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48話 ノノシの串焼き

ものすごく疲れた顔のヴェリヴェラ副隊長。

少し呼吸も乱れている。

もしかしてオグト隊長を止めるために探していたのだろうか?

もしそうなら、なんだか申し訳ないな。

私の視線に気がついたのか、苦笑いされた。


「いつもの事だ。こいつが暴走して俺が止めるのは。他の奴は、やりたがらないからな」


「なんだその言い方は、俺がいつも暴走しているように聞こえるが?」


「自覚してくれ」


ヴェリヴェラ副隊長の言葉に、眉間にしわを寄せるオグト隊長。

何だかいい関係だな。


「あぁそうだ、アイビー。お詫びに食事をおごるよ」


「えっ! いいです、そんな。ただ、あまり私の事を言いふらさないでいただければ」


「あ~、それなんだが……」


ばつの悪そうな顔で目線が泳ぐオグト隊長。


「?」


「とっとと白状しろ」


「悪い! 仲間全員に流しちまった」


「……手遅れ?」


「アハハハ……すまん」


「悪い、まさか全員に伝わっているとは思わなかった」


「本当にすまん」


オグト隊長が頭を掻きながら、小さく頭を下げる。

悪気があったわけでは無い。

逆に力になってくれようとしたのだ。

とは思うが……全身から力が抜けそうだ。


「大丈夫です。心配してくれての事ですし」


「で、お詫びにおごるよ」


「でも」


「この村の名物があるんだが食べたか?」


「名物? いいえ?」


「ノノシの串焼きだ。いっぱい食えよ!」


「え?」


決定?

私の手を掴んで、ゆっくりと広場へ向かって歩き出す。

前回の事があるので掴んでいる手は緩く歩きもゆっくりだ。

ただ、奢ることは決定しているようだ。

後ろについて来ているヴェリヴェラ副隊長を見る。


「おごって貰えって。ノノシうまいぞ」


これについては止めないらしい。

確かに、気になるな。

旅の中では干し肉か、野ネズミを焼いて塩を振った物だけだったし。


「楽しみです」


私の言葉にオグト隊長が破顔して頭を撫でた。

それにはちょっと驚いた。

頭を撫でられたのなんていつ振りだろう?

……思い出せないや。


「どうした?」


「いえ、お腹が空いたなって……」


私の表情を見てヴェリヴェラ副隊長が声をかけて来る。

ちょっと感傷的になってしまった。

もう、捨てた過去だ。

屋台が並んでいる通りに来ると、食べ物の良い匂いに食欲がわく。

今まで寄り付かなかった場所だ。

オグト隊長は一軒のお店に一直線。


「よっ!」


「オグト隊長じゃないか……隠し子かい?」


「ハハハ、可愛いだろう」


「えっ? はっ? えっ?」


隠し子?

何?


「はぁ、困らせるなって言ったばっかりなんだが」


「おお、わりぃ。冒険者のアイビーだ」


「えっと、初めまして」


「ノノシの串焼き屋の女将のテグラだ」


「随分と可愛らしい冒険者だね」


「女将、10本くれ」


「はいよ」


女将のテグラさんが、串に刺さったノノシを網に乗せて焼いて行くのを見る。

……デカい。


「大きいですね」


「そうか? 10本ぐらい食えるだろう?」


「えっ! 無理です。無理です」


「……無理? 何本ぐらいだったら食える?」


「えっと」


焼かれているノノシを見る。

私の拳ぐらいのお肉が2個串に刺さっている。

どう見ても2本、もしくは3本が限界だ。


「2本か3本ぐらいだと」


「な、少なすぎるだろ!」


「でも、お肉が大きいですし」


やっぱり3本が限界だ。

それでも食べ過ぎだと思う。

お肉が焼かれていくと黒いソースが塗られる。

それが火にあぶられて食欲をそそる香りが辺りに広がる。

美味しそう。

お肉から、目が離せない。


「冒険者とはいえまだ小さいんだ、10本は無理だろう」


「そうか? 前の奴は10本以上食ったぞ」


「あいつとアイビーの体格差を考えろ」


「隊長、どうするんだい? もう焼いちゃったよ」


「ハハハ、女将7本と3本に分けてくれ」


「了解」


焼かれたお肉が見た事の無い葉っぱで包まれる。

何の葉っぱだろう?

女将のテグラさんは、3本を包んだ物と7本を包んだ物をオグト隊長に渡す。


「ほら」


オグト隊長から3本入った包みを渡される。


「ありがとうございます」


「いいって、元はと言えば俺が原因だしな」


「確かにな」


屋台が並んでいる場所には椅子とテーブルも設置されている。

そこへ向かっている途中、オグト隊長とヴェリヴェラ副隊長が隊員に呼ばれた。

どうやら問題がおきたらしい。


「悪いアイビー。仕事が入った」


「いえ」


「あ~……1人だと危ないな」


「あの、広場に戻って食べますから」


「大丈夫か?」


「はい。お仕事頑張ってください」


「いい子だよな~」


と、言いながら頭を撫で回す。

髪がすごい事になっていそうだな。


「悪いな。行くぞ」


「じゃ、またな」


「はい。また」


会話だけ聞いているとヴェリヴェラ副隊長の方がえらく感じるな。

広場へ向かって歩くと、手元のお肉からいい香りが……。

ちょっと急ぎ足で広場へ戻った。


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