51話 懸賞金
「驚いたか?」
「はい。魔物の情報料より少ないと聞いていたので」
「通常はそうなんだ。今回は捕まえた4人のうちの2人が、殺人で指名手配されていてな」
「えぇっ!」
「仲間割れを起こすように誘導していたんだが、その内の1人が『仲間に人を殺した奴がいる。俺はそいつに脅されていたんだ』とか言い出してな。あの時はさすがに驚いた」
「はぁ」
「そいつの言う男を調べたら、殺人で指名手配されている人物と、顔や背格好が似ている。なのに名前が違う。おかしいと思って名前を調べたら、家族から捜索依頼が出ていた。一番背の高い男なんだが、覚えているか?」
「はい、一番雰囲気が怖かった人だと思います」
「そうか。その男を調べたら、名前の奴は死んでいる事が分かってな。殺して名前を奪ったそうだ。本名だとすぐに足がつくからな。でもそいつを取り調べていたら『俺だけじゃねぇ、あの女もだ』とか言い出してな」
「はぁ」
「取り調べ、大変だったよ」
「お疲れ様です。指名手配されていたから高額なんですか?」
「ん? あぁ、それもあるが2ラダルはギルドからだ。殺人を犯した2人には、懸賞金がかかっていたからな。懸賞金は1人1ラダルで2人だったから2ラダル。謝礼金は通常1人500ダルなんだが、殺人犯だった2人が1ギダルずつで、残り2人が500ダルずつになって、合計3ギダルなんだ」
「……あの、私はギルドに登録していませんが、大丈夫ですか?」
「えっ、そうなのか? あぁ、でもこの懸賞金は別に登録していなくても支払われる物だ」
「そうなんですか。それにしても、懸賞金まで出ていた人達に狙われたんですね。捕まってよかった」
「殺しをした2人は解放なしの奴隷落ち。残り2人も長期の奴隷落ちが決定したから、もう安心だ」
「はい」
「それにしても今回は占い師のアルトラがいなかったから、確認に少し時間がかかっちまった。遅くなって悪いな」
「いいえ。あの……」
「どうした?」
「占い師のアルトラさんがいると、もっと早く判ったんですか?」
「あぁ、占い師スキルを持っている者は、人の判定が出来るんだ。星が1つだと嘘をついているか、ついていないか。星が2つだと罪を犯していないか、判断出来るからすごいぞ。星が3つだと誰が何をしたのかまで判るらしい」
「そうなんですか」
「この村の占い師のアルトラは星を2つ持っているからな、嘘をついてもばれる。優秀な人でな、罪の種類も大まかに判断してくれるんだ。いつも頼り切っていて申し訳なく感じるよ」
「すごいですね」
占い師にそんな仕事があることは知らなかったな。
助けてくれた占い師はいろいろ話をしたけど、あまり仕事については話してくれなかった。
特産品にかかわっている事も知らなかったし。
「そう言えば、ギルドに登録はしていないのか?」
あっ、ちゃんと説明しないと。
「はい。えっと、私ラトミ村から逃げて来たので」
「逃げて? 口減らしではなく?」
「はい、黙っていてすみません。家族が村長寄りで、私は村長からその……要らない存在だと……」
「そうだったのか。幼いのに逃げるしかないなんてな、あそこの領主は何をしているんだ!」
領主って確か村を治めている人だよね。
村長と、かなり仲が良かったけど。
遠くから見たことがあるけど、正直近づきたくない雰囲気だったな。
「しかし逃げているなら、ギルドへの登録は成人してからの方がいいだろうな」
「成人してからですか?」
「未成年の場合は、親がいる村に報告される事がある。事情を説明して報告されないようにすることも出来るが、何処で漏れるか分からないからな。ラトミ村が変われば問題ないが、入ってきている情報では期待が出来ない」
報告。
あっ、成人しても登録は出来ないのだけど。
「アイビーはいくつだ?」
「8歳であと1ヵ月ほどで9歳です」
「そんな幼いのに、すごいなアイビーは」
「いえ、そんな事は」
「お、話が随分と脱線しているな。えっと、何だっけ? あぁ、そうだお金を渡さないとな」
机の上に準備してくれていた金貨2枚と銀貨3枚。
2回目の金貨の登場。
テントを買ったお店の親父さんにもらった、小さいマジックバッグを取り出す。
中にお金を入れて、少し大きめのバッグに入れて腰に巻きつける。
冬までにお金を貯めるって決めているけど、大金になってきているから不安だ。
旅の道中、もっと気を付けないとな。
「ギルドで口座は作っていないのか?」
「えっ?」
「ん? お金持ち歩くの心配だろう?」
「あの、ギルドに登録しないとお金は預けられないのでは?」
「えっ? いや、そんなことは無いぞ」
えっ?
どういう事?
あれ?
私の知っている知識って間違っているのかな?
「冒険者ギルドでは確かにそうだが、商業ギルドの方は登録は必要ないぞ」
「商業ギルドで口座?」
商業ギルドで口座が作れるの?
「とりあえず、お金はそのまま持っていると危ないからな。預けに行こう」
「商業ギルドでは、登録しなくてもお金を預けられるのですか?」
「あぁ、商売をするなら登録は必要だが、しないだろ?」
「はい」
「なら口座を作るのに個人を判断するための血が1滴必要だが、それだけだ」
「そうなんですか、商業ギルドでも口座が作れるとは知りませんでした」
「あ~、商業ギルドはまだできて10年目ぐらいか。王都や町、それと大きな村にしかまだないからな、詳しく知られていないのだろうな」
なるほど、人が多い場所にしかないのか。
にしても自分の口座か、うれしいな。