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65話 ソラの反応

食事を終えて、お湯を持ってテントの中に戻る。

入り口をしっかりと閉めて、外から開かない様に金具を止める。


「よし、大丈夫」


マジックバッグを開けて、ソラの様子を窺う。

ソラは私を見ると、ピョンと跳ねてバッグから飛び出してきた。

今は大丈夫と判断したソラは、やはり私の状況を理解しているようだ。

いつも思うけど、ソラは頼りになるな。


そう言えば、アダンダラは大丈夫だろうか?

この周辺の森から、離れた所に行ってくれていればいいけれど。

見たという情報は入ってきていないから、見つかってはいないだろう。

でも、心配だ。


ソラを見ると、いつもの上下運動で体を動かしている。

何だか、この運動を1日に1回は見ないと落ち着かないな。

……変だな、ずっと見続けているからかな?


体を拭きながら、セイゼルクさんと話した内容を思い出す。

正直、とっても怖い。

最初に命を狙われた時は、恐怖より悔しさが強かった。

テントの時は、恐怖もあったが戸惑いの方が強かった。

でも、今回はとにかく怖い。


「はぁ~。ソラ、どうしよう。私……狙われているみたい」


言葉にすると、なんだか恐怖感が増してしまった。

ブルっと震えると、ソラは運動を止めて、座っている私の足に体をすり寄せた。

心配してくれたようだ。


「大丈夫だよ。炎の剣のみんながいてくれるから」


何とか、気持ちを落ち着かせる。

ソラはピョンピョンと跳ねてプルプルと揺れだした。

いつものソラの様子に、少し笑ってしまう。


「それにね、テイマーのミーラさんも一緒にいてくれるって」


スライムについて、訊いてみようかな。

ソラについても何か分かるかもしれない。

ソラに視線を向けると、ソラが動きを止めて私をじっと見つめている。


「えっ?」


その様子は、夕方の時と同じだ。

いつものソラの様子とは違う、何かを訴えるような視線。

夕方の時は確か「皆、いい人たちでよかった」って話した後だったはず。

……まさか、皆と言う言葉に反応したの?

炎の剣の話をした時は、いつも通りの反応だった。

今のこの反応は……ミーラさん?

ソラにとって、ミーラさんはいい人ではない?

嘘だ。

だってミーラさんは私を本気で心配してくれている様子だった。

でも、ソラはいつも私を危険から遠ざけてくれている。

間違って毒草に触れそうになった時は、体当たりで知らせてくれたし。

木の魔物の時だって、知らせてくれた。

……本当にミーラさんに?


「ソラ、炎の剣のみんなは大丈夫?」


ソラはピョンと跳ねて揺れている。


「討伐隊のリーダー、ボロルダさんは大丈夫?」


ピョンピョンと跳ねてプルプルっと揺れる。

炎の剣よりなんだか力強い跳ね方だが、問題ないだろう。


「……緑の風のミーラさんは?」


全ての動きを止めて、私を見つめるソラ。

……ソラはミーラさんに何かを感じている?

それは何?

ソラの様子から考えると、私にとって良い事ではない、絶対に。

両手をギュッと握りしめる。

いい人だと思ったのだけど、違うの?

でも、違和感も不快感も感じなかった。

あれ?

そうだっけ?

何か感じたような気がする……そうだ、マルマさんだ。

彼の笑顔を見た時、ほんの少し違和感を感じた。

あの時は分からなかったけど……思い出した。

あれはモノを品定めする目だ。

ラトミ村の村長と同じ目だった。

利用価値があるかどうかを、判断する目。

ほんの一瞬だったから、見間違いかと思ったけど。

あれは、見間違いではない。

なら、やっぱりミーラさんを含めた緑の風の彼らが組織の関係者?


……どうしよう。

セイゼルクさんに相談する?

でも、どう言えばいいのだろう。

ミーラさんが組織の仲間かも知れないって?

証拠がないのに、信じてもらえるわけがない。

ソラの感覚だけなのだから。

私はソラを信じている。

ずっと一緒に旅を続けて来たのだから。

ソラが感じた事を信じる。

でも、ソラは証拠にはならないし、見せる事は出来ない。

誰が信じてくれるだろう?

……分からない。

太ももに重さを感じた。

座り込んでいる私の足に、ソラが乗って来たのだ。

そして私を見つめてプルプルと震える。


「ありがとう。ソラ」


明日、ミーラさん達と会う約束をしてしまっている。

セイゼルクさんにも、ミーラさんといるから大丈夫と言ってしまった。

ソラをゆっくりと撫でる。

今から、この場所を離れる?

でも、オーガの討伐が終わっていない。

森の中でオーガに遭遇したら、きっと殺されてしまう。

それに、この場所には魔物の見張り役が絶えずいる。

見つからずに離れるのは無理だろう。

昼間は森の中には冒険者がいるし、彼らに見つからないように隠れて移動する技術なんて持っていない。

はぁ、この場所から誰にもばれずに逃げ出すことは出来そうにないな。

だったら、できる事は何だろう。

今できる事は……相手に不信感を抱かせない事かな。

先ずは私が疑っていることを、知られないようにしないと。

不信感を持っているとばれたら、何かしてくるかもしれない。

でも本当にミーラさんが?

はぁ、明日から気を付けないと。

ばれない様に、だまし通せるかな?

やるしかないよね。


ふぅ~、悲しい。

気にかけてくれて、優しくしてくれて、出会えてうれしかったのに。

グッと歯を食いしばって、零れそうになる涙を抑える。


「泣くモノか、泣いてなんてやらない、絶対に」


まだ、ミーラさんが組織の一員だと決まったわけではない。

もしかしたらソラの間違いかもしれない。

でも、マルマさんが私を見た時のあの視線が、答えのような気がしてしょうがない。

そして私はソラを信じている。


「ふぅ~」


ソラが太ももの上で私をじっと見つめている。

そうだ、私に何かあればソラにも影響する。

乗り切るしかない。

人さらいの組織だと言っていた。

なら、目的は私をさらう事だろうか?

とりあえずミーラさんといる時には不自然にならない様にしないと。

ギュッとソラを抱きしめる。

怖いけど、やるしかない。

頑張ろう、私とソラのために。

大丈夫、きっと大丈夫。


人の話し声や動く気配で、ふっと目が覚めた。

どうやらソラを抱きしめた状態で、眠ってしまったようだ。

ソラを毛布の上に乗せ、腕を伸ばすとギシギシっと音がする。

寝ていたはずなのに、疲れたな。

大きく深呼吸して、気持ちを切り替える。


「大丈夫。大丈夫」


ソラがじーっと私を見ている。


「大丈夫だよ」


撫でて、ポーションをソラの前に並べる。

すぐ近くのテントからも音がする。

炎の剣の誰かが起きてきたのだろう。

ソラは食事を終えると、縦に運動を開始した。

少し様子を見て、バッグに入れる。


「ごめんね、行ってきます」


長く息を吐き出して、気持ちを切り替えてテントの金具を外して外へ出る。

大丈夫。


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