61話 薬草だった
夕食の後片付けはラットルアさんが全てやってくれた。
ただ、
「アイビー、ハーブ? 下ごしらえ? 俺でも料理できるようになるかも! もっと教えて!」
「えっと、あの……」
ソラの食事がまだなので、テントに戻りたい。
それに、今はそれについて触れないで欲しい。
どうしようかな。
「いい加減にしろ! 悪いなアイビー、こいつは放置して良いから」
「ラットルアさん、すみません。おやすみなさい」
沸かしておいたお湯を持って、テントの中に戻る。
「ふぅ~、疲れた」
テントの外の様子に、耳を傾ける。
ヌーガさんの声と、不貞腐れているようなラットルアさんの声が聞こえる。
それもしばらくすると聞こえなくなった。
もう、大丈夫かな。
ソラをバッグから出して、小さい声で話しかける。
「遅くなってごめんねソラ。他のテントとの距離が近いから静かにね。ご飯、すぐ用意するね」
ソラは私を見てプルプルと震えて、並べたポーションを食べだした。
お湯にタオルを浸して、絞る。
体を拭きながら、薬草について考える。
薬草については、占い師から貰った本で勉強した。
ポーションの原料となり、森に入れば見つけることが出来る。
ただ薬草そのままでは、劣化版ポーションより効果が薄くあまり役に立たない。
そのため薬草の中でも毒を持つものだけを覚えたのだ。
毒草は触れるだけで赤く腫れるものもあり、注意が必要だったからだ。
新しい服に着替えて、ソラを見る。
体を伸ばしてプルプルしている。
伸びていると、色が綺麗に上下に分かれている事が分かる。
普段の雫型だと、まだ混ざっている部分があるのだ。
それも日々、少なくなってはいるので変化途中なのだろう。
これからも、色が増えたりするのかな?
どんどん増えたら、どうなるんだろう?
……ソラを見ると、ずっと縦運動を続けている。
まぁ、いいか。
マジックバッグから薬草の本を出す。
ハーブを見つけたのは確か、野ネズミの狩りをしている時だったはず。
懐かしい香りがしたので、周りを探して見つけ出したんだ。
ん?
あれ?
おかしいよね。
初めて見たハーブというか薬草? だったのに懐かしい?
やっぱり前の私の記憶が、かなり影響していたみたいだ。
あの時は全く違和感を感じなかったから、気が付かなかった。
そう言えば、集めたハーブを疑問に思うことなく乾燥させたっけ。
今思い出せば、おかしな事ばかりだな。
乾燥させて持ち歩いているハーブを、全てバッグから取り出して薬草の本に載っている絵と見比べる。
4種類は本に載っていなかったが、他は全て薬草として載っていた。
薬草だったのか。
今度から言い間違わない様に気を付けよう。
ふぁ~っとあくびが出る。
驚くことが続いたので、かなり疲れてしまったな。
「ソラ、寝ようか」
小さい声でソラを呼ぶ。
毛布をソラと私に掛けて、寝る体勢を整える。
明日、ラットルアさんにどう説明しようかな?
……全然思いつかない、眠い、寝よう。
「ソラ、おやすみ」
…………
テントの外の気配で目が覚める。
なんだろう?
少し嫌な気配だ。
目をそっと開けて、テントの入り口が閉じられているのを確認する。
気配は相当抑えられているが、こちらの様子を窺っているのを感じる。
炎の剣の4人から感じたモノとは違う、不快感を覚える嫌な気配に、少し体が震える。
怖いな。
「誰ですか?」
声をかけると、すっと気配が離れて行く。
何だったんだろう?
ソラの事が、ばれたのだろうか?
もう一度テントの入り口を確認する。
大丈夫、隙間なく閉まっているし、外から開けられない様にしておいた。
ソラをギュッと抱きしめる。
何だか、不気味だな。
周りが少し明るくなった頃、ソラを入れたバッグを肩から提げて、テントから出る。
既に冒険者たちが、慌ただしく動き回っている。
昨日の夜より人数が多いような気がする。
気のせいだろうか?
「おはよう。アイビー」
冒険者たちを眺めていると、後ろからラットルアさんの声が聞こえ、ビクッと肩が震えてしまう。
「えっ? 大丈夫? アイビー?」
「ふぅ、大丈夫です。おはようございます」
深呼吸して、早くなっていた呼吸を落ち着かせる。
ラットルアさんが、心配そうに顔を覗き込んでくる。
それにちょっと驚き、思わず後ろに1歩下がってしまう。
「何を襲っているんだ!」
「襲う? えぇ~違うよ。ね、アイビー違うよね!」
「はい。ヌーガさん違います」
「そうか? 嫌なことされたら俺に言え。ぶん殴ってやるから」
「ちょっと、ヌーガひどい! 俺、無実!」
「おはよう。朝から騒がしいなラットルアは」
「おはよう。アイビー」
「おはようございます。セイゼルクさん……シファルさん」
シファルさんの名前がちょっと出て来なかった。
危なかった。
「アイビー。俺の名前忘れてたでしょ!」
「うっ、すみません」
「……可愛い~。こんな弟欲しい!」
いきなり横から、ラットルアさんに抱きしめられた。
驚きすぎて声も出ない。
バキッと言う音がすると、ラットルアさんが離れてくれた。
視線を向けると、痛そうな顔をして頭を押さえている。
「大丈夫ですか?」
「気にするな、問題ない」
何故かヌーガさんが答えてくれた。
問題ないのかな?
かなり痛そうな顔をしているのだが。
「朝ごはん、一緒にどうだ? いつもは何を食べているのだ?」
「えっと、干し肉と木の実です。あとお茶です」
「へぇ~お茶? 珍しいね、お茶って高いでしょ?」
お茶って珍しいの?
高い?
そう言えば、お茶を飲んでいる人ってあまり見かけなかったかも。
どう説明すれば、変に思われないかな?
「このお茶は、森にある木から取っているのでお金は掛かっていません」
「森? お茶って、専用の畑でしか取れないでしょ?」
どうしよう、この知識も駄目?
とりあえず、お茶を振る舞って様子を見てみよう。
お茶の用意を5人分していると、ヌーガさんが黒パンとコップ4つを持って来た。
「はい、これやるよ。お茶はよろしく」
黒パンを渡されたので少し驚くが、お礼を言って受け取る。
コップ4つにお茶を入れて渡す。
自分用のコップにもお茶を入れる。
香りを嗅ぐと、ホッとする。
「いい香りだ。なんだか落ち着くな」
「確かに、前に飲んだお茶とは違うけど、これも美味いな」
セイゼルクさんとシファルさんは、お茶を気に入ったようだ。
ラットルアさんは、なんだか不思議な顔をして飲んでいる。
ヌーガさんは特に反応は無いが、最初の一口が恐る恐るだった。
4人の反応を見て、本当に馴染みのないお茶なのだと判断できる。
……ハーブに続きお茶も?
どうしよう。