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41話 狙われたテント

テントは想像以上に快適で、ゆっくりと睡眠を取ることが出来た。

気を緩め過ぎてしまったような気がする、気を付けないとな。

ソラをバッグに入れて簡易調理場へ向かう。

お湯を沸かして、森でとってきた茶葉を入れてお茶を作る。

朝から温かいモノが飲めるのはうれしい。

森の中だと、朝起きたらまず移動する。

危険を避けるためなのだが、慣れたとはいえ寝起きには結構つらい。

テントに戻って一息ついていると、数名の冒険者が近づいて来るのが見えた。

何だか険悪な雰囲気で怖い。


「おい!泥棒!」


「え?」


男性の冒険者2名と女性の冒険者2名のおそらくチームだろう。

そんな彼らの中の1人が、私に向かって怒鳴り声を上げた。

周りにも響く声だったので、ざわついていた広場が一瞬で静まりかえる。


「これで間違いないのか?」


「あぁ、間違いない。このテントは俺のだ!こいつ盗みやがった」


男性は、周りに響くほどの大声で怒鳴りつける。

何を言っているのだろう?

このテントは昨日私が購入したもので間違いない。

親父さんがどんな人かは分からないけど、人の物を盗んで売るような人ではないと思う。


「正直に言え!盗んだな!」


あまりの怒鳴り声に体がびくつく。

でも、違う。

私は盗んでなんていない。


「盗んでいません。これは私が買ったテントです」


「お前みたいなやつが買えるテントじゃないんだよ!嘘つきが!」


最初に怒鳴った男性が、私の首元の服を掴む。

体が少し宙に浮く。

怖い、怖い、怖い。


「まったく。どういう育ち方をしたらこんな嘘つきに育つわけ?」


「本当にね。嫌だわ~」


女性の冒険者が、私を見て嘲笑っている。

周りの冒険者たちも騒然としている。

怖さで体が震えだす。

悪い事はしてないから泣きたくないけど……。

涙で視界が滲みだす。


「何をしている!」


私の服を掴んでいた手をはたき落としながら、1人の男性が間に入ってくれた。

男性を確認すると、許可板を私に渡してくれた広場の管理人さんだ。


「こいつを捕まえろよ!」


「仲間のテントをそいつが盗んだ。訴えるから捕まえろ」


そんな。

どうしよう。


「印は?」


「買った後すぐに盗まれたから付けてない。でも、間違いなくこれだ!」


「どうしてわかる?」


管理人さんと冒険者たちの話を聞きながら、どうしていいか分からず困惑する。

管理人さんが彼らの言い分を信じてしまったら、どうしたらいいのだろう?


「こんなガキが、このテントを買えるわけないだろ?常識で考えれば分かる事だ」


「それだけか?」


「それだけ?充分だろうが!」


「そうよ~。仕事してよね」


「ほんと、ほんと」


管理人さんまで悪く言われてしまった。

悔しい。

……テント、諦めた方がいいのかな?


「このテントはこの坊主の物だ」


え?


「はぁ?」


「なんだと!盗まれたって言ってんだろうが、そのガキに!」


「何処でお前はテントを購入したんだ?」


「バキの店だ」


「あそこは新品だけを扱っている店だな」


「あぁ、何なんだよ」


「このテントは中古だから、お前たちの探してる物とは違う」


「そんな訳ないだろ!そのテントは新商品だぞ!ふざけんな!」


「これは、ラグの親父の店の中古品で間違いない」


ラグの親父の店?

親父さんの事かな?

でも、どうしてこの人が知っているのだろう?


「ちなみに、坊主にその店を紹介したのはオグト隊長とヴェリヴェラ副隊長だ」


「「「「「え!」」」」」


隊長さんと副隊長さんだったのか。

そう言えば、驚いたりバタバタしたりで自己紹介するのをすっかり忘れていた。


「もう1度聞く。テントが盗まれたのは本当の話か?」


「えっあ…いや。勘違いかな?」


「お前たち、詳しく話を聞きたいから一緒に来てもらおうか」


「い、いや。俺たちの思い違いだ。もう問題ない」


「残念だが、俺には聞きたいことが沢山ある。逃げるなら容赦しないが?」


冒険者たちを囲うように、管理人さんの仲間が現れる。

それを見た彼らは逃げようとしたのだが、すぐに捕まって連行されてしまった。


「あの、ありがとうございました」


「いや、すまないな。少し来るのが遅くなってしまった」


「いえいえ。とても助かりました。あの……どうしてテントが私のだと?」


「親父の店に入るのを、ちょうど見かけたんだ。そのあと隊長に会ったんだが、坊主の事を聞かれてな」


「?」


「ククッ。坊主が1人で、テントを張れていたか気にしていた」


気にしてくれていたのか……何だかちょっと恥ずかしいな。

会ったらもう一度お礼を言おう。


「怪我とかしていないか?」


「はい。大丈夫です」


「そうか。よかった」


管理人さんが仕事へ戻って行くのを見送ってから、もう一度休憩する。

先ほどの事で、体がまだ少し震えている。

ゆっくりとお茶を飲んで、深呼吸。

はぁ~、管理人さんがいてくれてよかった。


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