5話 旅立ちます!
劣化版のマジックバッグを5つ。
バッグの1つを半分に畳んで紐で腰に巻く。
残り4つは右に2個、左に2個。
それぞれに、詰め込めるだけ詰め込む。
劣化版のポーション多数。
傷が治るはずの、
病気が治るはずの、
痛みを抑えるはずの、
呪いが解けるはずのポーション。
全て劣化版なので本当に効果があるのかは、使ってみないと分からない。
最悪な劣化版でない限りは、ある程度は治してくれる。
経験上、それを知った。
森の中を走りながら、隠していた旅の準備品を回収していく。
占い師と一緒に集めたり、隠したりした物を1つも置いて行きたくはない。
食料は干し肉。
あちらこちらから拝借……旅の餞別にもらっておいた。
何か問題でも?
竹筒に森の湧水を入れてバッグに入れる。
足りないが、持てないから仕方ない。
占い師にもらった本も、持った。
あとは、壊れた小さい剣を回収したら、村を出る。
……
たまたまだった。
そう、おそらく運がよかったのだろう。
私は情報を得るために、5日に1回の頻度で村に潜むようになった。
情報は大切だと、経験で知ったから。
昨日も情報を得るために、森から下りた。
人があまり来ない集会所に身を隠して、周りの気配を窺う。
いつもは感じないが、今日は人の気配を感じる。
耳を澄ましていると声が聞こえてきた。
男性2人のようだ。
「見つけました。森の、ある場所に潜んでいるようです」
「そうか、タブロよ。
あれはこの村を不幸にする、分かっているな?」
タブロは父の名前。
もう1人は分からない。
息をゆっくり吐いて、集会所の建物の影から慎重に声の主を確認する。
……村長だった。
「もちろんです。
星なしなど、この世に居ていい存在ではありません。
あの子も、神様のもとに行けるのですから、幸せでしょう」
……ふざけるな!
死んだら幸せ?
私は生きたいし、神様なんかの所に行ってたまるか!
ムカついた。
深呼吸をして怒りを抑える。
見つからないように、その場をそっと離れて、森の中に隠していた物を回収していく。
既にいつでも旅立てるように、準備はしていた。
ただ、最後のきっかけが掴めなかっただけ。
……やはり、生まれた村から離れる怖さがある。
でも、ここでも死ぬ危険性があるなら村を出る。
もう、迷わない。
村からかなり離れた森のはずれに、森の中で一番と言っていいほどの大木がある。
その大木の根っこの部分には、物を隠せるほどの空洞ができている。
その空洞に手を差し込んで、掴んだ物を外に引きずり出す。
森の中で、身を守るために大切な剣。
これは占い師が、私の体の大きさに合わせて探し出してくれた物だ。
8歳の私にはまだ少し大きいけれど、これより小さい剣は見つからなかったと言っていた。
刃先が少し欠けた剣。
それを持って、村とは反対方向に走る。
村の光が微かに見えるほど離れた場所で、一度だけ振り返る。
村の周りにある森には、随分とお世話になった。
占い師には、ありがとうを言いたかった。
色々な思いがあふれ出るのを、剣を握って抑え込む。
村から視線をずらすと、私が隠れ住んでいた場所の1つに明かりが見える。
森の中に数か所、寝れる場所を確保していた。
見つかったのは、一番村に近い場所だったようだ。
次に住処を見つけるときには、気を付けよう。
止まっていた足を動かす。
もう、この村には二度と戻らない。