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52話 商業ギルド

商業ギルドに向かいながら、オグト隊長が色々と教えてくれた。

商人を犯罪組織から守るために作られた組織で、冒険者ギルドとは違う組織になるそうだ。

徐々に力をつけ、今では王都や町、大きな村では商業ギルドに登録しないと商売が出来ないらしい。

小さい村にも、少しずつ浸透して行っているとの事だった。

まだまだ知らない事が多いな、しっかりと覚えて行こう。


冒険者ギルドの隣にある同じような建物が商業ギルドだった。

私はどちらも冒険者ギルドだと思っていたので驚いた。

そう言えば看板が違ったな。

関係ないと思っていたので、気が付かなかった。


オグト隊長の後に続いて商業ギルドに入ると、多くの人が動き回っている。

部屋全体を見回すと、カウンターで布を広げて見せている人がいた。


「あれは、売り物の説明だろうな。ギルドに登録する場合は何を売るのかを見せる必要がある」


「そうなのですか」


部屋の隅には個別に部屋があるのか、扉が並んでいる。

すごいな。


「こっちだアイビー」


周りに気を取られて、オグト隊長から少し離れてしまっていた。

慌てて後を追う。


「ルギレット、口座を1つ作りたいんだが」


「オグト隊長、お疲れ様です。って言うか口座?」


「俺じゃないからな。この子だ」


「初めまして、よろしくお願いいたします」


「あら、可愛い」


カウンターで1人の女性に紹介される。

穏やかな印象の綺麗な女の人。

ルギレットさんが1枚の紙をカウンターに置く。


「では、まずは口座についてのご説明をいたします」


「お願いします」


「口座を作るとプレートをお渡しいたします。初めて作る場合は費用が掛かりませんが、無くした場合の再発行には500ダルが掛かりますので、無くさないようにご注意くださいね。また口座管理費として、1年間に100ダルを引き落としさせていただきます。ここまでで何かご質問はございますか?」


管理費に100ダルか。

迷うけど金貨が今4枚あるんだよね。

それを持って歩くのは怖いし……やっぱり必要だな。


「最初の年はここで100ダルを払うのですか?」


「あっ説明飛ばしちゃった……ごめんなさい。えっと、口座を作った年は免除されて、翌年からと言う事になります。お作りしますか?」


「はい、お願いします」


「では、これに必要な情報を書き込んでいただけますか? 文字が書けない場合は、こちらで代筆いたします」


「大丈夫です」


紙を受け取り周りを見回すと、近くに机と椅子が用意されている。

椅子に座り紙を確認すると、出身場所と名前と年齢を書く欄があるが他には何もなかった。

よかった、私でも口座が作れそうだ。


「出身場所は書かなくても良いぞ」


「え?」


「大丈夫だ」


「はい」


名前と年齢を記入して、カウンターに居るルギレットさんに持っていく。

記入された紙を見て、少し不思議そうな顔をしてオグト隊長を見るルギレットさん。


「村の村長に問題があってな、逃げているから場所は空欄だ」


「分かりました、ではこれで処理いたしますね」


通ってしまった。

問題にならないのだろうか?

心配になってオグト隊長を見ると、視線に気がついて私の頭を優しく撫でる。


「領主や村長が問題を起こすと、被害に遭うのは村民だ。逃げて来た村民を守るために、商業ギルドが出来ると同時に、名前と年齢だけで口座が作れるように法律が出来たんだ。冒険者ギルドに口座を作った事で、居場所がばれて財産が領主に奪われるなんて事が結構あってな。それを防ぐためだ。ただし、口座を作るには、その人物を保証する人が必要だが」


「保証する人?」


「あぁ、その人物が居た村の現状を知っている者、もしくは俺のように情報を知ることが出来る者だな」


なるほど、オグト隊長にはお世話になりっぱなしだな。

それにしても、ラトミ村はそんなにひどい状態なのかな?

親しくしていた人はいないから、特に何も思う事は無いけど、なんだかな。


「準備が出来ました。ではこちらに血を1滴もらえますか?」


「はい」


白いプレートの上に、丸い透明の物が置かれている。

これは、何をどうすればいいのだろうか?


「凹んだ部分がございますので、そちらに指を入れてください。小さい針が付いていますので、少し痛みがありますが、よろしくお願いいたします」


透明の物をよく見ると、確かに凹んだ部分があった。

そっと指を入れてグッと押し付ける。

痛みはそれほどなく、すぐに白いプレートが光って名前と年齢が浮かび上がった。


「ありがとうございます。こちらがプレートとなります。入金方法などをご説明いたしますか?」


「それは俺がするから大丈夫だ」


「そうですか? では、よろしくお願いいたします。ご利用ありがとうございます」


プレートに文字が浮かび上がった事に驚いている間に、話が終わっていた。

差し出されたプレートを受け取り、小さく頭を下げた。


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