはずだから。
「あった」
やはり大きな町だけあって、捨て場の広さはすごい。
だが、ラトメ村と同じくらいだ。
もしかしたらテイマーを多く抱えているのかもしれないな。
「ふぅ~」
何度も気配を探りながら、森を歩くのは正直いつもより疲れる。
気を緩める事は出来ないし。
この状態では、ソラをバッグから出してもあげられない。
早くポーションを拾って帰ろう。
捨て場に入り、必要なポーションを手当たり次第バッグに入れる。
拾うのは、ソラに不可欠な青のポーションと赤のポーションだけだ。
それ以外は、まだ大丈夫だった。
持ってきた劣化版マジックバッグの容量いっぱいにポーションを詰め込む。
捨て場から出ると、さすがに拾う量が多かったのか少し暗くなりかけていた。
急いで帰ろう。
町の方へ足を向けると、気配がこちらに近づいて来るのが分かった。
すぐに木の後ろに隠れて様子を窺う。
やはり近づいてきている。
緊張で手足が冷たくなる。
深呼吸をして気配を読まれない様に、自然と調和するように意識する。
風の流れに呼吸を合わせるように、静かに……静かに……。
しばらくすると捨て場へ物を捨てる音が聞こえてきた。
そして、町へ戻っていく気配。
よかった、私を狙っていた者ではないみたいだ。
大きく深呼吸して、もう一度周りの気配を探る。
大丈夫のようだ。
そう言えば、上手く気配を消せたかな?
旅の途中、セイゼルクさんに気配の消し方を教えてもらった。
森の中では、自然に調和するように消す方法が一番いいらしい。
これは隠れた時に一番効果を発揮すると、ボロルダさんも言っていた。
少し急ぎ足で町へ戻る。
周りの気配を探るが、違和感も不快感も感じない。
許可証を見せて町へ入ると、どっと疲れが押し寄せてきた。
疲れた……。
多くの方に評価を頂き、とてもやる気が出ます。
引き続き、よろしくお願いいたします。