53話 口座へ入金
オグト隊長について行くと、部屋の隅に並んでいた扉の前で止まる。
その中の1つの扉を開けて、オグト隊長と一緒に入る。
と言っても一緒に入れるほどには広くないので私が中へ、隊長は扉を開けた状態で説明してくれた。
「ここで、入金や出金を行う。正面に小窓があるから、そこを数回叩くと小窓が開いて対応してくれる。中の人に入金か出金か伝える。ここまでで、分からない事はあるか?」
「……いえ、大丈夫です」
「ん、入金の場合はお金とプレートを渡す。出金の場合は金額を言ってプレートを渡す。プレートが手元に戻って来たら、小窓の前に白い板が置いてあるだろう?」
「はい、あります」
「その上にプレートを置くと、入金した日時と金額、出金した日時と金額が表示される。ちょっと置いてみろ」
「はい」
小窓の前にある白い板の上に、先ほどもらったプレートを置く。
するとただの白い板に見えた物に、今日の日付と開設と言う文字が浮かび上がる。
すごい、ワクワクする。
まじまじと見ていると、後ろで笑い声が聞こえた。
後ろを見ると、オグト隊長が肩を震わせて笑っている。
「悪い。すごい真剣に見てるから、ハハハ」
少し頬が熱くなっているので、きっと赤くなっているだろう。
隠すように小窓の方へ体の向きを戻す。
「悪い。悪い」
頭をくしゃっと撫でられる。
う~、恥ずかしい。
「今、入金しちまうか?」
「はい。良いですか?」
「あぁ、分からない事があれば中の人に聞けばいい。聞きにくかったら俺に聞け。すぐそこに居るから」
「ありがとうございます」
オグト隊長が扉を閉めるのを確認してから、小窓を2回叩く。
ドキドキする。
大丈夫かな。
「はい」
小窓が開いて、男性が対応してくれた。
「にゅ、入金をお願いします」
「こちらにお金とプレートをお願いします」
お金を入れているバッグから、金貨4枚と銀板1枚銀貨5枚を取りだす。
小窓から出された小さなお皿に、お金とプレートを乗せて小窓から男性に渡す。
心臓の音が外まで聞こえそうだ。
「はい。完了いたしました。ご確認ください」
「はっ、はい!」
早い!
ビックリした~。
戻って来たプレートを白い板の上に載せる。
開設の下に今日の日付と入金した金額が表示される。
[金貨:4枚 銀板:1枚 銀貨:5枚]
「あれ?」
ちょっと想像した表示方法と違うと感じたが、何が違うのかは不明。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「こちらこそ、ご利用ありがとうございます」
プレートをバッグへ入れている間に、小窓は閉まっていた。
小部屋を出ると、オグト隊長が心配そうに見て来るので笑ってお礼を言う。
「ありがとうございます。すごく助かりました」
「ハハハ、気にするな」
商業ギルドから出ると、怖い顔したヴェリヴェラ副隊長がオグト隊長の前に立つ。
何だろう、何かあったのかな?
「隊長! 何処へ行くのか、周りに言っといてください」
「あれ? 言って来なかったっけ?」
「はぁ~」
ものすごく長いため息をつくヴェリヴェラ副隊長。
「すみません。私のせいです」
「「それは無い」」
ヴェリヴェラ副隊長の声にもう1つ声が重なる。
不思議に思うと、何度か広場で見かけた管理人さんが一緒にいた。
軽く頭を下げると、手を振られた。
「はぁ、とりあえず隊長、仕事を部下に押し付けて逃げないでください」
「逃げてねーよ。もっと大事なことがあったからな」
やっぱり私のせいだよね?
仕事を放りださせてしまったわけだし。
「隊長!貴族の対応がめんどくさいからと言って、俺に押し付けて逃げるのは止めてください!あのあほ、失礼。頭の中がスカスカの貴族の野郎、隊長ではない事をぐちぐち、ぐちぐちと」
「ヴェリヴェラ、言い換えた意味が分からん」
「えっ? あぁ、つい本音が。ふぅ、とりあえず行きますよ」
「はぁ? 終わってないのか?」
「えぇ。1時間愚痴だけを言い続けて、いい加減うっとうしくなったので少し寝ていただきました」
「……は? 何をしたんだ?」
「さぁ、お疲れだったのでしょう」
「イヤイヤ、待て。相手貴族だぞ。アレでも」
「大丈夫です、アレですから」
これって私が聞いて、良い話なのかな?
どうしよう。
静かに離れた方がいいのかな?
「お2人さん、アイビーがものすごく困ってますよ」
「えっ?」
「おっ、悪いなアイビー。仕事が入ったみたいだ」
「い、いえ。今日はありがとうございます」
とりあえず話を合わせておこう。
私は何も聞いていません!
絶対に!
「申し訳ありませんね。少しクソ貴族のせいでストレスが」
ヴェリヴェラ副隊長、顔が怖すぎる!
「お仕事、お疲れ様です」
ヴェリヴェラ副隊長に頭を撫でられる。
あっ、表情が少し柔らかくなった。
よかった。
もう一度しっかりとお礼を言って、商業ギルドの前で別れて広場へ戻る。
隊長も副隊長も大変だな。